第2話 ドロップアイテム
何時間くらい寝たのだろうか。オレは目を覚ました。
先程に比べると、いくぶんと頭の中はスッキリしている。
体の気だるさはまだまだ残っているが、今度は体を動かすことができた。
「ふぅ。今、何時だ? 」
右腕のスマートウォッチに目をやると『21:05』と表示されていた。
「うわぁ、21時か……。もしかして12時間近くも眠っていたのかな!? 」
今朝ジョギングしていたのが朝の7時ごろ。
それからこの世界に召喚されて、ドラゴンと戦って、勇者たちに殺されそうになって、あの少女……キルケーと少し話をして再び眠りについた。
「夢じゃない。現実だったんだな……」
一連の出来事を思い出して、夢じゃなかった事をしみじみと実感した。
キルケーの方を見ると、彼女はまだ眠っているようだった。
座ったまま壁にもたれかかって瞳を閉じている。
「オレ以上に、我慢していたのかな」
さっき目を覚ましたときはオレのことを心配しながら色々と話をしてくれていたが、彼女もかなり疲れていたのだろう。
召喚魔法でオレをこの世界に呼び、死にかけの状態でもオレにアドバイスをしてくれて、プロテクトの魔法まで唱えてくれていた。
そして、目が覚めた後はオレの体調を気遣ってくれて……。
オレとしても、キルケーには感謝しなければならない。
彼女の言葉が無ければドラゴン討伐は無理だっただろう。
オレはドラゴンの姿を見ただけで腰を抜かして現実逃避をしていたのだから。
何も分からぬまま呆気なく死んでいても不思議じゃなかった。
「さて、どうするかな……」
これからどうするべきか考えた。
まずはここから、ダンジョンから外に出なくては。
いや、そもそもの話、ここはダンジョンなのだろうか。
勝手にダンジョンだと思い込んでいるだけなのだが……。
そして、外に出たとしても、それから先はどうするのか。
これからオレはどうやって生きて行けばいいのか……。
この世界で生きていかなければならないと思ったら急に不安になった。
今までは日々の生活が保証されていたからこそ、引きこもりという自由気ままで優雅な生活を送れていたのだ。
部屋に閉じこもってアニメを観たり小説や漫画を読んだり好きなことをやっていれたのも、衣食住が保証されていたからだ。
この世界では明日生きていく手段すら決まっていない。
キルケーからアドバイスはもらうとしても、そもそもオレの身柄はどうなるのだろうか。
ドラゴン討伐の栄誉とかは無いのかな。
いや、そんな事よりも勇者はオレを殺そうとしたんだ。
ここから外に出ても命を狙われる可能性は十分にある。
そう考えると、これから生きて行く方法を考えるだけじゃなく、殺されない方法も考えなきゃいけないってことになる。
「はぁ……」
前途多難。
ドラゴンを討伐し終えた今も、まだまだ絶体絶命なのかもしれない。
「まぁ、いいか……」
色々と考えていたら不安になる。
考えるのはやめようと思った。
ジョギング中に身につけていたペットボトルを取り出して水を飲んだ。
「うまい……」
喉が渇いていたので、ただの水がいつも以上に美味しく感じた。
12時間くらい寝て、水分補給もできて、だいぶ体の調子も戻ってきたように感じた。
少しずつ頭がスッキリしてきて、改めて感じたことがある。
(臭いっ! 臭くて身体中がベタベタするっ!)
ドラゴンの血を全身に浴びたままの状態だった。
全身に浴びたドラゴンの血が強烈に匂う。
生乾きの血がベタベタして最高に嫌な感触だ。
今すぐにでもシャワーを浴びたい気分なのだが、残念ながらその願いは叶わない……。
「んんんっっ!」
シャワーを浴びることは諦めて、とりあえず大きく背伸びをした。
周りを見渡したが、ここは本当に大きな部屋だ。
ここに大きなドラゴンがいて、攻撃を避けるために走り回った。
地下にこれだけ大きな空間があるのが驚きだ。
大きな柱もない。
地震でも起きたら一気に天井が崩れてきそうな気がするのだが……。
「ん?」
部屋を見渡していると、ドラゴンの角が落ちていた。
(ドロップアイテムと言うヤツかな?)
どんなものなのかと近寄ってみることにした。
体はまだ少し気だるさが残っていて、立ち上がって歩こうとすると少しフラフラする。
風邪が治った後の病み上がりの状態に似ている。
こう言う場合は体を動かしていれば治るものだ。
(大きいな……)
落ちているのは角だけじゃなかった。
大きな角、大きな牙、大きな翼、そして大きな鱗が数枚。
ドロップアイテムというより、ドラゴンとの戦闘中に自分で剥ぎ取ったものだと分かった。
とりあえず牙を手に取ってみる。
「うわっ、軽っ。軽すぎる!」
50センチくらいの牙はずっしりと重たい物だと想像していたのだが、想定外の軽さにビックリした。
角も触ってみたが、こちらも想像以上に軽かった。
角は2メートルはあるだろうか。
自分の身長よりも確実に長いのに片手で簡単に持ち上げることができる。
「これくらい軽くないと、空は飛べないってことかな?」
大きな翼があるということは、あのドラゴンは空を飛べるということだろう。
角や牙、鱗が想像していた通りの重さだったら、重量オーバーで空なんて飛べないはずだ。
いや、それ以前にドラゴンは体そのものが大きいのだ。
骨と筋肉だけでかなり重たいはず。
角や鱗が軽いと言っても、あの大きな体で空を飛べるのってやっぱり普通じゃないように思えた。
「これって、価値あるのかな」
もし売れるのなら当面の生活費にはなる。
角、牙、鱗、どれも軽くて硬かった。
鱗はだいたい1メートル四方の大きさ。
赤黒い鉄板のように見えるのだが、持ってみると紙のような軽さだ。
それでいて硬い。
鱗は非常に薄くて簡単に折り曲げられそうに見えるのだが、実際に折り曲げようとするとビクともしない硬さだった。
軽くて硬い素材は価値が高そうだが、加工する技術があるのかどうか。
もし加工する技術があるのなら、間違いなく高値で売れるだろう。
「んんっ……、おはよう!」
キルケーが目覚めたようだ。
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