第33話「うわ、なんだコレ、ワサビ入ってやがる」
「あー、なるほど、王様は虹炎の魔術師に守ってもらってんのか」「自分だけ警備つけてだっさ」「嫌だねぇ、これだから金持ちはよぉ」「てかさ、王宮の警備隊どこだよ?」「逃げたんじゃね?」「うわっ、白状じゃん」「ちぇっ、また勇者ボコしてやろうと思ったのに」
僕は椅子に座ったまま紙袋からクレープを取り出し、一口食べる。
うわ、なんだコレ、ワサビ入ってやがる。
チャレンジャーとは言ったけどさ、こういうチャレンジはいただけないぞ、ワビサビクレープ。
あ、もしかしてワビサビってワサビのこと⁉︎
「おい、コーエン、城壊されてんだけど」
いつの間にか僕の背後に回りコソコソとしている王様が何か言っているが、こっちはそれどころじゃない。
ワサビが鼻にツンと来てるし、あんまり美味くないし。
でもまあ、一応他のも食べるか。食べ物を粗末にするなって母さんにもスカーレット先生にも言われてるし。
あとは生ものは鮮度が命って言うし……なるべく早く食べた方が美味しいはずだし。
次のクレープは––––うわっ、なんか黒いの入ってる!
……
「おい虹炎の魔術師、あんた大賢者らしいな」「てか、さっきから何か食ってね?」「は? 舐めてんの?」
いやいや。流石に海苔はダメだろ、ふざけ過ぎだろ。
まず第一にクリームと海苔が絶望的に合わないし、海苔を使うんだったら、クレープ生地に混ぜるとか色々あったろうに。
クレープを食べていると、水をかけられた。
「おいおい、マジかよ……レッドアイの魔法も打ち消せんのか」「お前のメイルシュトローム効かないの初じゃね?」「流石大賢者ってとこか」「じゃあさ、次俺ね」「お、炎魔法最強対決?」
次は……うわっ、醤油の匂いする。
ワビサビクレープ、来月には無くなってるな。
しかも、なんかクレープ焦げてるし。
ったく、焼き加減はちゃんとしろよな。
「おいおい、俺の黒炎まで打ち消すのかよ」「はっ、マジでやべーな」「じゃあ、ちょい早だけど、いつものでやろうぜ」「マジかよ」「しょうがねーだろ、単体じゃ勝てねーんだから」
ここで、フィルに後ろから声をかけられた。
「お前さ、城の修理代俺が出すんだぞ?」
なんか、どっかで聞いたことのあるセリフだ。
知ったこっちゃないけど。
そしてお次は、僕の肩越しに前方を指差した。
「今度はなんだよ」
「アレは流石にヤバいんじゃないか?」
フィルの指差した方向に視線を向けると、黒い炎と竜巻と大量の水が渦を巻き凄い勢いでこちらに近付いてきていた。
ふむ……黒い炎と水の竜巻は全体に魔力が見えるから魔法攻撃だな。
そんでもって、普通の竜巻は一部にのみ魔力が見えるので、風を操って作り出した物理魔法だな。
物理魔法は魔法壁じゃ打ち消せないから、同時に攻撃されると中々対処がし辛いね。
おそらく、魔人相手でもこの魔法攻撃と物理魔法の同時攻撃はおそらく有効だろうな。
––––まあ、僕には効かないけど。
「……はあ」
僕はため息を一つ吐き、魔法攻撃の範囲と三人の周りの空気を無くし、真空状態を作る。
すると黒い炎と竜巻は一瞬で消え、水は氷となって固まった。
「––––⁉︎」「––––、––––、––––っ!」「––––っ、––––––––! ––––––––––––––––!」
なんか叫んでるけど、真空状態って空気が振動しないから、声が伝わらないんだよね。
「おー、やるなぁ、コーエン。で、今のは何したんだ?」
フィルは感心した様子で、僕に疑問をぶつけてきた。
別に大したことじゃないんだけどなぁ。
ま、隠すようなことじゃないし答えてやるか。
「何したって、真空状態を作ったんだよ。火は酸素が無いと燃えないし、空気がないんだから風は吹かないし、真空状態だと水は凍るだろ?」
「博識だな」
「王都魔術学校で習った」
僕は苦しそうに悶える三人を見る。
