第4話「文字通りの意味でクビが無くなったな」
「ところでさ、何で給料制にしたんだろうね」
「さあ? そっちの方が言うことを聞くからじゃない?」
魔族も意外と現金な奴なんだな。その辺は魔族とは言え、感性は人間に似てるのかもな。
誰だって、ゲンコツ支配よりも、現金支給の方がいい。
「給料制にしてからの方が、統率力も上がったらしいし」
ここは人間を見習って良かったわ––––とハニーは感心したように言う。
「人間は力も無いし寿命も短いけど、知恵だけはあるわね」
「余計なお世話だ」
まあ、その知恵のおかげでなんとか魔王軍に対抗出来てはいる。
「私達魔族も、人間の良いところはちゃんと吸収しないとね––––貴方達が私達魔族から魔法を学んだように」
ハニーはニヤリと意味深な視線をこちらに向けた。
ここで少しだけ魔法の話をしようと思う。
魔法は元々魔族のモノだった。
魔法を操る一族、と書いて魔族。読んで名の如く字の通りである。
僕たち人間は、魔族が使っている魔法を見て、それがどうやって使えているかを研究し、自分たちのモノにした。
実際、王都には魔術学校があり、そこでは多種多様な魔法を教えている。
だが、人間の魔法は所詮魔族の猿真似であり、魔族よりも魔法のセンスは劣ってるし、魔力も少ないので、魔族と魔法の撃ち合いになった場合まず勝てない。
特に、魔人と呼ばれる人型の魔族は魔力が異常に高く、魔法攻撃はほぼ効かない(ちなみに目の前にいる美女が魔人の代表例だ)。
なので、武器や剣術を用いた物理攻撃で、ダメージを与えるのが魔人と戦闘をする際の基本戦術となる。
こちらも王都にあるギルドが運営している育成組織、バレンティアで習う事が出来る。
このバレンティアからは毎年優秀は冒険者が輩出されるが、その中でもトップの成績を収めた者は、勇者の称号を授かり、様々な特典を得る。
具体的には、道具屋さんや宿屋さんで割引きをして貰えたり、レアリティが高く希少な武器や防具を、王室から優先的に提供されたりなど、魔王を倒すための最高の環境が提供される。
最も、倒せるわけないんだが。
ハニーに対して魔法攻撃は効かないし、勇者の剣撃は小指で受け止めるし、人差し指一本で、撃退しちゃうし。
デコピンで勇者を撃退しちゃうような魔王に、どうやって勝てと言うのだろうか?
僕としては勝たれたら困るんだけどね。
愛しのハニーが死ぬのなんて僕は耐えられない。
我ながら受け入れているとはいえ、微妙な立ち位置である。
人間であり、魔族の敵でありながら、魔王であるハニーのことを好きになり、結婚してしまった。
後悔はないが、悩みの種は尽きない。
前も言ったけど、魔族と人間がお互いに手を取り合い、友好な関係を築けないものだろうか?
実際、僕とハニーは上手く行ってるわけだし。
友好と言うか、好き合っているわけだし。
ラブラブなわけだし。
––––まあ。
そういうのは僕が考えるようなことではないのだろう。
世界のことなんて、王室か、魔王であるハニーが考えればいいことだし。
僕が考えることなんて、明日の晩御飯くらいで十分だ。僕の職業、主夫だし。
適材適所、向き不向きだ。
うん? 適材適所、向き不向き……あ、もしかして––––
「あのさ、首無しの騎士の話に戻るけどさ、洞窟が合わなくてさ、ストレスでやっちゃったんじゃない?」
「それは、薄暗くて狭い空間がダメってこと?」
「うーん、それもあるけどさ、左遷みたいに感じたんじゃない? ほら、魔王城勤務って魔族の中でも強さが認められたエリートモンスターの役割だろ?」
「まあ、そうね」
「今までずっと魔王城勤務だったのにさ、急に洞窟に行けなんて言われたらさ、そりゃヤル気も無くなるだろうし、拗ねちゃうと思うんだよね」
魔族のことはよく分からないけど、きっとそういうプライドとか、感情はあるのではないだろうか?
人間みたいに。
実際、ハニーも魔人で、しかも魔王なのに、やたらと人間臭いところ多いしね。
ところで、何で僕は首無しの騎士の肩を持っているのだろうか?
アレかな、日頃からハニーの横暴で魔王的な態度に接している者同士、ちょっと同情とかしちゃってるのかな。
「確かにダーリンが言うことも一理あるわ」
ハニーは物憂たげな表情で理解を示すように頷いた。
「だろ? クビはともかくさ、儲けをクスねたのは悪いことだと思うし、いけない事だけどさ、相手の言い分くらいは少しは聞いてあげたら?」
「……まあ、ダーリンが言うなら」
後日、首無しの騎士は三体とも魔王城勤務に復帰したらしい。
つまり。
「文字通りの意味で、クビが無くなったな」
「………………………………はあ?」
おっとぉ、今日の晩御飯はハニーの好物を作らないといけなそうだ。
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