第34話「人の食事を邪魔するのはダメだろ。クレープ買ってこいよ」

 フィルは酸素を求めてもがく三人を見る。


「殺すなよ」

「相変わらず甘っちょろいな」

「お前なら余裕だろ?」


 そう言ってフィルは、挑発するように僕を流し目で見る。

 ったく、後で覚えてろよ。

 僕は真空状態を解消し、サービスで換気も行う。

 そして、フィルを守るように前へ一歩出る。


「お前らが何なのかは知らないし、目的にも興味はないが、人の物を勝手に壊すのはダメだし、人の食事を邪魔するのはもっとダメだ。クレープ買ってこいよ」


 三人のレッドアイは睨み付けるように僕を見る。


「はぁはぁ、何だよ、説教って母親かよ」

「てか……今のヤバすぎだろ……はぁはぁ……虹炎って……こんなことまで……できんのかよ」


 三人は苦しそうに胸を押さえてながら、肩で息をしていた。

 それも当然だろう。かなりの間、真空状態を維持したからな。

 当然、僕だってこんなことはしなくない。


「もうやめて大人しくしておけ、次は気を失うまでやるぞ。そうしたら、酸素欠乏症になり、後遺症が残ることもあるんだ」


 だが僕の脅しには屈せず、三人のうちの一人がニヤリと笑う。


「空気が無いってんならよぉ、お前の虹炎も燃えないんじゃねーのかぁ?」


 まあ、火を燃やすには基本的には酸素が必要だからな。

 こいつの言ってることは間違ってない。


「だったらよぉ、お前の近くで直接魔法をぶつけてやれば、さっきみたいには出来ねーだろ? だって空気を無くしたら自分も苦しいもんなぁ!」


 そいつは勢いよく僕に向かって突撃してきた。

 やれやれ。

 僕はもう一度真空状態を作る。


「はっ、またそうきたか、でもお前に近付いたら解除すんだろ⁉︎ じゃねーと虹炎は出せねーもんなぁ⁉︎」


 って多分言ってるんだろうな、口の動きとか身振り手振りとかから察して。

 まあ、検討外れなんだけどな。


「出せるぞ」


 僕は素早く虹炎を放った。


「あ、ああああああっ! な、何でぇぇえ、がああああああああああっ!」


 皮膚が少し火傷した程度の所で僕は虹炎を消し、ついでに回復魔法も使い、火傷も治療する。

 全く、世話が焼ける。

 焼いたのは僕だが。


 虹炎は酸素を媒体に燃える炎ではない。

 虹炎は魔力そのものを媒体として着火させる特殊な炎だ。


 魔力を燃やす魔法。

 それが虹炎である。


 そしてその魔力は、別に自分の魔力でなくても構わない。

 相手の魔力を燃やすことでも虹炎を放てる。

 あの三人は––––流石はレッドアイというだけはあり––––魔力戦闘の基本は出来ていた。

 つまり、戦闘中は常に魔力を身体から放出し、魔力壁を構成していた。

 なので。

 その身体から放出されている魔力自体に着火した。


 虹炎が魔人から恐れられている理由もおそらくコレだ。

 魔法を撃ち合い、相手の魔力を削る魔法戦闘において、相手の放った魔法や、相手から放出されている防御用の魔力壁そのものを燃やせる虹炎は、いわば相手の魔力を利用して魔法を放っているようなものであり、僕の魔力は一切削れない。

