第5話 ダンジョン
「あのさ、全然違う質問なんだけど。このダンジョンって、どうやって作られたの?」
俯いて歩いていて、ふと気になった。
このダンジョンは“綺麗“過ぎると。
石畳の床は水準が保たれている。
ダンジョンと言えば凸凹していたり、ちょっと傾斜していたり、山道みたいな感じじゃないのか?
しかし、このダンジョンは全然違う。
見渡す限り道はまっすぐ綺麗に作られている。
ビルや学校の廊下のように足元を気にすることなく歩くことができる。
オレが住んでいた周辺の道路でさえ、多少は凸凹していたりちょっと斜めに傾いていたりしていたのに。
足元はもちろん、壁や天井も歪みなくまっすぐ石畳が敷き詰められている。
まるでピラミッドみたいだ。
ドラゴンと戦った空間は、柱もない広い空間だった。
普通なら天井が崩れ落ちてもおかしくない。
そして、魔法か魔道具なのだろうか。
廊下には等間隔に照明のようなものが灯されている。
魔獣やドラゴンの住処のはずなのに、人間のために作られたダンジョンと言えなくもない。
元の世界の技術を持ってしても、このダンジョンを作るのはかなり大規模な事業になるんじゃないだろうか。
「このダンジョンはね、誰がいつ作ったのか分からないの。文献では500年前には既に存在していたみたいよ」
「500年も前から?」
キルケーの言葉を聞いてびっくりした。
500年も前にこんなダンジョンを作るって……。
この世界って、もしかして前の世界より遥かに文明が進んでいるんじゃないのか?
「あと、今の技術ではこのダンジョンを作ることは出来ないの。いったいどうやって作ったのか、いくら調べても作り方に関する文献は出てこないらしいわ」
「そうなの!? 」
ロストテクノロジーってやつなのか?
ますますピラミッドみたいだ。
大昔に存在していた技術が伝承されることなく衰退したって話はいくつか聞いたことがあるけど、どこの世界も同じなんだな……。
「ただ穴を掘るだけなら土属性の魔法で何とかなるんだけど。でも10階層分となるとかなり高度な魔法でも不可能みたいなの。3階層くらい掘り進めると天井が崩れ落ちるんだって。それと、ドラゴンや魔獣がなぜ出現するのかも全く分かっていないわ」
本当に謎だらけのダンジョンのようだ。
「そっかぁ。でも”ラスボス”は討伐したから、もう大丈夫なんだよね?」
「ん? らすぼす?」
「あぁ、え〜と、ドラゴンのことだよ」
ダンジョンの最下層に現れる最後の敵。
やっぱり”ラスボス”と言う方がしっくりくるのだが……。
「マサヤのいた世界では、ドラゴンのことをラスボスって言うの?」
「ん〜と。こういうダンジョンの最下層に現れる最後の敵のことをラスボスって言ってたんだ。気にしないで……。ドラゴンは倒したから、もうこのダンジョンは安全なんだよね?」
ドラゴンは討伐したんだ。
このダンジョンの脅威は無くなったと言える。
「ううん、違うの。ドラゴンは何度でも現れるわ。ここはね、冒険者のための最終試験の場として利用されているの」
「え……? どう言うこと???」
ドラゴンは何度でも現れる?
何のことだかサッパリ分からない……。
「特級冒険者となって勇者や賢者を名乗るようになると、あの部屋に行ってドラゴンと戦うの。それが冒険者としての最終試験」
「冒険者のための最終試験?」
「既にドラゴンを討伐したことがある人があの部屋に行っても空っぽのままなの。でも、ドラゴン討伐未経験者があの部屋に行くとドラゴンが現れる。そして、冒険者パーティよりも必ず強いドラゴンが現れるの」
「ええ? 何それ?」
「不思議でしょ? 現れるドラゴンは必ず自分たちより強い。だから、ただ攻撃するだけじゃドラゴンは倒せないの。パーティで作戦を立てて連携した攻撃が必要。さっきみたいに闇雲に攻撃を仕掛けるだけじゃ必ず負けるわ。最終試験は強さだけが試されるわけじゃない。強い敵を前にしても動じず、冷静に対処できるか。剣術や魔法はもちろん、勇気や冷静さも含めた総合力を試されるの」
「さっきの勇者たちは冷静さと連携が欠けていたと言うことか」
あの三人に冷静さは無かったし、連携した動きが取れていたとも思えなかった。
勢いだけで力任せに攻撃をしていたように見えただけだ……。
「ドラゴンの部屋に到着するまでは、普通に連携取って魔獣を討伐できていたんだけどね」
「え? 魔獣?」
「ダンジョンは10階層まであるんだけど、階層に応じた強さの魔獣がいるの。魔獣を倒しながら1階層から10階層まで進んで行って、最後にドラゴンと戦う。これが冒険者の最終試験よ」
「ちょっと待って。このダンジョン魔獣が出てくるの?」
のんびりダンジョンを歩いていたが、魔獣が出てくるなんて聞いていない。
いきなり襲われたりするのか?
だとしたら“デート“どころでは無くなるんだが……。
「大丈夫よ。ドラゴンを討伐したらしばらくは魔獣は現れないから。冒険者のために作られたって言えるでしょ? もう本当に謎だらけのダンジョンなのよ」
『賢者』であるキルケーが謎だらけって言ってるんだ。
オレなんかがダンジョンのことを理解しようとするのは無理なのかもしれない。
実際、聞けば聞くほど謎が深まるばかりだ。
“ゲームっぽい“と結論づければ、全てが腑に落ちて解決しそうだが……。
「こんな広い空間が10階層もあるのか……。ドラゴンの部屋にたどり着くだけでも大変そうだね」
「魔獣を倒しながら進んでいくので、ドラゴンの部屋にたどり着くまで1週間から10日間は掛かるかな。結構疲れた状態でドラゴン戦を迎えることになるの。ドラゴンを討伐したらダンジョン内の魔獣も消えてくれるから、後のことは考えずに全力でドラゴン戦に挑めるんだけどね」
本当にゲームみたいな空間だな。
人間に都合よく作られたダンジョン。
何度でも現れるドラゴン。
ラスボス(ドラゴン)を討伐したらダンジョン内の魔獣は姿を消す……。
何だか出来過ぎなような気がする。
「あと、ごめんね。私テレポートの魔法は使えないから歩いて出るしか方法がないの。テレポートの魔法が使えたら、一瞬で街まで戻れたんだけど……」
「ううん、いいよ。でも、あの魔法は本当に便利だったね。覚えるのは難しいの?」
キルケーがテレポートの魔法を使えないおかげで、こうして“デート“が出来ているんだ。
文句なんて無い。
むしろ『ありがとう!』と声を大にして感謝を言いたいくらいだ。
「流石に簡単じゃ無いけど、そこまで難しい魔法でもないわ。私の場合は、ただ覚えなかっただけなの」
「そうなんだ。そのおかげで、こうして色々なことを聞くことができているからね。あの魔法を使えるのは勇者だけなの?」
他の二人は使っていなかったけど、覚えていないのか使わなかっただけなのかは分からない。
「私のパーティでは勇者だけが使えたわ。本当はみんなが使えた方が便利なんだけどね」
そう言うとキルケーはにっこり微笑んだ。
自分の不勉強さを自覚して、あえて笑ったように感じた。
「そう言えばさ。勇者って“国の英雄“みたいな存在じゃないの? あと、賢者も“歴史に残る偉人“みたいなイメージなんだけど」
「え? 全然違うよ。勇者も賢者も“ただの冒険者“だよ」
勇者も賢者も”ただの冒険者”?
どう言うことだ???
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