第二章 ダンジョン
第1話 自己紹介
【第二章】は、ゆっくりまったり展開です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
頭がぼーっとする……。
意識が朦朧とする……。
徹夜明けの状態で、さらに熱中症にでもかかったかのような最悪の気分。
オレはそんな気だるさの中で目を覚ました。
「大丈夫ですか?」
意識がまだハッキリしていない中で声をかけられた。
声がした方を見ると少女がこちらを覗き込んでいる。
瑠璃色(*)の長い髪、大きな瞳、目鼻立ちが整った綺麗でかわいい顔……。
そんな少女には似合わず、顔は血で汚れており髪は少し焦げている。
白を基調とした服も血まみれだ。
「あっ! 」
隣に座っている少女に見惚れていたが、ドラゴンを討伐しているときに倒れていた少女だと気付いた。
「大丈夫ですか? 」
もう一度、少女が話しかけてきた。
「あぁ、大丈夫 ……です」
そう返事をして起き上がろうとしたが、体に全く力が入らない。
全身の力が抜けているような感覚。
脳からの司令に体が全く反応してくれなかった。
「おそらく今は体を動かせません。傷は全て回復魔法で治しましたが、魔法を使いすぎたせいで体は自由に動かせないはずです。大丈夫ですから、そのまま横になっていてください 」
「いや、大丈夫だよ……」
そう言って無理やり体を起こそうとしたが、やっぱりダメだった。
生まれて初めての感覚。
動きたくても動かせない。
金縛りってこんな感じなのかなと思った。
見知らぬ少女を目の前にして、横に寝たまま話をするのはものすごく抵抗がある。
でも仕方がない。本当に体がいうことを聞いてくれないのだ。
少女の言う通りしばらく寝たままでいることにした。
「しばらく休んでいれば体は動かせるようになります。今は無理をなさらずに」
「ありがとう。そうするよ……」
不思議な感覚だった。
今までの引きこもり生活では、一年近くほとんど誰とも会話をしてこなかった。
食事をするときも、寝るときも、朝起きたときも、オレはいつも一人だった。
でも今は違う。
目が覚めたとき、そばに少女がいてくれた。
オレに話しかけてくれる。
オレの体のことを心配してくれている。
すごく些細なことかもしれないけど、なんだかとても幸せな気分だなと思った。
「君は、大丈夫? 」
オレのことを心配してもらっていたが、少女の怪我は大丈夫なのだろうか。
どちらかと言えば彼女の方が心配だ。
「私は大丈夫です。おかげさまで怪我は完治しています。命を助けていただいてありがとうございました。」
そう言うと、少女は座ったまま深々と頭を下げた。
「私の名前はキルケーと申します。冒険者をしています。あなたのお名前を聞いてもよろしいですか? 」
キルケーか。
何だかカッコいい名前だなと思った。
響きも良いし、覚えやすい。
聞き慣れない名前だけどこちらの世界では一般的な名前なのか、それともやっぱり珍しい名前なのだろうか……。
「オレの名前はマサヤ。歳も近いみたいだし、普通に話してくれて大丈夫だよ」
年は同い年か、少し年下のように見える。
ものすごく丁寧な話し方をしてくるので、何だかこちらが緊張してしまう。
「二度も命を救ってもらえたことは本当に感謝しています。どちらの場合も私は死んでておかしくない状況でした」
「二度も? 二度目は魔法使いの攻撃のことかな? あのときオレはなんの役にも立っていないよ? 」
「いえ。あの時、咄嗟にガードの魔法を唱えてくれましたよね。そのおかげで命拾いできました。もしガード魔法が無かったらアッサリと殺されていたと思います」
そう言うとキルケーは微笑んだ。
自分が死にそうになった話をしているのに、こんなにも普通に笑えるものなのか?
