第7話 7日目

暗い砂から這い出て、海岸の駐車場にあるベンチで朝を迎えた。


また砂浜に戻り、日光浴しながら寝た。


暑くても夜よりは寝れた。


汗で砂だらけになった。


人の声がする度に起きた。


ひっそりと死ねる場所。


鳥取砂丘の周囲を散策して、そんな場所を探してみた。


海岸沿いにらっきょうを植えている畑があった。


その道路脇に崖があって、上の方に少し空洞があるのが見えた。


緩い斜面の方から崖の上の空洞まで登れそうだった。


登ってみたら、ちょうど人が一人入れるくらいのスペースだった。


ここだ、と思った。


でも道路から近かったから、すぐに誰かに見つかりそうな気もした。


天井が低いので屈んで空洞に入った。


横になるしかなかった。


何日くらいで死ねるのか気になった。


首吊り自殺や飛び降り自殺は無理なので、餓死するつもりでいた。


腹が減っていたので、寝た。


起きてもジッとしていた。


地面がゴツゴツして痛かった。


一度穴を出て、あたりにクッションになるものがないか探した。


近くの草むらにスポンジの板みたいなものがあったので拾った。


ボロの布切れも拾って穴に戻った。


寝るか、ボーッとしているしかなかった。


僕が死んだ後に、僕にこれまで関わって来た人たちがどうなるのか?考えた。


泣く人、泣かない人。


恨む人、恨まない人。


婆ちゃんはどうなるんだろう?


親父はどうなるんだろう?


母ちゃんはどうなるんだろう?


兄ちゃんはどうなるんだろう?


妹はどうなるんだろう?


友達はどうなるんだろう?


親しい人にほどやっぱり罪悪感を感じた。


迷惑なヤツだ、理不尽なヤツだ。


みんなそう思うと思った。


そう思われても、しかたがなかった。


もう死にたかった。


僕より迷惑なヤツ、理不尽なヤツなんて山ほどいる。


まともなふりをして無自覚に生きている人たち。


そんな連中から僕が受けた迷惑、理不尽だって山ほどある。


だから僕だけが悪いわけじゃない。


そういう言い訳をいっぱい考えて自分の気持ちを楽にしてあげようと思った。


でも楽にならなかった。


そもそも死んだら楽になる保証はあるのか?


そんな事も考えた。


時間の感覚がない薄暗い穴の中で、とにかくいろいろ考えた。


僕は生まれてすぐに心臓の疾患で大学病院に入院した。


その時の微かな思い出も振り返った。


隣のベッドに寝ている子供の腕を齧った記憶があった。


保育園の頃の思い出も振り返った。


友達と一緒に保育園を抜け出した記憶があった。


小学校、中学校、高校。


いろいろあった。


実家を離れて専門学校に入学。


いろいろあった。


その後の社会生活。


いろいろあった。


良い事も悪い事も思い出そうとした。


仲が良かった人や仲が悪かった人の事も思い出そうとした。


顔しか覚えていない人、名前しか思い出せない人もいた。


仲良くなった理由、悪くなった理由も考えた。


アイツは何であの時僕にあんな事を言ったんだ?


アノ人に何であの時僕はあんな事を言ってしまったんだ?


溝掬いみたいに、記憶の中に引っかかっている傷や闇を篩にかけて一つ一つ考えた。


手遅れだけど、全部帳消しにしたかった。


腹は常に減っていた。


考えて考えて、考え疲れたら寝た。


気付くと日が暮れて夜になっていた。


それが失踪7日目。

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