T テオドーラ(地政学的配置)

「テオドーラ! お前の様な性根の腐った女は婚約破棄だ! 金輪際この国から出て行け!」

「ほほほほほ」


 高らかな笑い声に婚約破棄を告げた王子はたじろぐ。


「何をおっしゃる。私の性根が腐っていようといまいと、この婚約自体、国と国との取り決めではございませぬか。おや、それともそこのお嬢さんのせいかしら?」


 扇で王子の傍らの少女をテオドーラは指す。


「そうだ。彼女こそこの国の女性として相応しい心の持ち主だ」

「然り。私は退きましょう。後悔なさらぬよう」


 そしてまたホホホホ、と高らかな笑い声を立てて去って行った。


 数年後、王子…… いや、もと王子は国境の森をさまよい逃げていた。

 だが所詮柔な足。

 裏切り者、と彼を探す国民によって見つかった。


「……俺が何をしたというんだ」

「貴方は本当に大馬鹿者だ。大国二つに挟まれた我が国で、守ってくれる大国の姫を突き返すなんてことをするから」

「あっさりと逆側の大国に攻め込まれ」

「我が国はとうとう滅んでしまった」

「さあ、その責めを負うがいい!」


 ぐるりと自国の兵に囲まれ、一斉に串刺しにされ、空中に上げられる。



「本当に馬鹿な男」


 ホホホホホ、と笑いながら望遠鏡で眺める女性の姿がそこにはあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る