年齢は十代後半ってとこかな。
「で、コイツら何?」
「最近、この近くの街で魔法を悪用してた奴らだ」
なるほどな。
レッドアイの中には、その力に溺れ、暴力的な振る舞いをする者も多い。
アイツらも、その一部ってわけか。
力があるのだから、その力で他者を従え、屈服させ、自分の欲望の
この城を襲撃した理由も、きっとそんなとこだろう。
「近隣の街でも勇者が何名か被害に合っていて手を焼いていたんだ」
「勇者までやられたのか」
じゃあ被害もそれなりにあるんじゃないかと思い––––僕は辺りを見渡す。
まず建物がちょっと壊れているな、怪我人は––––アレ? 人は居るが、怪我人は居ないぞ。
そっちは被害無しってこと? ラッキーじゃん。
––––とでも言うと思ったか、フィル。
ちっ、計ったな。
「さてはフィル、ワザと手引きして、僕に倒させやがったな」
「おや、何のことだい?」
とぼけ顔を浮かべる王様。
そうは行くかっての。
追求してやる。
「まず、怪我人が居ない。襲撃の時点で予め退避させるように指示していたな」
「襲撃が今日だとは分からないだろう?」
「お前の情報収集能力は高いからな、どうせ今日も昼食を取りながら––––いや、ワザと目立ってヘイトを買ってターゲットになりやがったな!」
街中で王様が大衆食堂で食事し、新しくオープンしたクレープ屋さんを訪れる。
フィルを知っている人からしたら日常的な光景だが、若い王様が自由気ままに行動しているというのは、中々にムカつくものがあるし何より目立つ。
そんな奴をぶっ飛ばし、力を誇示し、マウントを取る。
ヤンチャな若者が考えそうなことだ。
「ふむ……なるほどな。だがそれだとお前を呼んだとは言え、偶々今日来てくれる保証は無いだろ?」
僕の推理に対するフィルの推測は、かなり的を得ている。
フィルが移動魔法の存在を知っているはずはないし(知っていたら旅費は同封しない)、手紙の到着日が今日だと知っていたとしても、交通機関を使った場合僕の到着は最速でも明日になる。
間に合わないのは確実だ。
だけど、これは予想が付く。
門番は先程出かけたと言っていた。入れ違いとも。
王宮の入り口はかなり開けており、遠くからでもその様子は伺える。
つまり、
「お前、僕が来てるの気付いてたのに、そのまま飯行ったろ!」
「あ、バレた?」
やっぱりな、やりやがったコイツ! 遠くから僕の姿見えてたのに昼飯食べに行きやがった! てか誘えよ! 僕も唐揚げ食べたかったわ!
それにこの応接室は入り口から最も近い部屋の一つであり、ここで僕が戦って侵入者を倒せば、城の被害はかなり少なくなる。くそっ、そこも計算済みってわけか。
だけど、疑問が一つ残る。
レッドアイに対処するなら、別に僕である必要はない。
「フィル、何故警備に一流の勇者を複数人配置しなかった? やろうと思えばお前なら出来るだろう? 何故やらなかった?」
この三人が勇者を倒したと言っても、三体一ならそりゃあ勝てるだろう。
だったら勇者側の人数も増やせばいい。
ここは王都。ギルドには何人もの勇者が居たことだろう。
「そりゃあ、お前……」
フィルは僕の問いに、少し溜めてから答える。
「金がかかるからに決まってんだろ」
「…………」
なんでさ、ハニーもそうだけどさ、王様ってやつはさ、ガメついんだ?
僕の旅費とか宿泊費は出すくせに––––あ、さてはそっちの方が安いからそうしたな! うっわっ、せこっ!
「この野郎、いっぱい食わせやがったな」
「食わせてやったろクレープを––––いっぱいな」
そう言ってドヤ顔を浮かべるフィル。
こ、こいつ……!
くっ、食えない奴め!
しかも、クレープも食えたものじゃなかったし!
こっ、このっ、糞食らえ!
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