第25話「ちょっと! エプロン巻いて王都に行くつもり⁉︎」

 身支度を済ませた僕は、一応鏡で自分の姿を確認する。

 今着ている服は、ハニーが選んだ。

 僕は服なんてどうでもいいので、いつもの格好で行こうとしたのだが、


「ちょっと! エプロン巻いて王都に行くつもり⁉︎」


 と魔界のファッションリーダーからご指摘があり、着替えさせられた。

 おまけにヘアセットもされた。

 旅行の時もこういう事されたんだけど、一体なんなんだろうね?

 オシャレなハニーは、僕もオシャレじゃないと嫌なのかね?

 分からん。


 おっとそうだ、手紙の中に汽車代と馬車代と宿泊費と、食費が入ってたな。

 王室はこういうところ、本当に律儀だよなぁ。

 有り難く使わせてもらうけど。

 でも泊まりとなると、ハニーの夜ご飯が心配だな。

 いやアレか、夜だけ移動魔法で帰ってくればいいか。


 うん? 待てよ? それならさ、最初から移動魔法で行けばよくね?

 汽車代も馬車代も要らなくね?

 手紙の中に律儀にお金が入ってるもんだから、ついそう考えちゃったな。

 よし、そうと決まればさっさと行くか。


 僕は移動魔法を使い、王都に飛んだ。


「おお、コーエン殿お久しぶりですな!」

「久しぶり」


 城の門番に軽い挨拶を済ませ、要件を伝える。


「王様から面会の依頼だ。これが手紙で、これがギルドの登録書」

「コーエン殿なら、こんなもの不用ですよ」

「一応ね、あと……いや、いっか」


 キャロとかレヴィアさんもそうなんだが、みんな僕のことをコーエンって呼ぶけど、これ旧姓なんだよね。

 よく間違われるけど、『虹炎こうえん』の使い手だから、コーエンなんじゃなくて、苗字がコーエンだったんだよね。

 僕はハニーが魔王なのもあって、婿養子として結婚した。

 なので、今は苗字が変わっているのだが、みんな僕のことそのままコーエンと呼ぶので、訂正し難い雰囲気がある(そして出来てない)。

 あ、そうだ。


「これ、食べてよ」


 と僕は門番に手作りのメロンパンを手渡した。

 ハニーのお弁当の残り兼、僕のお昼ご飯なのだが、沢山余ってるし折角なので持ってきた。

 ちょうどお昼どきだしね。


「ほう、いい匂いですな」

「僕が作ったんだぜ」

「はっはっはっ、コーエン殿は相変わらずですな」


 そう言って、門番は軽快に笑う。


「それで王様はおいでか?」

「今は下町のどこかでお昼中ですな」

「相変わらずだな」

「つい先程お出かけになったので、丁度入れ違いでしたな」


 もう、王様なんだからさ、城の中で豪勢な食事をしろよな。

 ったく。


「どうされますか? 城の中で待たれますかな?」

「うーん、お昼ご飯を食べたら戻ってくるだろうから、戻ってきたら、僕が王都に来てる事を伝えてもらえるかな? 久々に王都に来たんだし、魔術学校に顔を出すよ」

「分かりました! ちゃんと伝えておきますぞ」


 僕は門番と別れ、魔術学校の方へと足を向ける。

 移動魔法で行ってもいいのだけれど、久々の王都の雰囲気を楽しみたかったからだ。

 城を中心として円形に広がる街並みは、白いレンガを基調としており、均一で高さの揃った建物は統一感がある。

 ハニーのように空を飛べたら、是非上から見てみたいものだ。


 僕はバルーニャのように活気のある町も好きだけど、王都のようなシャンとした雰囲気も好きだな。

 学生だった頃は、よく散歩をしていたものだ。

 そういえば、最近全然歩いてないな。

 移動魔法を覚えてからというもの、短い距離でも便利な移動魔法に頼り過ぎだったし(先日の旅行を除いて)。

 目的の場所に即座に飛べるなんて便利過ぎる。

 扱いは難しいけど。


 この魔法は念話と同じく魔族系の魔法なのだけれど––––こちらも人間で使える人は限られており、魔族でも使う者は殆どいない。

 何故なら、移動魔法は魔力のコントロールが難しく、もしもコントロールに失敗すれば––––腕とか千切れるからだ。


 その難易度は、移動距離が増えるほど難しくなり、距離が増えれば当然魔力量も必要になる(この辺は念話と似てるかも)。


 人間が使えない理由は、魔力量が少ないからで、魔族が使わない理由はコントロールが下手だからだ。


 魔族って魔力量が多いが故に、コントロールとか、調整とかしないんだよね。

 こういう細かい調整とかは、少ない魔力を有効活用している人間の方が上手い。

 まあそのおかげで、魔族に移動魔法を使われ、都市部を襲撃される事はないけどね。


 ついでに言うとハニーは、魔力量は僕以上だし、コントロールも正確なので多用している。

 というか、魔王城に出勤する時に使ってるしね。

 ハニーって勇者に付き合って肉弾戦ばかりしてるけど、魔法の腕も規格外なんだよね。

 法を操る様と書いて魔王である。読んで名の如く、字の如くだ。


 なので、その気になれば一気に王都を攻め立て、壊滅させることも可能だ。

 山を吹き飛ばし、海を割る魔王は、街を一つ焼け野原にすることなど造作もない。


 この景色も、ハニーの気紛れで吹き飛ぶ可能性があるとなると、冗談抜きでハニーのご機嫌取りは世界の命運を握っていると言っても過言ではない。

 つまり、お土産クレープの買い忘れは絶対にダメだ。

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