壊れ行く愛

鼎ロア

さようなら、一緒に。


僕は、愛と言うものが大嫌いだ。

友情、恋愛、愛情。

多々ある「愛」のなかでも、僕は家族愛がなによりも嫌いだった。

時に手の平を返し、時に否定をしてくる醜い存在でしかなかった。


この世界の人間たちは、家族愛がなければ自分たちは存在しなかった。なんてことをほざいているものの、僕には全く理解ができない。

あんな野蛮な存在に僕はどうすればいいのだろう。




僕は、家にいる。

毎日毎日、家で過ごしては外にでることすらままならない。

朝に水を飲み、部屋の隅で考え事を装う。


「ワタル!!さっさとかたずけろ!!」


父親の声が聞こえる。

僕の父親は顔の血相を変え、見てわかるくらいに血管が浮き彫りになっていた。

「はい」


僕は恐る恐るテーブルに置いてある皿を手に取りゆっくりと、慎重にキッチンへと持っていく。

無事に持っていけたことで胸を撫で下ろす。

昔、割ってしまって散々殴られたのだ。

それでも父が僕を追い出さないのは、たぶん、まだ利用価値があるからだと思う。


きっと、このまま僕が廃人になったら、あいつは僕を殺すか追い出すんだろうな。


僕はそう考え、首を横に振ってまた部屋の隅へと移動する。

父は相も変わらずテーブルで新聞を読んでいる。

そんなもの読んでなにが楽しいのだか……。


そう思いながら僕は父をバレにくいように睨みつける。

それから、どうにもできないと気づき、睨みつけるのをやめた。


「はぁ、この生活もいつまで続くんだろうな」

そう小声でつぶやきもう一度父を見やる。

よかった、聞こえていなかったらしい。変わらず新聞を読んでいる。

ないもすることがなくなった僕は一時の休息を得るため、眠りについた。




朝起きる。

いや、正確には、夜だ。

時計を見ると2:37となっていた。

もう、こんな時間か……。


もう一度寝ようかと考えたが目を閉じたところで眠気が消えたためやっぱり起きることにした。

ゆっくりと立ち上がり、当たりを見渡す。

薄暗い光が窓から差し込みテーブルを照らす。


そのテーブルには僕の父が俯せになって眠っていた。

お酒に酔って寝てしまったのか顔が赤く、瓶がテーブルの上に置かれていた。

夜のテーブルの上でぐっすりと眠る父をこのままにしておいていいのだろうか。

そっと毛布をかける手もあれば、一旦起こして父の自室へと連れていく手もある。


いや、まて?これらをしてなにか僕に得があるのか?

ない、ないと、思う。

なら僕はこのまま起こさないでいても大丈夫、なのか。


ふと、思う。

このままこの父親を殺してしまってもいいんじゃないか?と。

だってそうだ。この憎たらしい父を殺してしまえば僕は解放される。もう利用されない。


僕はそう思い、キッチンから包丁を取り出す。

僕は意を決して父の背中の前にくる。

そして手に持った包丁を高く持ち上げる。

たぶん、この包丁はあまり使われていない。

父が使ったところを見たことがないから。


「馬鹿だね、父さん。父さん注意深い人間だったのに、こんな鋭利な物なんかを置いといてさ!」


僕はそのまま力強くその包丁を父の背中に刺す。

串で刺すように、紐を切るように、愛を壊すように。

そんな思いで僕は殺す。


次の瞬間、父の背中は赤黒い血液がダダもれた状態で俯せになっていた。

今まで僕を散々利用していた父は、呆気なく死に至っていた。

それはあんまりにも現実味がなく、まるで虫を潰すかのようなそんな感覚だった。


しっかりと殺したときの不快感は手元の包丁を伝い体全身へと伝わっていた。

いざ、殺したものの、このあとどうすればいいのだろう。

父は死んだ。

今の行動にはそういう事実しかなく、結局僕の生きる術はなにも生まれなかった。


「結局、自分で逃げ道を消したってこと……?」

その真実に気がつき硬直する。

いや、でもどちらにせよ苦しむ。


今やらなかったらきっと、チャンスはなかった。

それだけは、わかる。

それと同時に、悟ってしまう。

殺したら殺したで、僕に道はないのだと。

そう思い、僕はどうしようもなく、へたり落ちる。


「どうせ飢え死ぬなら、もう死んだほうがいい?」


自問をする。

でもやっぱりなにも出せない。

このまま続けてもなにも起こらないと、わかった。

だから僕は、死のうと思う。



どうせ死ぬのなら痛くないように、僕はお風呂場に行きお湯を沸かす。

そしてナイフを持って行き、お湯に浸かり、手首に刃をかける。


僕はやっぱり愛が嫌いだったよ。

愛って、一体なんなんだろうね。

僕にはわからない、わかれなかったよ。

理解できないし、もう、理解するための材料すらない。

もう、しかたない。

それならそれでやめるしかないよね。人生なんてこんなもんだ。


そう思いながら僕はグッと腕に力を込める。

カッターナイフに当たった手首から赤い液体が溢れだしそれがお湯に溶けて薄赤い湯が広がる。

だんだんと意識が消えていく。

まるでのぼせすぎたかのように、眠気が襲う。


はは、やっぱ痛く、ない、ね。

選んでよかった、よ。


人生最期にしっかりとした選択ができたことに苦笑いを浮かべ、僕は宙へと意識を投げた。

次の人生では愛が分かれますように。そう、願いを込めて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

壊れ行く愛 鼎ロア @Kanae_Loa_kisei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