第4話 4日目

朝起きるとベッドの上だった。


ホテルに泊まった事を忘れていて、一瞬自分がどこにいるのか?分からなかった。


ただぐっすり眠れた感じはあった。


昨日の夜の事を徐々に思い出して、すぐにチェックアウトした。


外に出ても景色に見覚えがなかった。


お店からそんなに遠くない感覚はあったから、たぶんミナミのどこかだと思った。


どのみち行く当てなんかないからまた適当に歩いた。


適当に歩いて道頓堀のグリコの看板があるところまで来た。


道頓堀のベンチで暇つぶしに本を読んだ。


ぼちぼち飲食店が開店し出したので、「金龍ラーメン」を食べた。


それから近くの店のたこ焼きも食べた。


また適当に歩いていたら、高速道路の高架が見えた。


高架の下の国道をずっと歩いて、行けるところまで行ってみる事にした。


道路標識を見たら「神戸」方面に向かって歩いていた。


「尼崎」の文字もあった。


お笑いコンビのダウンタウンが好きだったので「尼崎」に行ってみたいと思った。


工場地帯の光化学スモッグで覆われた変な人だらけの町。


そんなイメージがあった。


とにかくダウンタウンの笑いを生んだ原風景を見てみたかった。


ひたすら大通りを歩いていたら大きな河に出た。


淀川だった。


淀川にかかる長い鉄橋を渡った。


国道沿いは大型店舗が多かったから、安く自転車が買える店があったら買おうと思った。


しばらく歩くと、案の定大型の自転車屋があった。


4000円の中古のモトクロスバイクがあったので買った。


防犯登録の時、住所の記入欄を見て少し困った。


仙台の住所を書いたら店の人に何か言われるんじゃないか?


そんな事を考えた。


でも嘘の住所を書いたらもっとマズイ事になるかも?と思ったので、いちかばちか仙台の住所を書いた。


店の人はそれを見ても特に何も言わなかった。


無事に自転車を買うことが出来た。


すごく楽だった。


このまま自転車で行けるところまで行ってみようかな、と思った。


「尼崎」まではすぐに着いた。


国道を外れ、尼崎の町を自転車でブラブラした。


自転車が快適過ぎたので、調子に乗ってつい赤信号を無視した。


そしたら近くの工事現場で交通誘導をしていた男の人に「自分、赤やで」と言われた。


注意されたというよりかは、ツッコミを入れてもらった気がした。


住宅街をとにかくウロウロしてみた。


僕の田舎とそんなに変わらない風景がゴチャゴチャと密集している感じがした。


雑な生活感のある家が多かった。


下町。


ダウンタウン。


確かにそんな感じの町だなと思った。


それからまた国道に戻って「神戸」に向かった。


腹が減っていたので「芦屋」あたりでラーメンを食べた。


日が暮れた頃に「神戸の三宮」に着いた。


オシャレな港町。


とにかく道行く人が全員オシャレに見えた。


特に年配の人たちがオシャレで、みんな金持ちそうに見えた。


リア充だらけの街。


羨ましいけど、僕には住みづらそうだなと思った。


街で一人だけホームレスの人を見かけた。


ペデストリアンデッキの通路にダンボール箱を置いて寝ていた。


金持ちだらけのリア充な街で一人だけ貧乏。


その孤独は測り知れないな、と思った。


観覧車が見えたので、そっちへ行ってみた。


港の夜景スポットみたいになっていて、カップルが多かった。


ベンチのあるところに自転車を止めて休憩した。


キレイな夜景を眺めているカップルばかり眺めていた。


疲れていたけど、「神戸」では野宿出来そうになかった。


居心地が悪くなったのでまた自転車で走った。


寝る場所を探してひたすら南下した。


道路標識に「明石」の文字があった。


お菓子を売っている自動販売機があったので、「アポロチョコ」を買った。


一粒食べるだけで体力が回復した気がした。


「明石海峡大橋」が見える公園まで来たので、野宿する場所を探した。


人気のないベンチで寝てみたものの、夜の潮風でやはり寝れなかった。


お台場の時もそうだったけど、海の側で寝るのは難しいと思った。


寝る場所を探すため、また自転車で走った。


通りかかった橋の下で寝れないかな?と思って、中を覗いたら人がいた。


すでに誰かそこに住んでいるようだった。


僕もびっくりしたけど、向こうもびっくりしていた。


ヤケクソでまた自転車に乗ったら途中で自転車がパンクした。


買ったばかりだけど直すのも面倒臭いと思ったので、道端に捨てた。


疲労感が一気に増した。


運悪く小雨が降って来たので、仕方なく陸橋の下で雨宿りした。


そしてそのままコンクリートの地面で寝た。


それが失踪4日目。

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