第26話「それは、戦闘訓練的なやつですか?」

「どうも」

「誰かと思えば、コーエンじゃないか! 久しぶりだな!」


 昔お世話になった先生に僕は挨拶をしに来た。

 この先生の名前は、ライル・ディランディ。

 がっしりとした肉体を持った巨漢の男で、主に土の魔法を教えている。

 僕もこの先生から、作物を育てるには土が重要だと教わった。

 いやぁ、懐かしいね。


 ここは僕の母校でもある王都魔術学校。

 三百年以上前に建てられた歴史ある学校であり、多くの優秀な魔術師を輩出している。

 校舎は、王都に相応しい城の形をしており、教える教科に適した教室が複数存在している。


 そして僕の一押しスポットは––––学食である。

 毎日三つの定食を選べるのに加え、定番メニューも豊富(カレーとハンバーグがまじで美味い)。更に低価格であり、味も最高に美味い。

 まあ、それも当然と言える。

 だってこの学校にはマジックキングの産みの親にして、僕の師匠でもある、歴史上ナンバーワンの料理人、スカーレット先生が居るのだからな!

 くぅ! 久々にスカーレット先生に会えると思ったら、テンション上がってきたぜ!

 僕はライル先生にスカーレット先生の所在を尋ねる。


「スカーレット先生はどこですか?」

「スカーレット先生なら、先日フィールドワークに行かれたな」


 ……マジか、居ないのか。

 まあ、仕方ないか。スカーレット先生はフィールドワークに出ることも多く、日夜新しい食材と、その調理法を探している。

 最高の料理人は、更にレベルを上げ続けているというわけだ。

 僕も弟子として頑張らないとね。


 でも、スカーレット先生が不在となると肩透かしだな。

 スカーレット先生に、自慢のメロンパンを食べてもらおうと思ってたんだけどなぁ。


「スカーレット先生に用があったのか?」

「そうなんですけど……居ないのなら仕方ないですね」


 あくまで王都に来るついでだったしね。本来の目的は王様に会うことで、学園に来たのも、スカーレット先生に会うのも二の次の目的だ。

 でもなぁ、やっぱり食べてもらいたかったなぁ。

 落ち込む僕を他所に、ライル先生は上機嫌に「ところでコーエン」と肩を叩く。


「これから時間あるか?」

「時間ですか? まあ、一時間くらいなら」


 多分そのくらいで、王様が帰ってくるだろうし。


「なら、これから外で授業をやる予定だったんだが、ひよっこ共の相手をしてやってくれ」

「それは、戦闘訓練的なやつですか?」

「そうだ、せっかく虹炎こうえんの魔術師が来ているのだからな」


 ふむ、別に断る要件もないしな。


「もちろんいいですよ」

「すまんな、時々他の攻撃魔術師にも来てもらっているんだが、魔人と比べたら天と地程の差があるからな」


 魔術師にはいくつかの種類がある。

 一つ目は、人々の生活を支える生活魔術師。

 二つ目は、魔人以外の魔族に対して、魔法攻撃を行う攻撃魔術師。

 そして三つ目が味方の回復や治療を行う回復魔術師だ。

 その割合は、生活魔術師が八割で、残りの二割が攻撃魔術師と回復魔術師となり、この二つの魔術師は、所謂いわゆるエリートと呼ばれ、冒険家や勇者のパーティーに入ることがある。


「それと相手は生活科の魔術師だからな」

「あれ、攻撃科じゃないんですか?」

「ああ」


 僕はてっきり攻撃科の魔術師に、魔術戦闘の手解きをしてもらいたいのだと思っていた。


「ほら、毎年攻撃科を志す魔術師が多いだろ?」

「まあ、人気ではありますからね」

「だが、ほとんどの生徒が魔力不足で難しいのが現実だ」


 それが、攻撃魔術師や回復魔術師の数が少ない大きな理由だ。


「つまり、僕の魔力の高さを見せて諦めさせて欲しいと?」

「それもあるんだが……安易に魔人に戦いを挑まないようにする為でもある」

「なるほど」


 一流の攻撃魔術師でも、レッドアイでない限り魔人に魔法攻撃は通用しないからな。

 人間と魔人には、それほどまでに魔力の差がある。


「コーエンにとっては、久々の魔人役だな」

「僕ぐらいしか、その役出来ないですものね」

「はっはっはっ、違いない!」


 大声で笑うライル先生。

 でも、懐かしいな。在学中もよく魔人役やったな。

 実際は役ではなく、1/8は魔人だったというオチ付きだが。


 そんなわけで。

 僕とライル先生は揃ってグランドへと向かう。

 途中、歴代の大賢者の肖像画が飾られているのを見つけた。

 スカーレット先生の隣に、僕の写真がある。

 こうやって見ると、ちょっとだけ誇らしいね。


「ところでコーエン妙な噂を聞いたんだが……」


 とライル先生は渋い顔で僕を見据える。


「なんですか?」

「お前が寝返ったという話だ」

「…………」


 おっとぉ? ハニーの予想が当たっているぞ。

 でもライル先生の表情を見るに、そこまで疑っている様子は無く––––確認という感じでもあるな。

 とりあえず否定しとくか? いや、待て。僕の記憶が正しければ、キャロもそんな話をしていたな。

 噂は本当だったとか、なんとか。

 よし、まずは噂の出どころを探るか。


「どこからそんな噂が?」

「いや、俺も聞いた話なのだが、魔王城にあるロウソクに虹色の炎が灯っていたと」


 げっ、そこから⁉︎ うわっ、油断したなぁ。

 それは間違いなく僕が灯した炎だ。

 なんだったかな、確かハニーが、


「虹炎って一度出したら消えないのでしょう? だったら魔王城の明かりを虹炎で灯してちょうだい。節約になるわ」


 みたいな理由で、着けせられたんだよな。

 まあ、これは言い訳出来る。


「それは昔、魔王城に乗り込んだ時に暗くて着けたやつですね。ほら、虹炎って一度着けたら僕以外には消せないですから」

「なるほど、それで魔人共もそのままにしておくしかないってわけか」


 よし、何とか誤魔化せたぞ。

 魔王城に行ったのも嘘じゃないし。この前もお弁当届けに行ったし。


「しかし、コーエンの魔法でも魔王は落とせずか」

「魔王は強いですからね……」


 まあ、別の意味では落としたけどね。

 恋という魔法に。

 ……なんか、自分で言って恥ずかしくなっちゃった。

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