S サァラ(後悔は無い、だが)

「サァラ、婚約を破棄させてくれ」

「まあフレッド、何故なの? もしや、あの可愛らしい方のこと?」

「それもある。だが君のそのいつも全て判っている様に見られると、僕は息が詰まりそうなんだ……!」

「私にはそのつもりは全く無かったのだけど…… でも貴方がそう思うなら、きっとそうなのね。いいわ」

「そういうところだよ! まるで真綿で首を絞められる様だった。彼女は君ほど賢くはないが、暖かい家庭を築けるだろう」


 そして彼はサァラと別れた。


 数年後。

 彼は病気の妻と二人の子供を抱えて苦労していた。

 その上大不況により、明日の仕事にもおぼつかない状況になっていた。

 そんなある日、見知らぬ財団から、相当の額の現金と、仕事の紹介状が送られてきた。

 その財団の名には覚えがある。

 少し前、新聞の一面に大きく、「ダイアモンド女王マドモアゼル・サァラ、困窮者に支援団体を設立」とでかでかと書かれていた。


「こんな金……!」


 いつも正しいことを真っ直ぐする彼女に息が詰まりそうだった。

 だがその彼女から、こうやって振りまかれる金を受け取らないと生活ができない。

 捨ててしまいたいがそれはできない。

 フレッドは妻に見えぬ様に札束をぐしゃりと握りつぶした。

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