W ヴィルヘルミナ(女王の思し召し)

 遠い昔の話である。



「ヴィルヘルミナ、どうか僕を解放してくれ! 婚約を破棄してくれ!」


 その途端、彼の周囲をぐるりと衛兵が取り囲んだ。


「若き我らが女王陛下に何を言っている異邦人」

「お前が殺されもせず女王陛下の配偶者となれることを光栄にこそ思え、何故否定する」

「我ら皆その様なご要望があればすぐにでも承諾するものを」

「僕には故郷に妻が居るんだ! その妻を置いての出征だった……! いくら女王の命令とはいえ、僕の故郷の宗教では妻を裏切ることはできないのだ!」


 すると女王ヴィルヘルミナはこう言った。


「よい。ではこうしよう」



 城の外れの塔に男は拉致されてきた妻と共に幽閉された。

 そして時折彼は女王のお召しにより、身体を差し出さねばならぬこととなった。

 それは、その妻も同様であった。

 妻はまた、女王の指示する客人の男に身体を差し出さねばならなくなった。

 そして時には二人が女王の前で夫婦の営みを見せることを強要される様になったという。

 彼があの時女王の申し出を受けていれば良かったのかどうか、はその後の文献には記されていない。

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