X シェイファ(部族の流儀)

「シェイファ、よく聞いて欲しい。お前と婚約していた向こうの部族のザン君の両親が、婚約を破棄するって言ってきたんだが……」

「えっ、お父さん、理由は何ですか?」


 遊牧の民にとっての結婚は、親同士が決めるものだし、結婚相手そのものの人数が少ないため、それは貴重だ。彼女も自分の縁談は父が必死でまとめたことを知っていた。


「それが…… 向こうでだな、夫が居る従姉に手を出してしまったということなんだ」

「まあ!」


 馬鹿なことをしたなあ、とシェイファは思った。


「だったら私幸運だわ」

「そう言ってくれるのかね?」

「だってそんな、人妻に手を出したらどうなるか、が判らない男がうちにやってきたらまた大変だったじゃないの」

「ふむ。確かに」

「別にどんなひとだって良かったけど、後で腕を切って追放とか、そういう話になるとやっぱりうちとしても面倒でしょ?」

「そうだな。それは確かに」

「でもしばらくは噂とか色々あるから、私の結婚は遠くなるのね」

「見る目が無かったな。すまない」

「いいわ、その代わり、今度はちゃんとまともな人を探してね」

「そうだな」


 そう言って父と娘ははははは、と笑い合った。

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