☆いたずら電話

※ この話はカクヨム用に新たに執筆しっぴつしたものです。


俺    主人公 大学2年生

高橋さん 風俗店のオーナー

息子先生 司法書士兼行政書士


***


 俺達は、高橋さんの事務所で、いたずら電話の相談を受けた。


「いたずら電話って、出張風俗サービス業に、わざわざ、そんな電話をしてくる人がいるんですか?」


 意外な相談だったので、俺は思わず聞いてしまった。


「ああ、それがさ、電話に出て店名を言うと、ガチャ切りされるんだ。だから、俺も最初は、ただの間違い電話かと思った。でも、余りにも頻繁ひんぱんに無言電話かかってくるんで、試しに電話に出た時、こっちも無言で対応してやったんだ。10秒くらいだったら、本当の客でも、お待たせしましたで済むだろ」


「それで、どうなりました?」


「お姉ちゃん、どんなパンツ穿いてんの、って感じで、エロい事を言ってきた。俺が、なんじゃ、われって怒鳴ったら、すぐに切ったけどな。何件か試したけど、みんな、そんな感じのいたずら電話だったよ」


「今までも、そういう電話はよくあったのですか?」


「いや、間違い電話くらいはあるけど、無言電話は、こんなに多くなかった。だから、同業者の嫌がらせかと最初は思ったよ」


「困っておられるという事ですが、どれくらいの頻度ひんどなのですか?」


「夜に集中しているな。同じ奴が連続してかけてくるので、客の電話がつながらないくらい、酷い《ひど》い時もある。時間帯が主に夜なのは、ネットに何か書かれているんじゃないかと思い、ウチの若い奴が、エゴサーチって言うんだっけ、とにかく、検索したら、掲示板に書き込みを見つけたんだ」


 高橋さんは、その書き込みを撮った写真をパソコンで見せてくれた。



 ここのデリヘルは店の女の子が電話受付をヤってる (*´д`*)ハァハァ♡


 リンク先→(お店のホームページ)



「何ですか、これ?」


「人手が足りない時に、ウチの嫁が臨時で電話番をしていた事があったんだ。だから、その時の事を知っている奴だと思う」


「じゃあ、これを書いた人って、お客さんの誰かって事じゃないですか」


「たぶんな。女の子か、サービスに不満でもあって、嫌がらせしてんだろ」


「ちなみに掲示板の管理者に削除要請したんですか?」


「したした。いたずら電話で困っているって書いたら、すぐに消してくれたよ」


「それなら、いたずら電話も徐々に減ってくるのでは?」


「これが減らないんだ。ウチの若い奴が調べたら、削除した掲示板だけじゃなく、あちこちに書き込みしているらしい。その度に削除依頼を出しているが、いたちごっこだな。たぶん、ウチで見つけていない書き込みもまだあるだろう」


 これまで黙っていた息子先生が、ここで割り込んだ。


「いや、これはもう、法的手続きを取った方がいいですよ」


「俺もそう考えて調べて見たんだけど、発信者情報開示請求して、相手を特定して、裁判だろ。どんだけ金と時間がかかるか分からん。勿論もちろん、それを書いた奴には責任を取らせたいが、その間にいたずら電話が減るわけじゃない。今、困ってんのは電話なんだよ」


「先生、弁護士会照会を使えば、電話会社に相手の氏名や住所などを確認出来ますよね?」


 俺もよくわからないが、一応、聞いてみた。


「1回、2回くらいの着信だと、間違い電話だと判断されるから難しいと思う。それに弁護士に頼むと弁護士会照会だけでも1件当たり10万円は、かかるから、いたずら電話全部には対応できないですね」


「なるほど。高橋さん、携帯電話だと、番号非通知の着信を拒否できますよね」


「それはもうやっている。お客さんの中には最初、非通知で、かけてきて、女の子が空いているかだけ確認する人もいるんだ。空いていたら予約を入れてくれる。でも、非通知拒否だと、そういう電話もかかってこなくなるから、うちも痛手なんだ。それなのに電話番号を通知してでも、いたずら電話をかけてくるバカが絶えない。マジで困っている」


「お店の電話番号を変えるのは?」


「掲示板に書かれたのは、電話番号ではなく、ウチのホームページアドレスなんだ。電話番号は変更出来るが、変えたらホームページの電話番号も更新するだろ。だから意味がない。ホームページアドレスも変えれるが、風営法の営業届出を出し直したりしなくちゃならんから面倒だし、変えたとしても、今度は、そのアドレスを掲示板に書かれたらどうするんだ?」


「本当にもう、いたちごっこですね」


 その後、高橋さんと息子先生が法的な話をし始めた。その時、俺の頭にイケるかもしれないアイデアが浮かんだので、鞄からメモを出して、考えをまとめていった。2人の話が落ち着いたのを見計らって、俺は話し始めた。


「ちょっと話は変わりますが、東北にあるホームセンターの元店長さんが、迷惑駐車に困っていた時に行った対策がブログに書いてあったんですよ。都心と違って、地方だと駐車場を営業時間外に施錠や閉鎖をしないそうです。ホームセンターの駐車場なんて、広いですからね。閉鎖も大変だとか」


「へぇ」


「閉鎖してないから、夜間に数台は駐車していくそうです。ホームセンターにすれば、営業時間外に数台、止まっていても何も影響ないですから、普段は放置しているそうです。でも、困る時もあるんです。何だと思います?」


