☆SMS

※ この話はカクヨム用に新たに執筆しっぴつしたものです。


※1 偽計業務妨害罪

いたずら電話は、偽計業務妨害罪になる可能性があります。


※2 虚偽風説流布業務妨害罪

刑法第233条 虚偽の風説を流布・・・※2・・・し、又は偽計を用いて・・※1・・、人の信用を毀損きそんし、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。


***


俺    主人公 大学2年生

高橋さん 風俗店のオーナー

息子先生 司法書士兼行政書士


***


 俺は、高橋さんの事務所で、いたずら電話対策の案を話し始めた。


「まず、根本的なところから整理しましょう。いたずら電話の原因は、誰かが掲示板へ書き込んでいる事です。これが無くならないと解決しません。既に書かれている発言をすべて削除し、2度と書き込まれないならば、いたずら電話も収束していくでしょう。でも現状、すぐには無理です」


「確かにそうだな」


「原因の書き込み主の事は、一旦、置いておきましょう。次に、いたずら電話ですが、発想の転換といいますか、かけてくるなら、好きなだけ・・・・・、かけてきてもらいましょう」


「はぁ? ○○おれさん、何言ってんの?」


「まぁ、話は最後まで聞いて下さい。高橋さん、全員は無理にしても、いたずら電話をかけてくる奴らから、お金を取れるとしたら、いたずら電話も我慢がまんできませんか?」


「いや、金額によるけど、かねを取れるなら、少しは我慢できるな」


「固定電話は無理ですが、相手が携帯電話だったら、ショートメッセージサービス(SMS)が使えますよね。それで、こちらからメッセージを送るんです」


○○おれさん、もしかして、さっきのホームセンターの店長さんのような事をやるの?」と、息子司法書士先生が言う。


【お願い】

090-○○○○-○○○○様

あなたのいたずら電話で迷惑しています。

迷惑料を払ってください。

デリヘル○○ 店長


「こんな感じか?」


 高橋さんは、近くにあった紙に、サラサラとお願い文の案を書いた。


「でも○○おれさん、電話番号がバレても問題ないと思っている奴に、そんな事をしても金を払うとは思えないんだが。着信拒否して終わりだろ。むしろ、怒って別の番号からかけてくるかもしれない」


「いえ、ショートメッセージサービスを送るのは、高橋さんではありません。弁護士先生にお願いします」


 俺は、先ほど書いたメモを出した。


 当職は、デリヘル○○より依頼を受けた代理人です。依頼人は、貴殿の電話で営業に支障を来たしており、偽計業務妨害罪(※1)として告訴する相談を受けております。また、情報発信請求を○○○○裁判所に行い、その後、民事訴訟も検討しています。貴殿からの電話内容は証拠として録音し保管しています。和解の意思がある場合は、○○年○○月○○日までに、当職へご連絡ください。なお、期限を過ぎた後は、示談は一切致しません。


○○弁護士事務所 弁護士○○○○

ホームページ

URL ○○○○○○○○○○○○○○○


「プロの司法書士先生の前で恥ずかしい文章ですが、こんな感じでショートメッセージサービスを弁護士先生が送ります。長いなら、2回に分けて送ればいい。これが届いたら、いたずら電話をした奴らは、どう思いますかね」


「そりゃ、びっくりするだろう。しくは、詐欺さぎか、いたずらかと思うかも知れないな」


「そうですね。びっくりした後に、確認のためURLをクリックすると思います。その弁護士事務所のホームページに、携帯番号を載せておけば、本物だと分かるでしょう。その上で、おそらくですが、半分くらいは、弁護士事務所に電話してくると思います。俺の予想では、そのうち、7割は、示談するでしょう。携帯電話が会社からの貸し出しだったり、いたずらとはいえ、奥さんにデリヘルに電話した事がバレたくない人とか、学生さんとか、困ると思った人は、示談するでしょう」


