第22話「ほら、ハニーとバニーって似てるじゃん?」

 ––––後日。


「ダーリンっ、ほらっ、見て見てっ、新しい戦闘服っ」


 ハニーは母さんに作って貰った新しい戦闘服を着て上機嫌にくるりと回る。

 この服は母さんが作ったものだ。

 魔王の服を作れる機会なんて滅多にないから––––と張り切って作ったらしい。

 僕の感想?


「戦闘服というより、私服じゃん」


 白いワンピースの上にピンクのカーディガンを羽織り、リボンの付いた栗色のパンプスを履いている。

 絶対に動きづらい。

 まあ、前のほぼ裸のような甲冑より絶対マシだが。


「誰かさんのプレゼントとは比べ物にならないくらい素敵ね」

「うっさいな」


 前にね、ハニーに服あげたことあるんだよね。

 バニーガールの服。

 ほら、ハニーとバニーって似てるじゃん? それで語呂合わせでウケるかなって思ったんだけど––––今考えると最悪のプレゼントだった。

 センスのカケラもないし、恋人にバニーガールの衣装をプレゼントなんてセクハラもいい所だ。

 マジで有り得ない。よく振られなかったな。

 まあ、着ては貰えたけど。

 ハニーは険しい顔で首を傾げる。


「どうして、そういうプレゼントのセンスは遺伝しなかったのかしら?」

「はいはい、すいませんね」

「はいは一回」

「はい」

「よろしい」


 何だろうこのやり取り。

 日常でも会話でもマウントを取られている事の暗示だろうか。

 尻に敷かれている自覚はあるが。


「今度、ダーリンの地元にも行ってみたいわ」

「あれ、来たことなかったけ?」

「ないわ」


 まあ、僕もしばらく帰ってないしな。

 今回は来なかったけど、僕も久しぶりに父さんに会いたいし、時期を見て帰省してもいいかもな。


「じゃあ、今度連れてったるよ」

「楽しみね」


 母さんもきっと喜ぶだろう。

 あ、そうそう、母さんと言えば、


「母さんさ、結婚式に呼ばなかったの根に持ってるみたい」

「それは本当に申し訳なかったわ」


 母さんには結婚式はしてないと嘘を付いていた。

 だって僕達は魔王城で式を挙げたわけで。

となると必然的に魔族に囲まれるわけで。

まあ、ダメだろうと。

 それにハニーの素性を内緒していた手前、絶対に無理な話だしな。


「特にハニーのウェディングドレスを作れなかったのが悔しかったみたい」

「それは……私も残念だったわ」


 ハニーは母さんの作った服大好きガールだからな。

 母さんならきっと素敵なウェディングドレスを仕立ててくれたことだろう。


「あとは、孫の顔を早く見たいって言ってたね」

「私だって早く産みたいわ」

「え、そうなの?」


 それは知らなかったな。


「最近、欲しいなって強く思うようになったわ」


 でも––––とハニーは首を振る。


「今は無理よね」

「だな」


 ハニーが魔王である以上、戦闘を含めた職務があるので、どう考えても無理だ。

 僕としても、身重のハニーを戦わせるのなんて考えられない。

 そんなことをするぐらいだったら、僕が代わりに戦うね。


「レヴィアさんに任せるのは?」

「短い期間ならそれでもいいんだけれど、問題は戦闘以外なのよねぇ」

「というと?」

「一部の魔人は、私が居ないと言うこと聞かないのよ」

「なるほどなぁ」


 圧倒的な力を持つ現魔王ハニー。

 荒くれ者の多い魔族を従える為には、絶対的な力が必要ということか。


「あ、ダーリンが魔王やれば?」

「やだよ」

「ほら、魔人の血が流れてるんでしょ?」

「そう言われても実感がないし、僕は人間の敵にはならないの」

「ふぅーん、私がやられたら?」

「世界を滅ぼす」


 ハニーのいない世界など必要ないからね。

 ハニーは僕の発言を聞いて、ニヤリと笑う。