「若い男女が車でイケない事をするとか?」


 ・・・先生。


「いや、先生、営業時間外だから、それは問題ないだろ。ゴミさえ駐車場に捨てなければいい。ああ、そうか、雪だろ? 俺、北の出身だから分かるよ」と、高橋さんが答える。


「高橋さん、正解です。そのホームセンターは、冬になると駐車場に雪が積もるんです。雪が10cm以上、積もった日は、夜明け前に契約している土建屋さんの除雪車じょせつしゃが除雪に来るそうです。ただ、駐車場に車が止まっていると、その部分だけ除雪が出来ない。1台ならまだいいですが、数台だとさすがに困るそうです」


「それくらいなら、そんなに困らないでしょ?」と、東京生まれ、東京育ちの息子先生が言う。


「先生、除雪ってね、雪が消えて無なくなるわけじゃない。ホイールローダー(※1)で駐車場のすみに雪を集めているだけなんだ。だから冬場は駐車場全体が雪で狭くなって、駐車可能台数が減るんだよ。そんな所に迷惑駐車車両があれば、その左右も除雪出来ないから、最低でも3台分の駐車スペースが減るんだ。店の人は仕方ないから、人力で除雪するしかない。いい迷惑だろ」


「高橋さん、お詳しいですね」


「おお、ウチの実家が土建屋だからな。冬場は、あちこちから除雪の仕事が入るんだ」


「なるほど。それで話を戻しますが、迷惑駐車に頭を痛めた元店長さんは、閉店後に止まっている車のワイパーに文書を挟んだそうです。文面は、こうでした」


【お願い】

 除雪の妨げになりますので、営業時間外の駐車はご遠慮ください

 ホームセンター○○ ○○店 店長


「えらく優しい物言いだな」と高橋さん。


「まぁ、客商売ですからね。強く言えないんでしょ。その結果なんですが、迷惑駐車は一時的に減りましたが、すぐにまた、元に戻ったそうです。大体は、そのお願い文がクシャクシャに丸めて駐車場に捨ててあったそうです。ひどい人になると、店のサービスカウンターへ怒鳴どなり込んできたそうですよ」


『いつもこの店を利用しているんだ。ちょっとくらい、いいだろ』


「逆切れってやつだな。でもさ、迷惑駐車って警察に頼めば何とかならんのか?」と、高橋さんが尋ねる。


「私有地は、民事不介入らしいですね。道路から店に入る出入口を車がふさいでいるのなら、営業妨害で動いてくれるかもしれません。昔は警察も割と融通を利かせて対応してくれたが、今は、やんわりと断られるって、元店長さんも書いていました」


「なるほどね」


○○おれさん、私は、雪の事はよくわからないけど、営業妨害になるなら、法的に対処すればいいのでは?」と、司法書士先生が尋ねた。


「店の駐車場に車を止めるのは、ほとんどは近所の人なんですよ。客商売ですから、ご近所とは、あまりトラブルになりたくなかったそうです。元店長さんは本社の法務部にも相談したそうですが、敷地の地権者(地主)が近所に複数いるから穏便に、という回答だったそうです」


「地権者か。そうなると店長さんも立場が弱いよね」


「それで、いろいろ悩んだ元店長さんは、閉店後に車のナンバーをメモして、お願いぶんを作成し、印刷したものを、わざわざラミネートして、穴を開けて、柔らかい布紐ぬのひもで車のドアミラーにしばりつけたそうです。取りやすいように、わざわざ蝶々結びで」


【お願い】

 練馬○○ あ1○○4 様

 除雪の妨げになりますので、営業時間外の駐車はご遠慮ください

 ホームセンター○○ ○○店 店長


「前回と違うのは、お願い文に、迷惑駐車車両の車両ナンバーを書いた事です」


「それでどうなったの?」


「2週間、毎日、それを続けていたら、迷惑駐車が無くなったそうです。しかも、お願い文を駐車場に捨てて行く人もいなかったそうです」


「そりゃ、それを捨てたら、自分が迷惑駐車をしていたと、見た人に周知するようなもんだからな。持って帰るしかないだろ」


「それにしても、その店長さんは、よく考えられましたね」と、息子先生が感心して言った。


「そうなんですよ。先生も行政書士だからお分かりかと思いますが、車のナンバープレートだけでは、陸運局へ行っても所有者は分からないんです。車検証に記載されている車台しゃだい番号(※2)と、車両ナンバー(ナンバープレート)の両方がないとダメなんですよ。だから、お願い文に車両ナンバーを書いたところで、持ち主は特定できないんです」


「確かにそうだね」


「でも、一般の人はそういう事を知らない人がほとんどじゃないですか。そうすると、迷惑駐車をしている人も、ナンバープレートが記録されている → 特定されるかも → ヤバい、と思う訳です。人間の心理をよく考えていますよね」


「お願いって所もいいね。あくまでお願いだから、店は何も強要していない。これなら店長さんも、本社の人に怒られないね」


「いやぁ、なかなか面白い話だったけど、ウチの店の迷惑電話対策と、この話って、何か関係があるの?」と、高橋さんが俺に尋ねた。


「それはですね・・・」と、俺は自信ありげに話し出した。





※1 ホイールローダー プルドーザーがキャタピラじゃなく、タイヤをいたような重機


※2 車台しゃだい番号 エンジンルームにも刻印してある。


【お知らせ】

 大賞作で「○○○でチート能力(○○○)を・・・」という書籍が発売されている事は、カクヨム読者様なら、よくご存知かと思いますが、この書籍化作品のタイトルと、本作のタイトルの一部が類似しておりますので、2022年1月3日に、本作のタイトルを「現代でチート能力(未来予知)を得たが俺は堅実に生きたい」から「隼町へ向かう道」に変更致しました。


 周知のため、キャッチコピーは、旧タイトルにしておりますが、こちらもいずれ変更の予定です。なお、隼町はやぶさちょうは、最高裁判所のある東京都千代田区の町名です。



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