「示談って幾らくらい取るんだ?」


「余り高額だと、向こうも弁護士に相談するでしょうから、電話回数にもよりますが、10万くらいですかね。仮に、いたずら電話してきたのが200人いたとして、そのうち半分が弁護士事務所に電話してくる。その7割が10万円で示談したら、700万円です。弁護士先生の成功報酬が引かれますが、結構な金額になるでしょう。弁護士先生も張り切ると思いますよ。素人がのこのこ弁護士事務所に電話してくるなんて、弁護士にすれば鴨葱カモネギですからね」


「700万円ってすげーな。それなら、いたずら電話も我慢できるわ。むしろ、どんどん、かけてきて欲しいくらいだな」


○○おれさん、その仕事に私も一枚、ませて貰えないかな?」


「先生、分かっててワザと言っているでしょ。司法書士は代理人になれませんよ。それに、ショートメッセージサービスは、弁護士名で送るから意味があるんです。一般の人は、司法書士や行政書士が、どんな仕事をしているのか知らないと思います。だからピンとこない。でも、弁護士なら、全員知ってますよね。だから、ビビるんです」


「ははは。それにしても○○おれさんはエグい事を考えるね。でも、この方法は、連絡して来ない半分の人には効果がないという欠点がある。それはどうするの?」


 司法書士先生が、冗談を言った事に少し照れながら聞いてきた。


「そうだぞ、シカトを決め込んでくる奴はどうするんだ?」高橋さんも同じ事を言った。


「えーと、まず、この方法はネットにあったのをアレンジしました。開示請求や内容証明郵便を使わずに示談を促すものです。ただ、元々、この方法には穴があって、こちらは全員を訴えるつもりはないし、仮に訴えても、回数の少ない場合は、おそらく負けるという事です。相手が弁護士に相談すれば、いたずら電話の回数にもよりますが「こんな事で訴えれないから無視していい」と言われると思います。法律に詳しい人も無視するでしょう」


「うん、私でもそう言うね」と司法書士先生が同意した。


「でも、シカトした人は、2度といたずら電話をかけてこないと思います。それだけでもメリットがあります。それから、弁護士に相談した人は、相談料として5000円、損をする。中には、あわてて、スマホの番号を変える人もいると思いますが、携帯電話会社に番号変更手数料を支払う事になります。そう思えば、高橋さんも、少しは溜飲りゅういんが下がりませんか」


「電話代を払っていたずら電話した上に、さらに5000円、損をするか。少額だが、確かにザマーだな」


「やる気のある弁護士先生なら、固定電話の方にも電話をかけるでしょうし、示談〆切りの期日が近づいてきたら、連絡のない人に電話をかけるかもしれません。それから、いたずら電話の回数が極端に多い奴は、示談金が入ったら本当に訴えたらいいんですよ。高橋さん次第ですがね」


「そうか。示談金で裁判費用を出せばいいのか。それならトータルで損はないな。いやぁ、○○おれさん、いい話を聞かせてもらった。早速、検討してみるよ」


「話は変わりますが、高橋さんのお店のスマホは、通話内容を録音されていますか?」


「おお、いたずら電話がある前から、録音している。たまに、指名したが違うとか、制服オプションを頼んだのに用意してないとか、トラブルがあるんだ。ほとんどは客の勘違いだけど、そんな時のために録音している」


「じゃあ、証拠はバッチリですね。それと、携帯電話会社にもよると思いますが、話し中だと指定した番号に転送してくれるサービスがあったと思います。確か基本料金はタダで、転送の電話料金だけ、かかります。電話受付が2人いる時は、その機能を使えば、本当のお客さんを逃さない事も出来ますよね」


「おお、それは知らんかった。早速、取り入れよう。ん、待てよ、その機能を使うなら、いたずら電話の多い時間帯に女の子を電話番で雇って、いたずら電話の対応をさせよう。女が出れば、相手も恥ずかしい事を言ってくるから、証拠集めもはかどるな。なんなら、女の子を心療内科に行かせて、診断書を貰えば・・・」


「あー、聞こえない。聞こえない。今の話は聞かなかった事にします」


「私も何も聞いていません」と、息子先生。


「それで先生。本命の掲示板に書き込んでいる奴はどうします? 俺も考えてみましたが、虚偽風説流布きょぎふうせつるふ業務妨害罪(※1)は難しいと思うんですよ。実際に高橋さんの奥さんが電話に出ていて、奴が店の女の子と勘違いしただけ。虚偽ではない。むしろ、宣伝してやっていると言われるとね」


