第3話 状況は最悪!?

異世界に転移してきたばかりのオレにいったい何ができるのか?


何かをやるにしても、まずは今の状況を知らなければ始まらない。


「状況を確認する! お前たちのことを教えてくれ! 特技は何だ?」




「オレは勇者。剣と魔法での攻撃が得意だ!」

「戦士だ。剣での攻撃!」

「魔法攻撃よ!」


(三人とも、攻撃特化かよ!)


「支援・回復ができるやつは?」


「そこに倒れている賢者だけだ!」

「だからお前を呼んだんだろっ!」

「見ていて分からないの!?」


(三人が攻撃特化で後方支援がたった1人? パーティバランス最悪じゃねえかよ!)




状況は最悪だ。


この状況を切り抜ける最善の方法は1つしか思いつかない。


「一旦、この部屋から逃げよう! この子を回復させて、体制を立て直すべきだ!」


この状況でドラゴンと戦うなんて無茶だ。


あと“勇者“って回復魔法は使え無いのか?




「無理だ! ドラゴンを倒さないとこの部屋からは出られない!」


「はぁ???」


「だからさっさと支援魔法を放てと言っているだろ! オレたちを援護しろ!」


勇者がドラゴンを見据えながら、オレに指示を出してくる。


今、一番確実な方法は、全員で逃げることだった。


しかし“ドラゴンを倒さないと“逃げられないなんて……。




お前ら明らかに実力不足な状態で、なぜドラゴンを倒しに来たんだ?


この少女は自分を犠牲にしてまで、なぜオレを呼んだんだ?


オレが支援したら、お前ら三人でドラゴンを倒せるのか?


数々の疑問が、オレの頭の中を駆け巡った。


(オレは支援系なのか? 回復魔法とか使えるのか?)




「耳を塞げっ! ドラゴンの風の咆哮だ! 鼓膜が破れるぞ!」


勇者が叫ぶ。


三人の同時攻撃を受けて倒れていたはずのドラゴンはすでに立ち上がっていた。


(えっ? 耳を塞げと言ったって……)


オレは慌てて抱き抱えている少女の両耳を塞いだ。


自分の耳を塞ぐことは後回しにしてしまった。




『ブワァァァァァァン』


ドラゴンから物凄い“振動“が伝わってくる。


空気が激しく振動し、体全身がビリビリと震える。


(くっ……)


オレの耳がどうなるのか賭けだったが、大丈夫だった。


イヤホンの“ノイズキャンセリング機能“が役に立った!




「助かった……」


「逃げろっ! 火炎の咆哮がくるぞッ!」


再び、勇者が叫ぶ。


「ちょっと!」


ちょっと待ってほしい。息つく暇もない。


ドラゴンの大きな口から今まさに炎が噴き出されようとしている。


(ゲームじゃ無いんだ。都合よく待ってくれるわけ無いよな……)


幸運にもオレはジョギングシューズを履いていて身軽に動けるから逃げるのは簡単だ。


(……でも、ダメだ!)


彼女も一緒に避難させないと、彼女だけ炎に焼かれてしまう!


慌てて少女を抱き抱えて逃げようとするけど、さすがに素早くは動けない。




(動け! オレの足!!!)


『ゴォォォォォォォォ!!!』


ドラゴンが炎を吐き出した!


オレと少女はもちろんだが、三人も危ない。


「テレポート!」


勇者が魔法(?)を唱えた。


次の瞬間、オレの腕から少女が消えた!


急に軽くなった反動で、オレは前のめりに転倒する。




転倒したおかげで、ドラゴンの炎から回避することができた。


炎の直撃は回避はできたけど、むちゃくちゃ熱い!!!!


(少女はどうした?)


周囲を見渡すと、ドラゴンの右斜め後ろに四人揃って移動していた。


(瞬間移動の魔法か。便利な魔法だなぁ。)


パーティメンバーだけを瞬間移動させる魔法なのだろうか?


オレも一緒に移動させろよと言いたい。


(いや……おい! あれはダメだろ!)


ドラゴンの後方から三人は攻撃体制に入っていた。


しかし、その後ろで少女が無防備に横たわっている。


あんな無防備な状態だと、少女はいつ死んでもおかしくない。




(どういうことだ?)


先ほどからずっとそうなのだが、三人は倒れている少女のことを全く気にしていないようだ。


仲間である少女が死んでも良いのだろうか?


それとも少女のことを考えている余裕が無いだけなのか……。




少女のもとへ走りながらオレは叫んだ。


「テレポートはもう使うなっ!」


これ以上使われると、オレは少女を守れない。




『ドォォォォォォォォォンッ!』


次に、ドラゴンは大きな尻尾を振り回してきた!


飛んでくる小さな瓦礫を走りながら回避した。


攻撃体制に入っていた三人もかろうじて尻尾を回避したようだ。


倒れている少女には、運よく尻尾は当たらない距離だった。


しかし……


(!!!!)


ドラゴンの尻尾で吹き飛ばされた瓦礫が、少女を直撃した!


(あれはヤバいっ!)




少女のもとへ辿り着いたオレは言葉を失った。


飛んできた瓦礫は、腹部と顔面を直撃したようだ。


少女を抱き抱えて様子を確認すると、腹部から大量の血が流れ出ている。


「……ごふっ……」


少女は、その小さな口から大量に吐血した。


白を基調にした少女の服も、オレのジャージも血で真っ赤に染まっていく。


先程のドラゴンの炎からも完全に回避できていなかったようだ。


本来なら青くて美しいであろう少女の長い髪も、ところどころ焼け焦げてしまっている。


オレは少女を抱きかかえて、部屋の隅に転がっている大きな瓦礫の後ろへ避難した。




「……ごふっ……はぁ……はぁ……はぁ……」


良かった。まだ息はある!


オレは少女のお腹を押さえて、なんとか止血しようと試みる。




「……あなたの……“願い“を……思い出して……」


瀕死の少女が、消え入るような小さな声で語りかけてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る