 相手の魔力だけを一方的に削ることが出来る。

 なので虹炎は、魔人やレッドアイのように魔法を使って戦う相手には、反則と言ってもいいような強さを発揮出来る。


 相手が何人だろうが関係ない。

 だって、相手の魔力を燃やせばいいのだもの。


 僕は再び侵入者の三人を見る。

 虹炎を当てた一人は今にも逃げ出しそうだが、残りの二人はいまだにギラギラとした視線をこちらに向けている。

 若いねぇ。


「まだやるのか? 弱い者イジメは好きじゃないんだがなぁ」

「弱い者イジメだと?」


 多分黒い炎を放った方が僕を睨めつけるように見る。


「弱いだろ」

「ふざけんなぁっ!」


 怒鳴り声と共に黒い炎を放ってきたが、僕はその魔法自体を虹炎で焼き尽くす。


「なっ……!」

「弱火だな」


 あおったのは僕では無い。フィルだ。

 ったく、火に油を注ぐなっての。


「お、おい、お前のメイルシュトロームならっ!」

「あ、ああ!」


 今度は先程水の渦を放った方が再び同じ魔法を使う。

 火は水に弱いからな。

 関係ないけど。

 この水は魔力で作られた水だ。

 ならば燃やせる。

 虹炎は魔力を燃やす炎である。

 僕は再び虹炎を放ち、メイルなんちゃらを燃やし尽くした。


「はぁっ⁉︎」

「んなデタラメありかよっ⁉︎」


 驚きの表情を浮かべる二人。


「そもそもな、そんな魔法当たったてなんとも無いからな」


 実際さっき当たってたっぽいし。

 まあ実際に防いだのは、僕の魔力壁ではなく多分ハニーの重力壁だ。

 いくら僕が魔力量に優れているとはいえ、レッドアイの魔法を直撃で食らえば、それなりに魔力を削られる。

 だが、全然減っていない所を見るに多分ハニーの重力壁が防いだと考えて良さそうだ。


 余談だが、ハニーの重力魔法だけは虹炎で燃やすことが出来ない。

 魔法の性質や相性を無視して魔力自体を燃やせる虹炎だが、何故かハニーの魔法だけは燃やすことが出来ない。


 僕の推測ではあるのだが、おそらく圧倒的な魔力の差が関係しているのではないかと思う。


 これは決して自慢ではないが、僕はハニー以外に僕よりも魔力のある人を見たことがない。

 魔人でも、レッドアイでも。

 目の前の三人もそうだが、レヴィアさんや、スカーレット先生も、僕の半分以下の魔力しかない。

 対してハニーは、僕の十倍以上の魔力を誇る。

 もう圧倒的である。


 スカーレット先生は、魔力の強さが直接的な強さには結び付かないと言っていた。

 僕も当然そう思ってはいる。だが、ハニーの圧倒的な魔力を目にすると、そうとは言い切れなくなってくる。

 常識知らず、ルール無視、次元の違う圧倒的な魔力。


 その次元の違う魔力差が、こちらの魔法の干渉を受けないような働きをしているのでは? と僕は推察している。


 さて、どうしようか。

 まずは––––逃げ道を塞ぐか。

 いや、逃げれないようにした方がいいか。

 人質とか取られたら面倒だしね。


 ライル先生にやったようなツタを使った拘束だと、魔法でツタを切られちゃうからダメだな。

 そうだな……脚の腱を切るのは––––やり過ぎだな。

 時間停止魔法は残りの魔力量じゃ無理だ。

 そもそも満タンだったとしても、一人ならまだしも、三人は無理だ。

 アレは必要な魔力量が規格外過ぎる。

 あーあ、ハニーみたいに重力魔法を使えたらなぁ。

 浮かして終わりなのに。


 虹炎で三人の周囲を囲うのは威圧的過ぎるし……うーん、どうしよう。

 ––––そうだ、閃いた。

 まずは足をツタで拘束し、足元だけ真空にしよう。

 そうすれば魔法でツタを切れないし、息も出来る。はい、天才。

 早速実行だ。

 三人は突然の拘束に慌てるが、魔法を使い脱出を試みる。


「ちっ、こんな拘束……なっ、俺の黒炎が効かねえ!」


 先程と同じで真空状態では、炎は燃えない。

 さてさて、ここからが大事だ。

 ここまで、僕がこの三人にしたのは暴力以外の何でもない。

 圧倒的な力量の差で、一方的に危害を加え続けた。

 侵入者とはいえ、悪者とはいえ––––だ。


 でも、力による支配よりも対話による理解を尊重して来たのが人間だ。

 僕もそう有りたいと思う。

 だって最近じゃ、魔族だってそうし始めようとしてるんだから。

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