「ガードの魔法は、あの炎の魔法ですぐに掻き消されてしまったんだけどな。あれで本当に効果あったのかな?」
「はい。ガードの魔法と私が事前に唱えていたプロテクトの魔法で、ギリギリ凌げることができたようです。お互い服が燃えていないのもプロテクトの魔法のおかげです」
確かに。炎に包まれたはずなのに服が燃えていない。
キルケーの服が燃えていたら大変なことになっていたな……。
「オレにもプロテクトの魔法を? いつの間に……」
そんな魔法を唱えてもらった覚えは無いのだが……。
「回復魔法で治療をしてもらったときに。ごめんなさい。ずっと意識はあったのですが、体を動かすことも声を発する余力もなくて。あの時はプロテクトの魔法を唱えるのが精一杯でした」
瓦礫が直撃して流血していた時か。
あんな状況でオレのために魔法を唱えてくれていたとは……。
瀕死の重症で意識なんて無いと思っていたのに。
あの状況で意識を保っていられるなんて相当な精神力だなと思った。
「最後の魔法攻撃の時も意識はあったのに何もできませんでした。でもマサヤも私も死ななくて本当に良かった」
「いや、こちらこそ礼を言うよ。あんな状況でオレに魔法を唱えてくれてたなんて」
あの時の”咄嗟の悪あがき”は、無駄では無かったようだ……。
「ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって。この世界にマサヤを召喚したのは私です。本当に申し訳なく思っています。いきなりドラゴンと戦うことになって、勇者たちに殺されそうになって、更に私の命まで助けてもらって……。いくら謝っても、どんなに感謝しても足りないと思ってます」
床に頭が着くくらい深々と頭を下げて謝罪をしてきた。
ここまで誠心誠意の謝罪をされると、なんだかこちらの方が申し訳なく感じてしまう。
オレはちょっと慌ててしまった。
「いいよいいよ! もう十分だよ。頭を上げてください。もう気にしていませんから! ただ、あの勇者たち三人はちょっと許せないな。なんで殺されなきゃならいの? 『生きててもらっては困る』とか言ってたけど……」
「私にも分かりません。ただ、この部屋に到着してドラゴンが現れてから急に三人の態度が変わりました。見た目はドラゴン討伐をしている姿勢を見せていましたが、私に対して殺意を向けていたのは明らかでした」
キルケーに対して無関心だった訳じゃなく、殺そうとしていたのか……。
まさかの発言にオレは少し動揺してしまった。
「ドラゴンを討伐することも危うい状況でしたが、何よりも私自身が命の危険を感じたので、召喚魔法を使うしか無かったのです」
なるほど……。
ジョギング中に聞こえてきた『助けて』の意味がよく分かった気がした。
「アイツらいったい何を考えてたんだ?」
「ドラゴンを前にした時、三人が動揺するのが分かりました。それでも四人でドラゴン討伐だけを目的にするのならば、他に方法はいくらでもありました。でも、三人が動揺して連携が取れなくなった時点でドラゴンに勝つ見込みは無くなりました。そして私に対する殺意。正直、分からないことだらけです」
キルケー自身も、彼らの行動が理解できていないらしい。
「それに……。ドラゴン討伐中に瓦礫の直撃を受けましたけど、あれは魔法使いの仕業です。飛んでくる瓦礫に魔力を感じましたから」
「えぇ??」
あの瓦礫の直撃は偶然では無かったのか……。
話を聞けば聞くほどに、状況が理解できなくなる。
「キルケーが命を狙われる理由って何? あの三人と何かあったの? 仲が悪かった……くらいで殺されることはないよな」
「特に心当たりはありません。一緒に冒険をするようになって1ヶ月程度の関係です。あの三人はずっと一緒に冒険をしていたようですけど……。まぁ、性格が合わなかったのは確かです。ただ、殺されるほどの理由はハッキリ言って思い当たりません」
「そっか……」
当の本人にも殺される理由が分からないとはな。
「分からないことを考えても仕方ない……とは言うものの、このまま有耶無耶にするのも気持ち悪いね。オレも一緒に命を狙われてたわけだし」
「テレポートを使ったので彼らはおそらく王都に戻っているはずです。ダンジョン内で彼らに襲われることはないでしょう。今はゆっくり休んで回復させることを優先してください」
確かにそうだ。
あれこれ心配したところで、今のオレは身動き一つ取れない体なんだから。
それに、あの三人も瀕死の重症だったはずだ。
まずは自分の体を回復させる事を優先させよう。
キルケーと少し話しただけなのに、ものすごく疲れが押し寄せてきた。
「ごめん、少し寝ていいかな? ちょっと話をしただけなのに、むちゃくちゃ疲れてしまったんだ」
「どうぞお休みになってください。実は私も無理してたんです。お互い、回復するまで休みましょう」
「そうか。無理をさせてごめん。じゃあ、お言葉に甘えて少し寝るよ」
そう言い終わるとオレはゆっくり目を閉じた。
ダンジョンの硬い床に寝転んでいるだけだから寝心地は最悪だ。
でも石畳のひんやりした感触が気持ちよくて、オレはあっという間に深い眠りについてしまった。
マサヤが眠りについたことを確認した後、キルケーも座ったまま壁にもたれて静かに目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(*)瑠璃色
宝石の瑠璃(ラピスラズリ)の色
webcolor #1d50a2
RGB R:29,G:80,B:162
CMYK C:90,M:70,Y:0,K0
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます