第3話「手前にはワザと雑魚モンスターを配置して奥に誘い込んでから、ボスモンスターの首無しの騎士で仕留めるのよ」
旅行の約束をした次の日のこと。
「もう本当にあり得ない、死ねばいいのに!」
魔王様のご帰宅である。ご機嫌は悪そうだ。
「おかえり、ハニー」
「ちょっと聞いてよ!」
今日もカリカリしているものの、カバンからお弁当箱を取り出すハニー。昨日の言い付けはしっかりと覚えてはいるようだ。
僕はお弁当箱を受け取ってから、「で、今日は何だ?」と話の続きを促す。
「あのね、最近ね、西の洞窟の儲けが少ないと思ったら、首無しの騎士がクスねてたのよ! クビにしてやったわ!」
「首だけに?」
「………………………………はあ?」
滑った。いかん、とても滑った。
……気まずいから、話逸らしちゃお。
「あのさ、前から気になってたんだけどさ、儲けってどうやって出してんの?」
先程少しだけお金の話が出て来たが、魔王軍のモンスターは給料制らしく、毎月お給料が出ているとか。
実際、魔王軍のボスでもある僕の奥様は、超お金持だ。この家もハニーのお金で買ったものだし、毎月の食費なんかもハニーが出している。
となると、その稼ぎの手段というのは気にはなる。
意外とさ、魔族もさ、建築とか農業とかやってんのかな?
「そんなの洞窟にノコノコとやって来た冒険者からぶんどってるに決まってるじゃない」
「……だよね」
全然違った。いかにも魔族っぽいことやってた。
まあでも、そりゃそうだよな。魔族の基本は
「西の洞窟は立地もいいしね」
「ああ、街から近いもんな」
人里から近ければ、足を運ぶ人(獲物)もきっと多いのだろう。
「手前にはワザと雑魚モンスターを配置して奥に誘い込んでから、ボスモンスターの首無しの騎士で仕留めるのよ」
「あざといな!」
それ絶対引っかかるじゃん。「お、何だこのダンジョン、俺でも意外といけるやん!」と進んだ先に強い敵を配置し、倒すと。
「しかも宝箱は1/3の確率で、人食い箱よ」
「抜かり無さすぎだろ!」
この分だとダンジョン内に配置されてる宝箱とかは、多分冒険者をダンジョンの奥に引き寄せるためのエサなんだろうなぁ。
うわぁ、エゲツな。
「ついでに、首無しの騎士は元魔王城勤務だから、超強い」
「しかも、ズルい!」
首無しの騎士は、その名前の通り首の無い騎士で甲冑を来ており、馬に乗っている。
魔王城のモンスターなら強さも折り紙付きだろう。
あれ? でもさ魔王城のモンスターを野良のボスにするとさ、
「魔王城の警備は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、私がいるもの」
うん、心配の必要も無かった。城の前で戦っちゃうような魔王だった。
なるほどなぁ、魔王があまりにも強いので、魔王城の戦力を他の場所に配置出来るのか。指揮官としても意外と優秀なんだな、ハニーって。
「更に首無しの騎士は、一体ではなく三体配置してるわ」
「それもう卑怯だと思う」
「仕方ないでしょ、二十四時間フルタイムで回すには三体でローテーションするしかなかったのよ」
「ロ、ローテーション……?」
なんか、聞き慣れない言葉が出て来たぞ。
「そう、ローテーション。八時間交代よ」
「バイトかよ!」
「儲かる場所は二十四時間稼働させて、がっぽりよ」
それさ、儲けをくすねたのはさ、働かせ過ぎだったんじゃないの?
一日八時間労働とはいえ、休日はないんだろうし。
これは……どうしよう、言うべきなのだろうか?
モンスターと言えど人権は––––いや人じゃないのだから、人権もクソもないのだろうか?
モンスターだから、モン権とか?
そもそも、お金をくすねたって事はさ、
「あのさ、首無しの騎士はさ、お金に困ってたんじゃいの?」
「月給40万だけど?」
「なんだと⁉︎」
よ、40万だって⁉︎ そんだけあれば、毎日焼肉が出来るぞ⁉︎ しかも欲しかったあのフライパンも買えるし、なんなら屋根付きのウッドデッキとかも建てられるぞ!
「それと、仕事中に負傷した場合、治療費は出すし、治療中もお給料は出ます」
「保証もしっかりしてるだと⁉︎」
なんだよ、魔王軍めっちゃ高待遇じゃん。
「僕も魔王軍に籍を置いてもらおうかな」
「あなたは既に魔王と入籍してるじゃない」
おっとぉ、こいつは一本取られたな。冗談を言ったら、惚気で返された。
それにしても、魔王軍はかなりの高待遇だな。
「そもそも、あなたは私の夫なのだから、お金が必要ならいつでも言ってちょうだい」
「うーん、それは分かってるんだけどさぁ」
分かっている。ハニーはお金持ちであると。そして僕は養われている。
そのことに負い目はないし、満足もしているけど……。
でもなんかさ、
「お金ってさ、何もせずに貰うと罪悪感ある」
僕の言葉にハニーは即答で返した。
「家事とか料理とかしてくれてるじゃない」
「それはそうだけど……」
今日もお弁当作ったしね。他にも洗濯とか、買い出しとか。家のことは大体僕がやっている。
でもそれは、お金の為にやってるんじゃない。
「僕はさ、ハニーに喜んで欲しくて料理とか作ってるし、掃除とかは、何というか……」
「何よ」
ハニーは逆に散らかすし、汚すから––––なんて言えるわけがない。
ハニーって、細かい作業とか全然なんだよね。
「趣味だな」
誤魔化した。僕の趣味リストに新しく掃除が加わった。
「それに、ハニーは虫とか出ると、この辺吹き飛ばすだろ」
「もしくは、焼け野原にしちゃうかもー」
「やめて」
クスリと笑うハニー。笑えない冗談だ。
冗談ぽく言ってはいたものの、ハニーならやりかねない(ハニーは虫が大嫌いなのだ)。
僕の毎日の掃除に、この街の命運がかかっている……のか?
それって趣味じゃなくて、使命じゃん。
「家だって買ったばっかなのに」
「家なんていくらでも買ってあげるわよ」
太っ腹なハニーさんだ。その経済力はもはや魔王級だ。
「魔族の給料ってハニーが出してるんだろ?」
「正確には人間から奪った金銭や貴重品を仕事量に応じて配分してる感じね」
「給料制になったのって確か、ハニーのお父さん––––前の魔王の代からって言ってたよね」
「そうね、私が産まれた頃にはもうそうだったらしいわ」
「その前はどうだったの?」
「そりゃあ、アレよ」
何だろう、食べ物とか現物支給とかかな。
「『従わないと殴るわよ』って脅すのよ」
「……そうか」
現物支給ではなく、ゲンコツ支配とは、なんとも魔王らしいことで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます