第6話 W追放!?

(……こいつ、転移してきたヤツだよな……)

(……何者なんだ? コイツは……)

(……このままさっさと殺してしまいましょうよ!……)


遠くで誰かの話し声が聞こえる……。


(……おいっ! 起きろっ!)


『ゴツッ、ゴツッ……』


頭が何かにぶつかっているのだろうか?


感覚はないがゴツッゴツッと骨から振動だけが伝わってくる。


「おいっ! 起きろっ!」


『ゴツッッッ!!!』


勇者が倒れている少年の頭を大きく蹴り上げた。




ふっと目が覚めてオレは飛び起きた!


「何だ!?」


ビックリしてあたりを見回した。




「……あっ!」


オレはしばらく寝ていたようだ。


目が覚めると同時に今までの出来事がフラッシュバックして蘇る!


ジョギング、魔法陣、異世界に召喚、ドラゴン、少女……。


「はっ! あの子は!?」


慌てて後ろを振り返る。


少女は大きな瓦礫の横で静かに眠っているようだ。


(良かった。無事みたいだ……)


少女が無事であることを確認してホッとすると同時に、異世界での出来事が夢じゃなかったことを実感した。




「おい! お前!」


「え!? あ、はいっ!?」


勇者と名乗っていた男が話しかけてきた。


強い口調で話しかけてくるけど、三人とも立っているのがやっとの様子だ。


瀕死の重傷からオレの弱々しいヒールの魔法しか受けていないのだから、ほとんど回復できていないはずだ。




勇者は隣に立っている戦士ほど背が高いわけではなく、戦士ほど筋肉質でもない。


それでもパーティのリーダーっぽい雰囲気を醸し出している。


そして、細くて切長の瞳はなぜかオレを見下している。


「ドラゴンはお前が一人で討伐したのか?」


「……ええ。そのようです」


「そうか」


ドラゴンを倒したかどうかまだ半信半疑だったので、オレは曖昧な感じの返答しかできなかった。




それにしても勇者との会話にはものすごく違和感を感じる。


ただドラゴン討伐の確認をしているだけなのだろうが、オレや後ろで倒れている少女の事は全く心配していない。


それどころか全く興味がないようにさえ感じられる。


一人でドラゴンを討伐した上に、お前たち三人に対しても回復魔法を唱えてやったのにそれは無いだろう。


オレがやったことに対して恩を着せるわけでは無いが、あまりにも横着で上から目線の話し方にはイラッとする。




「自己紹介をしようか。オレの名前は……」


「黙れっ!」


まずは自己紹介をしようと思ったのだが、オレの会話を戦士が遮った。


戦士は背が高くてガタイも良い。


太い二の腕に似合う大きめの剣を持っている。


身に付けているのは革製の鎧だろうか。


戦士と言えば金属製のガッチリした鎧を身に付けているイメージだったが、想像とは全然違っていた。


目元から感情が読み取れない。


あえて言うならば、冷酷さが滲み出ている感じだ。


「誰に向かって口を聞いているんだ! 勇者の御前だぞ!!」


「素性も分からない身分のくせに気安く話しかけないでちょうだい!」


戦士と魔法使いが立て続けに言い放った。


(『勇者の御前だぞ』って……、この世界の勇者ってそんなに偉い身分なのか?)




魔法使いは女性だ。


少し長めの髪の毛は後ろで結んでいて、鮮やかな紫みの赤が印象的だ。


勇者や戦士ほどの身長ではないが、女性の中では背が高い方では無いだろうか。


魔法使いのイメージ通りに長めの杖を所持している。


目はつり上がり気味で、親の仇のような憎しみを込めた目でこちらを睨んできている。




「まあ、お前はよくやったよ」


「倒すのが遅いんだよ。大怪我したじゃねえか!」


「出来るのなら始めからやってよ。賢者と同じで使えないわね!」


どうやらこの三人とは仲良くやっていくことは無理そうだ。


だが、あの少女のことをどうしてここまで悪く言うのだろうか。


「お前らあの賢者と仲間じゃ無いのか!?  心配じゃ無いのか?」


”勇者の御前”とかどうでもいい。


あまりの態度の悪さに腹が立ち、つい喧嘩腰な言い方をしてしまった。


強気の発言をしてしまったが、オレの頭はフラフラしているし体には力が入らず立ち上がることもできない。


変身魔法のダメージは思ったよりも大きく、まだ十分に回復したわけじゃ無さそうだ。




「賢者は、俺たちのパーティから追放だよ」


勇者が思いもよらぬ言葉を口にした。


「追放……?」


「ついでに、お前たち二人ともこの世界から追放してやるよ」


(『パーティから追放?』『この世界から追放?』こいつはいったい何を言っているんだ?)


オレは勇者が言ったことを理解できなかった。


目が泳いでいるオレを見兼ねてか、戦士が信じられない言葉を口にした。


「要するに、お前たちにはここで死んでもらうってことだ!」


「あなたたち二人に生きていられると、色々と面倒なのよ」


そう言い終わると、魔法使いが杖をこちらにかざして魔法を唱えた。


「じゃあな!」


(ちょっ……!)


勇者の突き放すような言葉を最後に、彼らは本当に問答無用で俺たちを殺しに来た!


オレたちが動けない状態なのを知った上で、遠慮なく魔法を使ってくるとは……。


もちろんオレは避けることはできないし、後ろで眠っている少女も眠ったまま一緒に魔法を喰らってしまうだろう。


ドラゴンの炎ほどの威力ではないが、魔法使いの杖から爆炎が放たれた。




「シールド!」

「バリアー!」

「ガード!」


激しい炎に包まれる直前に、オレは反射的に防御魔法っぽい言葉を連呼した。


『ガード』と唱えたとき、目の前に障壁のようなものが現れてくれた!


(よしっ! 持ち堪えてくれ!)


オレは目の前に現れた魔法の障壁に望みを託したのだが、もう力が残っていなかったのだろう。


現れた障壁はいとも簡単に焼き尽くされ、炎は熱気とともにオレを包み込む。


(……あの少女は、賢者だけはなんとか助けたい……)


オレの後方で倒れている少女は何とかして守りたかった。


しかし、叶わぬ思いとともにオレと少女は激しい炎に包まれた……。

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