K カザリン(追放されるのはどっちか)

「もう我慢できない、カザリン、お前との婚約は破棄する!」


 北の大国の大公ペーテルは脇に新しい恋人とされる公爵令嬢エリザベートを連れ、頭から湯気の出る勢いでまくし立てた。

 彼はこの令嬢が宰相の長女ということをもよく知っていた。

 たとえ現在の女帝、自分の伯母が決めたこととは言え、諸侯は自分の味方になると思っていた。


「左様でございますか。致し方ございません。ですが私の故国は既に無く、行き先は女帝陛下のお心次第」


 失礼しますと引き下がる彼女にペーテルは更に腹が立つ。


 この冷たい女が。自分の相手もせず勉強ばかりで! それに比べればこのエリザベートは決して美しくは無いが、自分に優しく楽しい毎日を送らせてくれるぞ!


その数日後、彼の元に来たのは、大公位剥奪と東方辺境候となる命令だった。


「伯母上これは……」

「私の後を継ぐ者は父方の血を引いている者ならそれなりに居る。要はこの帝国を上手く切り盛りできる美しく賢いカザリンが皇后になるのならば、次代の皇帝など誰でも良いのじゃ」


 ちら、と女帝の斜め下辺りに立つカザリンの視線は冷ややかに、そして美しく。


「帰る国も無いと申しましたでしょう?」


 そして容赦がなかった。

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