第27話「大丈夫だ、あいつは化け物だから」

「今日はあの虹炎こうえんの魔術師が来てくれた、拍手!」


 ライル先生が生徒達に僕を紹介し、歓声が上がる。


「うわっ、すっげぇっ!」「ほんとに目の色赤いんだ、綺麗〜」「虹炎の魔術師って最年少で大賢者になった人だろ⁉︎」「そう、ヤバいよな!」「スカーレット先生の隣にあった肖像画の人だよね?」「そうだ、あの人だ!」「あの髪色、極東の人なのかな?」「多分そうじゃない?」「ね、カッコよくない?」「うん、あたし結構タイプかも」「彼女居るのかな……」「でも、指輪してない?」「あ、ほんとだ……」


「静かに!」


 ライル先生の一言で、生徒達は大人しくなった。

 そうそう、ライル先生は身体がデカいから、かなり怖く感じるんだよな。威圧感も半端ない。

 僕は集まった生徒をぐるっと見渡す。

 生徒の数は大体三十人くらいで、歳は十五歳くらいかな。

 みんな目をキラキラとさせてこちらを見ている。


「みんな、今日は虹炎の魔術師が戦闘訓練をしてくれるぞ」

「おお、すっげぇ!」


 一人の生徒が声を上げ喜んだ。こういうのはちょっと嬉しいね。

 レッドアイって基本避けられるけど、虹炎の魔術師はなんか大人気なんだよね。

 そう考えると、大賢者の称号も悪くないなと思えるね。


「だが、その前に––––」


 ライル先生は僕を見た。


「みんな、虹炎を見たいよな?」

『見たいー!』


 大多数の生徒から再び歓声の声があがり、期待の眼差しを僕に向ける。

 仕方ないなぁ。

 僕は上空に、虹色の蝶々を複数体放った。


「うわっ、ヤバい!」

「すごーい! きれい!」

「えっ、魔法ってこんなことも出来るの⁉︎ ヤバ⁉︎」

「ちょっと待って、いま無詠唱だったよね⁉︎」


 生徒達は、ヒラヒラと舞う虹色の蝶々を楽しそうに見上げていた。

 これ、ハニーも結構好きなんだよね。


「コーエン、お前杖も無しで……相変わらず芸達者だな」


 ライル先生は感心した様子で僕を褒める。

 ふふん、毎日料理に使ってるからな。このくらいはわけないさ。

 よし、もうちょっとだけサービスしちゃおうかなー。

 僕は虹色の蝶々を一箇所に集めて、バラの形を作る。


「ヤバい、ヤバい、ヤーバい!」

「すごい! バラだよ、バラ!」

「レインボーローズだ!」


 やば、楽しすぎるんだが? ここまで褒められるの初めてなんだが? え、竜とか作っちゃう? それともデカいフェニックス出しちゃう?


「コーエン、その辺にしとけ」

「あ、はい」


 ライル先生に強めに睨まれたので、僕は虹色のバラを消す。

 ちょっーとだけ、調子に乗っちゃった自覚はあるし。


「じゃあ、そろそろ戦闘訓練を始める。コーエンいいか?」

「大丈夫です」

「分かってるとは思うが加減しろよ」

「分かってますよ」

「虹炎とか絶対使うなよ?」

「だから、分かってますよ」


 そりゃあね、僕だってそのくらいは分かるさ。


「えと、少し離れた方がいいですよね?」

「ああ、そうだな」


 ライル先生は「あの辺くらいまで下がってくれ」と大体十五メートル程後方を指差した。


「ライル先生も加わってもいいですよ」

「バカ言え」


 僕はニヤリと笑ってから、指示された位置まで後方に下がる。

 遠くの方で、ライル先生が生徒達に檄を飛ばしていた。


「いいか、お前ら、相手は魔人だと思って全力で行け!」

「えー、大丈夫?」

「大丈夫だ、あいつは化け物だから」

「聞こえてますよ」


 僕は土の魔法を使い、ライル先生の足元の土を細長い棒状に変化させて、カンチョウをしてやった。


「いってぇ! こらっ、コーエン!」


 僕は口元を手で隠して笑う。

 それを見たライル先生は生徒達に向けてより一層大きな声で、


「お前ら、やっちまえ!」

「おっしゃあ!」

「行くぜ!」

「あ、よろしくお願いしますっ」


 ライル先生の掛け声に合わせ、生徒達は大きく横に広がり、杖を構える。


 ––––さて、どうするか。


 ライル先生の手前だし、土の魔法をメインに使っていくか。

 とりあえず様子見からだな。


 僕はもう一度土の魔法を使い、自分の周囲を高さ二十メートルの壁で囲む。

 これで、手出しは難しくなっただろう。

 壁の厚さも初級魔法程度では崩せない厚さにしてあるし、周囲を囲っているので後方からの攻撃も大丈夫だ。


 ––––ただ。

 上空は空いている。

 もちろんワザとだ。

 生徒達に壁の破壊を無理だと諦めさせ、上空からの攻撃を誘導するためだ。

 そうだな……人数も多いことだし、水の魔法を使って水責めとかがいいのではないだろうか?

 囲まれているのだから、中に水が溜まればおぼれてしまうし、出るしかない。


 そう思って上空を見ていると、周囲から初級水魔法の詠唱が聞こえてきた。


「水よ、我が敵を倒す水玉すいぎょくとなりて––––」


 懐かしいなぁ、一回も使ったことないけど。


「対象を浄化せよ!」


 上空から。

 蛇口を緩くひねったような細い水が、頭上からチョロチョロと垂れてきた。

 全然水玉じゃねーじゃん。


「水よ、我が敵を倒す水玉となりて、対象を浄化せよ!」


 再び初級水魔法の詠唱。

 またまた、蛇口の水を緩く捻ったような細い水が垂れてきた。


「水よ、我が敵を倒す水玉となりて、対象を浄化せよ!」


 またまた初級水魔法の詠唱。

 あいも変わらず、蛇口の水を緩く捻ったような細い水がチョロチョロと垂れてきた。


「……まあ、そうだよなぁ」


 見て分かる通り。

 一般的な魔術師のレベルは、この程度なのである。

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