第5話 5日目
硬いコンクリートの地面で寝たり起きたりしながら、朝を迎えた。
雨には濡れなかったけど、体が痛かった。
雨はもう止んでいた。
しばらく歩いたら近くに公園があった。
そこにあった水道で顔を洗った。
口の中がネバついていたので、指で歯も磨いた。
現在地がまったくわからなかったので、また適当に歩いた。
感覚的に海沿いからはだいぶ離れたと思った。
国道から逸れた道を歩いてみた。
天気が良くなって来た。
関西の五月はとにかく暑かった。
また公園を見つけたのでベンチで休憩した。
少し寝てから本を読んだ。
日中に寝て、夜行動する方がいいかもしれないと思った。
子ども連れの主婦が何人か集まって来たので、場所を移動する事にした。
特に犯罪を犯したわけではないけど、世間に対して後ろめたい気持ちがあった。
もし不審者通報されても何も言い訳が出来ない、と思った。
田舎っぽい田んぼ道を歩いていた。
景色がだんだん海沿いっぽくなって来た。
どこかの海岸に出た。
日差しが強かったので、海水浴をしている人もいた。
日光浴をしていたら眠くなったので、海岸でしばらく寝た。
起きたら顔がヒリヒリして、日焼けした感覚があった。
汗だくの服を脱いで、また海岸沿いをひたすら歩いた。
護岸みたいなところに出た。
同い年くらいの若い人たちがヨットに乗っていた。
お金持ちなんだろうか?
羨ましかった。
足が疲れたので座って眺めていた。
靴下を海に捨てて、汗ばむ足を乾かした。
日光浴して本を読んだ。
まともな世間にとって残酷な未来が待っていた。
僕にはもう関係のない未来だと思った。
それから貯金残高がほとんどないキャッシュカードを二つに折って海に捨てた。
手持ちの金も少なかった。
日中はまだいいけど、失踪中はとにかく夜が来るのが嫌だった。
寝る場所が決まっていないまま日暮れを迎えると、とにかく気持ちが焦った。
人目がある方が安全なのか?
人目がない方が安全なのか?
その判断が難しかった。
またトボトボ歩いた。
バス亭の前を通りかかったら、「姫路駅行き」と書いてあった。
休憩ついでにそのバスを待った。
姫路城。
ふとそれを思い出しだ。
せっかくだから見に行く事にした。
僕が乗ったバス停から姫路駅まではそんなに遠くなかった。
腹が減っていた。
「姫路城」を見てから何か食べようと思った。
「姫路城」までは駅から歩いて行ける距離だった。
見ごたえのある白いお城。
お金の事を考えて中までは入らなかった。
城の周囲をぐるぐる回ってじっくり眺めた。
城の公園に出ていた出店でフランクフルトを1本買って食べた。
城の公園周辺をウロウロして野宿出来そうなところがないか探してみた。
観光客の多い公園はどこもキレイに整備されていた。
ホームレスらしき人たちが全然見当たらなかった。
仕方なく大通りに出て道路標識を見たら「鳥取」の文字があった。
鳥取砂丘。
ふと、そこなら野垂れ死にする場所としてふさわしいと思った。
「姫路」から「鳥取」まではだいぶ距離があった。
交通機関を使っていけるほどの金銭的余裕はなさそうだった。
歩いていくか?
「姫路」では野宿出来そうになかったので、とりあえず「鳥取」へ向かって歩いた。
もう日は暮れかけていた。
遠くに山が見えた。
このまま歩いたら夜に山越えする事になりそうな気がした。
途中でラーメン屋を見つけたのでラーメンと餃子を食べた。
お金の事を考えてお店で食べるのはこれで最後にしようと思った。
「鳥取砂丘」にはどうしても辿り着きたいと思った。
そこがゴール。
完全に日が落ちた時、案の定山の手前まで来た。
この先に町はあるんだろうか?
近くに野宿出来そうなところは見当たらなかった。
仕方なく外灯しかない国道の山道をトボトボ歩いた。
歩道がないのですれ違う車が怖かった。
たまに僕に気付いて速度を緩める車もいた。
ひょっとしたら幽霊だと勘違いしたのかもしれない。
すれ違う車の方も、夜一人で山道を歩いている男を見かけたら気味悪いだろうな、と思った。
道路沿いには墓場もあった。
途中でトンネルがあると明るいのでホッとした。
建設会社の前にあった自動販売機の明かりにもホッとした。
真っ暗で人気のないところにずっといると、明るいだけでホッとした。
でも町に辿り着きそうな気配は全然なかった。
ひたすら山道だった。
やっぱり山に入る前に野宿するべきだった。
体力も限界に近づいて来たころ、視界が開けてどこかの集落に入った。
民家の明かりがポツポツ見えた。
屋根付きのバス停があったのでそこで野宿する事にした。
ベンチに横になり、やっと寝れると思った。
ウトウトしていると、近所から陽気な人の声が聞こえて来た。
近くにある木造の公民館のような場所からだった。
おそらく集会か何かで酒を飲んでいるんだと思った。
バス停で寝ているところを見つかったら嫌だな、と思った。
身を潜めてしばらく寝ていたら金縛りにあった。
僕の周りに人が集まってくる気配があった。
怖かったのでそのまま寝たふりをしていた。
突然その人たちに押さえつけられて首を絞められた。
そして財布を取られそうになった。
体がまったく動かなかった。
怖かったけど、疲れていたのでそのまま眠りに落ちた。
それが失踪5日目。
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