☆SMS
※ この話はカクヨム用に新たに
※1 偽計業務妨害罪
いたずら電話は、偽計業務妨害罪になる可能性があります。
※2 虚偽風説流布業務妨害罪
刑法第233条
***
俺 主人公 大学2年生
高橋さん 風俗店のオーナー
息子先生 司法書士兼行政書士
***
俺は、高橋さんの事務所で、いたずら電話対策の案を話し始めた。
「まず、根本的なところから整理しましょう。いたずら電話の原因は、誰かが掲示板へ書き込んでいる事です。これが無くならないと解決しません。既に書かれている発言をすべて削除し、2度と書き込まれないならば、いたずら電話も収束していくでしょう。でも現状、すぐには無理です」
「確かにそうだな」
「原因の書き込み主の事は、一旦、置いておきましょう。次に、いたずら電話ですが、発想の転換といいますか、かけてくるなら、
「はぁ?
「まぁ、話は最後まで聞いて下さい。高橋さん、全員は無理にしても、いたずら電話をかけてくる奴らから、お金を取れるとしたら、いたずら電話も
「いや、金額によるけど、
「固定電話は無理ですが、相手が携帯電話だったら、ショートメッセージサービス(SMS)が使えますよね。それで、こちらからメッセージを送るんです」
「
【お願い】
090-○○○○-○○○○様
あなたのいたずら電話で迷惑しています。
迷惑料を払ってください。
デリヘル○○ 店長
「こんな感じか?」
高橋さんは、近くにあった紙に、サラサラとお願い文の案を書いた。
「でも
「いえ、ショートメッセージサービスを送るのは、高橋さんではありません。弁護士先生にお願いします」
俺は、先ほど書いたメモを出した。
当職は、デリヘル○○より依頼を受けた代理人です。依頼人は、貴殿の電話で営業に支障を来たしており、偽計業務妨害罪(※1)として告訴する相談を受けております。また、情報発信請求を○○○○裁判所に行い、その後、民事訴訟も検討しています。貴殿からの電話内容は証拠として録音し保管しています。和解の意思がある場合は、○○年○○月○○日までに、当職へご連絡ください。なお、期限を過ぎた後は、示談は一切致しません。
○○弁護士事務所 弁護士○○○○
ホームページ
URL ○○○○○○○○○○○○○○○
「プロの司法書士先生の前で恥ずかしい文章ですが、こんな感じでショートメッセージサービスを弁護士先生が送ります。長いなら、2回に分けて送ればいい。これが届いたら、いたずら電話をした奴らは、どう思いますかね」
「そりゃ、びっくりするだろう。
「そうですね。びっくりした後に、確認のためURLをクリックすると思います。その弁護士事務所のホームページに、携帯番号を載せておけば、本物だと分かるでしょう。その上で、おそらくですが、半分くらいは、弁護士事務所に電話してくると思います。俺の予想では、そのうち、7割は、示談するでしょう。携帯電話が会社からの貸し出しだったり、いたずらとはいえ、奥さんにデリヘルに電話した事がバレたくない人とか、学生さんとか、困ると思った人は、示談するでしょう」
「示談って幾らくらい取るんだ?」
「余り高額だと、向こうも弁護士に相談するでしょうから、電話回数にもよりますが、10万くらいですかね。仮に、いたずら電話してきたのが200人いたとして、そのうち半分が弁護士事務所に電話してくる。その7割が10万円で示談したら、700万円です。弁護士先生の成功報酬が引かれますが、結構な金額になるでしょう。弁護士先生も張り切ると思いますよ。素人がのこのこ弁護士事務所に電話してくるなんて、弁護士にすれば
「700万円ってすげーな。それなら、いたずら電話も我慢できるわ。むしろ、どんどん、かけてきて欲しいくらいだな」
「
「先生、分かっててワザと言っているでしょ。司法書士は代理人になれませんよ。それに、ショートメッセージサービスは、弁護士名で送るから意味があるんです。一般の人は、司法書士や行政書士が、どんな仕事をしているのか知らないと思います。だからピンとこない。でも、弁護士なら、全員知ってますよね。だから、ビビるんです」
「ははは。それにしても
司法書士先生が、冗談を言った事に少し照れながら聞いてきた。
「そうだぞ、シカトを決め込んでくる奴はどうするんだ?」高橋さんも同じ事を言った。
「えーと、まず、この方法はネットにあったのをアレンジしました。開示請求や内容証明郵便を使わずに示談を促すものです。ただ、元々、この方法には穴があって、こちらは全員を訴えるつもりはないし、仮に訴えても、回数の少ない場合は、おそらく負けるという事です。相手が弁護士に相談すれば、いたずら電話の回数にもよりますが「こんな事で訴えれないから無視していい」と言われると思います。法律に詳しい人も無視するでしょう」
「うん、私でもそう言うね」と司法書士先生が同意した。
