第6話 勇者と賢者
「勇者も賢者も“ただの冒険者“???」
“ただの冒険者“ってどう言うことだろう。
キルケーの言い方だと『別に全然大したことないよ』って感じに聞こえる。
でも、さっきの勇者はものすごく身分が高いような振る舞いをしていたんだよな……。
「冒険者No1の肩書きが“勇者“と“賢者“よ」
(あれ? それって、やっぱり凄いんじゃないの?)
「冒険者には初級・中級・上級の 三つのランクがあって、その上の特級冒険者に位置づけられるのが勇者と賢者よ。特級冒険者は勇者と賢者の二人だけ。明確な区別は無いんだけど、攻撃タイプが勇者、支援タイプが賢者を名乗ることが多いわ」
「じゃあ、キルケーは支援型の冒険者の中で一番の実力者ってこと?」
「うん。まあ、そんな感じかな」
「え? それってやっぱり凄いことなんじゃ無いの?」
冒険者がいったい何人くらいいるのか知らないが、冒険者の頂点ってことだ。
No1だと言うのなら十分凄いことだと言える。
キルケーは全然大したことないという口ぶりだけど……。
さっきの勇者を名乗る男と、賢者であるキルケーの態度が正反対すぎてどっちの姿が普通なのか分からない。
「さっきドラゴン討伐が冒険者の最終試験だって言ったでしょ? 特級冒険者、つまり勇者と賢者を名乗るようになったらパーティを組んでドラゴン討伐に挑むの。そして、無事に討伐できたら試験合格。正式に騎士として国王様から任命されるの」
「あー、なるほど、そう言うことなんだ。だとしたら、王都の騎士はみんなドラゴンを討伐した人たちってこと?」
つまり、王都の騎士たちはむちゃくちゃ強いと言うことだ。
「うん。ほとんどの人はドラゴン討伐経験者だそうよ。ごく稀に別の手段で強くなり過ぎてドラゴン討伐を免除される人もいるみたいだけど。その人たちが初めてドラゴンの部屋に行っても、ドラゴンは出てこないんだって」
「それはそれで、化け物じみてるね」
どの世界にも、常識が通用しない化け物みたいな人は存在するようだ。
「そう。王都や王城を守るわけだから、それくらい強くないといけないってことなんだと思うよ。だから、勇者や賢者って全然大したことないの」
確かにそう言われると、勇者や賢者って大したことないように感じる。
プロとアマチュアくらい差があるってことかな。
「この国の勇者は『勇ましいかもしれない者』のことで、賢者は『賢いかもしれない者』ってことね」
そう言うと、またキルケーがにっこり笑った。
『ね、全然大したことないでしょ?』と言わんばかりだ。
もう、勇者や賢者の肩書きがかなり微妙な存在のように感じてきた。
凄いことは凄いけど上には上がたくさんいるよってところは、どこの世界でも同じのようだ。
この国の勇者と賢者についてはよく分かった。
でも全然分からないのは、さっきの勇者たちの行動だ。
明らかにオレとキルケーを殺そうとしていた。
「さっきの三人、勇者たちはなぜオレたちを殺そうとしたのかな」
「ドラゴンの部屋に入ってから明らかに様子が変わったの。冷静さを失ってドラゴンを倒すための連携が取れなくなっただけじゃなくて、私に対しても殺意を向けてきて……。あの時の私は、ドラゴンに殺されるか勇者たちに殺されるか二つの選択肢しか無かった。本当に死を覚悟してしまって、最後の手段として召喚魔法を使うしかなかったの」
召喚魔法でオレを呼んだ経緯は何となく分かった。
キルケー自身が本当に絶体絶命の状況だったんだな。
「あいつら、倒れてるキルケーのことは全く気にしていない様子だったな。それどころか魔法で瓦礫をぶつけてたなんて。キルケーを殺したとして、あの三人でドラゴンを討伐できると思ってたのかな」
ドラゴンが四人で連携してやっと倒せるほどの強さだとすれば、仲間を殺すなんて自殺行為でしかない。
ましてや支援系のキルケーがいなくなったらどうするつもりだったのだろうか。
単に頭が悪いだけなのか、他に策があったのか、それとも……。
「キルケーやオレを殺すメリットって何かあるのかな? 例えばドラゴン討伐の報奨金とか」
「報奨金なんて無いわ。あるとしたらドラゴン討伐の栄誉かな? 王都で騎士として暮らせるようになることだけがメリットよ。だから私たちを殺したところで何も変わらないはず。デメリットしかないわ」
ますます分からなくなってきた。
キルケーを殺すつもりだったなら、ドラゴン討伐後でもできるだろうに。
「とにかく、お互い生きていられたことに感謝しなくちゃね。マサヤの回復魔法がなければ私は死んでたし、マサヤのガード魔法がなければやっぱり私は死んでいたわ」
「まあ、そこはお互い様だよね。オレもキルケーのアドバイスが無ければ何もできないまま殺されていただろうし」
「ほんと、生きていることが奇跡のようだわ」
勇者たちの行動も謎だけど、二人がこうしてい生きていることも不思議な感覚だ。
「もうすぐ8階層の階段よ。8階層で少し休んでいいかな?」
「うん。分かった」
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