転生先は森の中(1-6)

それから30分後。


野営ができそうな場所を見つけた僕は、さっさと夕食を食べて寝ることにした。


太陽はすでにほとんど空から消えており、木々の葉の間からかろうじて月が昇っているのが見えた。


──完全に消える前に、いろいろ準備をしないとな。


そう思って、僕は【アイテムボックス】から前もって拾っておいた木の枝を何本か取り出し、丁寧に地面に置いた。


そして……


「【燃やせ、火種】」


簡単な火起こし用の炎属性の魔法を使って、枝に火をつける。これで焚き火が完成だ。


その後、肉を焼くための準備をするのだが、せっかく洗った肉をまた汚すわけにはいかない。


仕方ない、串を作ろう。


そう決めて、地面にあった岩を拾い上げ、【抽出】で酸化アルミニウムを取り出す。それから次々と無害な岩を拾い、酸化アルミニウムを取り出す作業を繰り返した。


十分に集めたら、【変形】を使ってアルミニウムを金属製の串に変える。


その後、焚き火に枝をくべて火力を上げる。


すると、【アイテムボックス】からイノシシの肉を数切れ取り出し、それらを串に刺して焚き火の周りに並べる。この時点で薪の火力はかなり強くなり、5分も経たないうちに、肉はじゅうじゅうと音を立て始めた。


……


さてと、そろそろだな。


夜になると気温が一気に下がる。特に秋から冬にかけては顕著だ。


少しでも暖かく過ごしたいなら、やっぱりテントや寝袋が必要だな。


恐らくここにはテントを作るのに十分な素材はないだろうから、できるのは毛布や寝袋を作ることくらいだ。


とはいえ、毛布だけを作って地べたで寝るのは、どうも痛そうだな。いや、なんだろう、その感覚。


ということは……寝袋を作るしかないな。


寝袋を作るには、必要な素材はたったひとつ。それは糸だが、1本や2本では足りないだろう。おそらく100本以上は必要だ。


このあたりはツル植物が豊富なので助かるけど、寝袋作りには非常に多くの時間がかかるという事実に変わりはない。


まあ、愚痴を言っても仕方がないから、早速始めることにしよう。


そう決めると、肉が焼けているうちに、近くの木々に巻きついていたツル植物を多く集め、【抽出】で繊維を取り出し、それらを編み始めた。


編んでいるうちに、肉がちょうどいい感じに焼けてきたので、一旦寝袋作りを中断して、肉を食べることにした。


火傷しないように手を魔力で覆い、串を手に取って一口食べる。


──うまい。


味付けはしていないけど、イノシシが自然に分泌する脂で補えて、十分に美味しい。それに、何となくベーコンの味もする。


そんなことを考えながら、イノシシの肉を食べ終わった後、再び寝袋作りに取り掛かる。


本当に大変だな、これ。でも仕方ない。


僕は暖かく夜を過ごしたいんだ。


そう思いながら、寝袋を編み続けていた。


──そして、ちょうど日が地平線の下に完全に消えた頃、ようやく寝袋が完成した。


寝袋を地面に敷き、寝る準備を素早く始める。


弓と矢筒だけを取り外して、寝袋の近くに置いた。魔物が襲ってくることはないだろうが、念のため、手を伸ばせばすぐに取れる場所に置いておく。


その後、焚き火が山火事を起こさないように消し、黒革の軽鎧を着たまま寝袋に入った。


……そしてすぐに、暖かさが身に染みるのを感じた。寝心地が悪いだろうと思っていたが、意外と快適だ。


それにしても、やっぱり今でも信じられない。


僕が異世界に転生したんだ。


まあ、考えていても仕方ない。


もしこれが夢なら、そう長くは続かないだろう。1日経って目が覚めなければ、ここが異世界である可能性が高い。


夢なら問題ない。普通に目が覚めて、学校に行って…と思ったら、夏休み中だ。


じゃあ、それでいいか。


それでも、根拠はないけど、なんだかここは異世界のような気がする。


……まあまあ。


とりあえず、寝よう。


明日目が覚めたら、夢か異世界かすぐに分かるだろう。


そう決めて、夜空に浮かぶふたつの月を見上げる。


しばらく見上げているうちに、徐々に眠気が襲ってきた。


その眠気に抗うことなく、僕は目を閉じ、全身をリラックスさせた。


思ったより、随分眠かったようだ。


そのまま、明日のことを考えながら、僕はやっと眠りについた。

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