「ダーリンは魔王の素質ありありね」

「からかうなよ」

「まあ、ダーリンが魔人を抑えて、レヴィが戦闘面を担当するなら、産休に入れるかもねー」

「僕としては、ずっとハニーの側にいたいな。妊婦って大変らしいし」


 だからこそ、ハニーの側で手助けしたいし、僕に出来ることがあるなら全部やるつもりだ。

 幸い、家事スキルは高いからね。


「でもさ、魔人の血を引いてるのは驚いたよな」

「そう? 私はそんな気はしてたわ」

「どこがだよ」


 まあ、自分でも思い当たるものはある。

 虹炎こうえんを初めとした魔法の才能は、どう考えても魔人の血を引いているからだろう。

 しかし、ハニーの答えは全然違っていた。


「ジョークを言うところ」

「ジョークかよ」


 確かに魔人はレヴィアさんを始め、みんなジョークというか––––上手いことを言いたがるフシがある。

 僕もたまに言うけど、全くウケない。

 あ、それってさ、もしかして、


「なるほど、魔人の血が1/8だからウケないのか」

「あ、今のはいいわ」


 いいんだ。

 魔人ジョークの判断基準は本当に謎だ。


「でも、ハニーとバニーだけは本当にあり得ない」

「その件につきましては僕も相当反省しております」


 もう本当に。冗談のくだらなさもさることながら、プレゼントとしてバニーガールの衣装を選ぶセンスの無さが壊滅的だ。


「……ねえ」


 あれ、なんかハニーが節目がちにこちらをチラチラと見ているぞ。


「何だ?」

「……その、また着て欲しい?」

「うん!」

「……元気ね」


 僕の食い入るような返事の速さに、ハニーはジト目を向けた。


「あんなのどこがいいのかしら、全く理解出来ないわ……」

「でも着てくれるんでしょ?」

「条件があるわ」

「飲んだ!」

「……まだ言ってないんだけど」


 再び向けられるジト目。


「それで、条件って?」

「あ、そうね、えっとね……」


 ハニーはためらうように視線を泳がせる。


「早く言ってくれよ」

「分かってるわよ……あのね、お義母様にね、ウェディングドレス作って貰えるように頼んでくれない?」

「そのくらい自分で言いなよ、多分二つ返事で作ってくれるよ」

「……ほら、結婚式に呼ばなかった手前、言い辛くて」


 それは何となく分かる。


「でも、ハニーはウェディングドレスもう持ってるじゃん。あの結婚式で着てたやつ」

「アレはアレで気に入ってるけど、お義母様が作ったやつが欲しいのよ」


 分からないな、結婚式はもう終わっていてハニーは既にウェディングドレスを持ってるのに、もう一着欲しいとか。

 まあ、僕に女性心理なんか分かるはずもないので深く考えるのはよそう。


「分かった。僕から話してみるよ」

「ほんと? ありがとうっ」


 ––––後日。

 母さんにウェディングドレスをオーダーしたら、喜んで作ってくれた。

 そして何故か、オマケでバニーガールの衣装も付いてきた。


「なるほど、僕のセンスは母さん譲りだな!」

「そこ、開き直らない。つまらないし、ままならないわ」

「いや、ハニーは妻だし、ママになるよ」

「……まっ、ママになるって、それって……あわわわわわっ」


 赤面し、悶えるハニー。

 なんで自分で子供が欲しいと言っておきながらさ、こういう話になるとダメなんだろうね。

 魔人ジョークは、下ネタNGの決まりでもあるのだろうか?


「なあ、ハニー」

「な、なによ」

「魔人は"ジョーク"が"上手"だから、"下手"な下ネタには頼らないのか?」

「……は?」


 どうやら、僕が魔人ジョークを使いこなせるようになるのは、当分先らしい。


 

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