「うん。私もさっき、高橋さんと相談していたんだけど、刑事も民事もどうかなぁ。ただ、実際に被害が出ているから、情報発信請求は通るような気がするね」


「いや、先生。奴の連絡先さえ特定できれば、後はこっちでやります。それ以上は、堅気の方かたぎのかたには・・・」


 高橋さん、あんた、一般人だと言っていただろう。


「ごほんごほん。まぁ、一度、うちの親父の所に行って、相談してみましょうよ」と、息子先生が話を変える。


 結構、時間が遅くなったので、この日は解散となった。その間にも、事務所には、多くの電話がかかってきていた。


***


 数日後、父弁護士先生の事務所に3人で行った。俺は関係ないのだが、発案者として連れて行かれた。たぶん、息子先生の思惑おもわくで、俺を発案者とした方が、自分にとばっちり・・・・・が来るのを避けられると思ったんだろう。


 俺が計画案を事前にパソコンで作っておいたので、高橋さんから父先生への説明はスムーズだった。一通り説明を聞いた父先生は、しばらく考えてこう言った。


「高橋さん。すまんがこの依頼は受けられない」


 驚いた俺は、父先生に尋ねた。


「先生(父)、どうしてですか?」


「こういうやり方があるのは、私も知っている。グレーのような気がするが法的にダメというわけではないと思う。ただ、私の仕事の流儀には合わないと思っただけだ。いたずら電話の回数が多い人に対して、法的に対処するなら受けるが、訴える気もないのに全員というのは、私の流儀に反する」


 室内が重苦しい空気に包まれた。


「これを受けてくれそうな弁護士を紹介するよ。若い奴か、弁護士を多く抱えている弁護士法人なら受けるだろう」


 そう言って、父弁護士先生は何人かの弁護士を高橋さんに紹介した。もしかしたら、息子先生は、こうなるのをわかっていたのか?


 父先生が依頼を受けないというなら、これ以上、用はない。俺達が帰ろうとすると、父先生が俺を呼びとめた。


○○おれ君、この案は君が考えたんだって? 企画案のレポートは良く出来ているよ。ただ、前にも言ったと思うが、法律は、防具にもなれば、武器にもなる。法曹になるなら、その意味をもう一度、考えてほしい」


 俺は、無言で一礼して、弁護士事務所を出た。


 父先生から大きな宿題をいただいた。


***


 それから、高橋さんもいたずら電話対策で忙しかったようで、俺達3人の飲み会が行われたのは、ずいぶんと時間がってからだった。


 当然、話題は、あの件がその後どうなったかだ。


 高橋さんによれば、俺の予想を上回り、全体の約6割の人と示談したそうだ。中には、示談金を3万円、5万円に減額したり、分割払いもあったとか。お金を取れるなら、とにかくむしり取ろうというスタンスのようだった。総額では、かなりの金額になったらしい。


 詳しくは、示談書に口外禁止条項があるので聞けなかったが、たぶん、恥ずかしい内容の録音があった事が効いたのだと思う。


「それにしても、恥ずかしい録音内容ですね」などと、言外に匂わせれば、金を払う人もいるだろう。


 俺は、掲示板に書き込んだ奴が、どうなったか聞いてみた。


○○おれさん、世の中には知らない方がいい事もある」と言って、高橋さんは、それ以上、何も言わなかった。


 俺も息子先生も空気を読んでえて聞かなかった。


 息子先生は、ちゃっかり、高橋さんと顧問契約を結んだそうだ。高橋さんからすれば、お礼の意味もあるのだろう。


 飲み会の帰り際に、高橋さんから、いろいろ助かったとプレゼントを頂いた。大きさから、図書券か商品券かと思ったので、その場で開けるのも失礼だと思い、お礼を言って、家に帰ってから開けた。


 中には、金色のカードが入っていた。



 デリヘル○○ 超VIPカード

 会員NO.001

 超スペシャルサービスが常時無料

 有効期限 店が続く限り



 ありがたいけど、さすがに使えないよ。



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