第4話 絶体絶命!!!

「……あなたの“願い“を……思い出してください」


瀕死の少女が、懸命に語りかけてきた。


「この世界は、自分自身の強い願いや思いが……実現します……」


消え入るような小さな声で語りかけてくるので、オレは少女に顔を近付ける。


「……ハァ……ハァ……ハァ……」


「この世界にくるときに、……あなたが思ったことや願ったことを……思い出してください……」


そう言い終えると、少女は意識を失った。


薄暗い部屋にいるけど、少女の顔色が青ざめているのがハッキリわかる。


(これは本当にヤバい!)


「おい! 大丈夫か!?」


オレは声をかけたが、少女からは何の反応もない。


(……“思い“って何だ? “願い“って何だ?)


少女に言われた通り、オレは転移中に思ったことを考えた。




確か……異世界転移にワクワクして……いろいろ妄想して……


(……魔法か!?)


そうだ、最上級の魔法で無双状態の自分を妄想したはずだ。


この少女の言う“思い“や“願い“と、オレの“妄想“は同じ扱いでいいのか分からない。


分からないけど、信じるしかない。




(魔法……本当に使えるのか?)


しかし、悩んでいる時間はない。


目の前の少女にはもう時間が残されていないのだから。


回復魔法を使って怪我を治してあげないと、この少女は死んでしまうだろう。


回復魔法を使うとして何をすれば良いのか、どんな言葉を唱えれば良いのかすら分からない。






「ケアルッ!」

「ポーションッ!」

「リカバー!」

「ヒール!」


オレは回復魔法っぽい言葉を思いつくままに叫んだ。


“ヒール“と叫んだ瞬間、少女の体が一瞬だけ淡い光に包まれた。


(……よしっ!)


「ヒールッ!」


再び、少女の体が淡い光に包まれる。


しかし、ヒールでは効果が小さいのか、少女の容体に変化はない。


(最上級の回復魔法???)


もっと効果が大きい回復魔法を唱えなければ、少女の体は回復しそうにない。


オレは少女の右手を強く握りしめて叫んだ。


「スーパー・ヒール!!!」


適当に叫んだ言葉が、本当に意味不明でうんざりしてしまった。


しかし、次の瞬間、少女の体が金色の眩しい光に包まれた!


(効くのか? 頼むっ! 治ってくれっ!!!)


オレは藁にもすがる思いで祈った。


金色の小さな粒子が少女の体を包み込んでいる。


この世界に転移するときに包まれた魔法陣と同じような眩しさだ。




5秒……いや10秒くらい経っただろうか。


金色に輝いていた光がおさまった。


少女の様子を確認する。


腹部からの出血は止まったようだ。


血に染まった服や焼け焦げた髪はそのままだが、顔や腕のキズは綺麗に回復しているように見える。


(……治った……のか???)




『ゴォォォォォォォォ!!!』


オレの周囲が熱気に包まれた!


顔を上げるとドラゴンが勇者たち三人に向けて炎を吹き出している!


ドラゴンは本当に休ませてはくれない。


現実の戦闘は本当に気が抜けないことを教えてくれる。




三人はうまく炎を交わしきっていた。


しかし、ドラゴンは三人の動きを読んでいたのだろうか。


炎を避けて着地した三人に向かって大きな尻尾を振り抜いた。


「あっ!!!」


ドラゴンの大きな尻尾が三人を直撃して部屋の端まで吹き飛ばした!


(……ウソだろっ!?)


吹き飛ばされた三人は壁に激突し、そのまま床に叩きつけられた……。




倒れた三人はピクリとも動かない。


まず無事ではいられないだろう。


それどころか、三人は生きているかどうかも怪しい。


それくらい激しい勢いで吹き飛ばされ、壁に激突した。


(ちょっと、待ってくれ!)


異世界に転移してきて、いったい何分経った?


自分自身が置かれている状況が何となく掴めてきたばかりだ。


それなのに、もうこの部屋で動けるのはオレ一人だけになっている。




勇者たち三人は動く気配がない。


腕に抱えている少女もまだ意識が戻る様子もない。


“異世界転移者“であるオレをサポートしてくれる人はもういない。


「“ないない“だらけじゃねぇか!」


(やれる……のか?)


ドラゴンは待ってくれない。


四人の回復を待っている時間もない。


もちろん、ここから逃げることも出来ない。


オレが一人でドラゴンを倒さなきゃいけないのは分かる。


しかし、本当にやれるのか? どうやって倒すんだ? オレにいったい何ができるんだ?


誰か教えてくれよ!




少女をそっと床に寝かして、恐る恐るたち上がる。


ドラゴンはとどめを刺そうと三人に近寄っている。


あと一撃でも喰らえばあの三人は死んでしまうだろう。


ドラゴンがこちらに来ても少女を庇いながらでは戦えそうにない。




夢にまで見た異世界生活。


たった数分で終わらせたくは無い。


「くそっ! 攻撃魔法だ!!!」


ドラゴンに向けて、オレは思いつくままに攻撃魔法を仕掛けた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る