「でも、シカトした人は、2度といたずら電話をかけてこないと思います。それだけでもメリットがあります。それから、弁護士に相談した人は、相談料として5000円、損をする。中には、
「電話代を払っていたずら電話した上に、さらに5000円、損をするか。少額だが、確かにザマーだな」
「やる気のある弁護士先生なら、固定電話の方にも電話をかけるでしょうし、示談〆切りの期日が近づいてきたら、連絡のない人に電話をかけるかもしれません。それから、いたずら電話の回数が極端に多い奴は、示談金が入ったら本当に訴えたらいいんですよ。高橋さん次第ですがね」
「そうか。示談金で裁判費用を出せばいいのか。それならトータルで損はないな。いやぁ、
「話は変わりますが、高橋さんのお店のスマホは、通話内容を録音されていますか?」
「おお、いたずら電話がある前から、録音している。たまに、指名した
「じゃあ、証拠はバッチリですね。それと、携帯電話会社にもよると思いますが、話し中だと指定した番号に転送してくれるサービスがあったと思います。確か基本料金はタダで、転送の電話料金だけ、かかります。電話受付が2人いる時は、その機能を使えば、本当のお客さんを逃さない事も出来ますよね」
「おお、それは知らんかった。早速、取り入れよう。ん、待てよ、その機能を使うなら、いたずら電話の多い時間帯に女の子を電話番で雇って、いたずら電話の対応をさせよう。女が出れば、相手も恥ずかしい事を言ってくるから、証拠集めも
「あー、聞こえない。聞こえない。今の話は聞かなかった事にします」
「私も何も聞いていません」と、息子先生。
「それで先生。本命の掲示板に書き込んでいる奴はどうします? 俺も考えてみましたが、
「うん。私もさっき、高橋さんと相談していたんだけど、刑事も民事もどうかなぁ。ただ、実際に被害が出ているから、情報発信請求は通るような気がするね」
「いや、先生。奴の連絡先さえ特定できれば、後はこっちでやります。それ以上は、
高橋さん、あんた、一般人だと言っていただろう。
「ごほんごほん。まぁ、一度、うちの親父の所に行って、相談してみましょうよ」と、息子先生が話を変える。
結構、時間が遅くなったので、この日は解散となった。その間にも、事務所には、多くの電話がかかってきていた。
***
数日後、父弁護士先生の事務所に3人で行った。俺は関係ないのだが、発案者として連れて行かれた。たぶん、息子先生の
俺が計画案を事前にパソコンで作っておいたので、高橋さんから父先生への説明はスムーズだった。一通り説明を聞いた父先生は、しばらく考えてこう言った。
「高橋さん。すまんがこの依頼は受けられない」
驚いた俺は、父先生に尋ねた。
「先生(父)、どうしてですか?」
「こういうやり方があるのは、私も知っている。グレーのような気がするが法的にダメというわけではないと思う。ただ、私の仕事の流儀には合わないと思っただけだ。いたずら電話の回数が多い人に対して、法的に対処するなら受けるが、訴える気もないのに全員というのは、私の流儀に反する」
室内が重苦しい空気に包まれた。
「これを受けてくれそうな弁護士を紹介するよ。若い奴か、弁護士を多く抱えている弁護士法人なら受けるだろう」
そう言って、父弁護士先生は何人かの弁護士を高橋さんに紹介した。もしかしたら、息子先生は、こうなるのをわかっていたのか?
父先生が依頼を受けないというなら、これ以上、用はない。俺達が帰ろうとすると、父先生が俺を呼びとめた。
「
俺は、無言で一礼して、弁護士事務所を出た。
父先生から大きな宿題を
***
それから、高橋さんもいたずら電話対策で忙しかったようで、俺達3人の飲み会が行われたのは、ずいぶんと時間が
当然、話題は、あの件がその後どうなったかだ。
高橋さんによれば、俺の予想を上回り、全体の約6割の人と示談したそうだ。中には、示談金を3万円、5万円に減額したり、分割払いもあったとか。お金を取れるなら、とにかく
詳しくは、示談書に口外禁止条項があるので聞けなかったが、たぶん、恥ずかしい内容の録音があった事が効いたのだと思う。
「それにしても、恥ずかしい録音内容ですね」などと、言外に匂わせれば、金を払う人もいるだろう。
俺は、掲示板に書き込んだ奴が、どうなったか聞いてみた。
「
俺も息子先生も空気を読んで
息子先生は、ちゃっかり、高橋さんと顧問契約を結んだそうだ。高橋さんからすれば、お礼の意味もあるのだろう。
飲み会の帰り際に、高橋さんから、いろいろ助かったとプレゼントを頂いた。大きさから、図書券か商品券かと思ったので、その場で開けるのも失礼だと思い、お礼を言って、家に帰ってから開けた。
中には、金色のカードが入っていた。
デリヘル○○ 超VIPカード
会員NO.001
超スペシャルサービスが常時無料
有効期限 店が続く限り
ありがたいけど、さすがに使えないよ。
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