☆出張サービス業
※ この話はカクヨム用に新たに
※1
弁護士、司法書士など「士」の付く職業
***
高橋さんは、財布を落した女性の旦那さんだ。勘違いから俺を殴ったが、その後、
最後に俺と会った後も、俺の怪我の状態について心配しており、父弁護士先生の事務所に何度も電話で確認していたそうだ。
完治した頃に、父弁護士先生から連絡があった。
「高橋さんから、完治したお祝いに
高橋さんと俺との示談書では、接触禁止などの条項は定めていないので、わざわざ、父先生を通す必要はないのだが、気を使っておられるのだろう。
「えーと、先生、受けた方がいいですか?」
「さすがに、もう、殴られる事はないだろうし、純粋にお詫びの気持ちだと思うから、奥さんが来ないならいいと思うよ。奥さんが来たら、
「いやぁ、先生、さすがに俺も反省してますから」
「心配だったら、ウチの息子と一緒に行ったらどうだ。高橋さんは御商売をされているから、あいつ(司法書士先生)にも何か仕事を回して貰えるかもしれない」
こんな事でも、やっぱり仕事に結びつけるのか。
「なんか、大人の汚い部分を見た様な気がします」
「なに思春期の
いずこも世知辛い。俺も見習おう。
結局、高橋さんとは、息子先生も交えて食事に行く事になった。
***
「大学の時に免許を取りたかったんだけど、金がなくてさ、喫茶店でアルバイトしてたんだよ。ゲーム喫茶って、お前達、若い奴らに言っても分かるかな。今はもう見かけなくなったけど、テーブル型のゲーム機が、机の代わりに置いてある喫茶店だ。かつては一世を
以前、父の自慢話(主に貧乏自慢)を聞いていた時に、そんな話をし始めた。
「ある時、オーナーから身分証明書を持って来いって言われたんだ。当時、マイナンバーカードはなかったし、バイトする時に身分証明証を出すなんて事も余りなかったから、不思議に思って理由を聞いたんだ」
「へー」
「そしたら、何か警察から指導を受けたそうで、従業員名簿が必要だからと言ってたよ。ゲーム喫茶って風営法に引っかかるらしいと聞いて驚いた覚えがある。俺は運転免許証を持ってなかったから、わざわざ実家に頼んで住民票を取り寄せたよ」
ゲーム喫茶というと、違法な
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
長い名前の法律だが、通称、
ちなみに未成年者が何時以降、ゲームセンターに入れないという規制は、風営法ではなく、都道府県の条例によるものだ。だから、A県では午後7時まで。B県では午後6時まで、何て事もある。
高橋さんが
無店舗なのに、お店とは、
何の事はない。お店はホームページ上にある。だから実際には無店舗。店はない。例えるのも何だが、ネット通販店と同じ事だ。
このお店は、一般的には、デリヘルと呼ばれる出張風俗サービス業だ。風営法の届出は警察の
***
俺は、息子先生と高橋さんの3人で食事に行った。男同士で、しゃれた店のコース料理なんてのは、さすがに勘弁して欲しかったので、おでんが食べたいとリクエストしたら、高橋さんは、新宿ゴールデン街の店に連れて行ってくれた。
カウンター席だけの小ぢんまりした店だったが、俺はこういう所に来るのが初めてだったので、目新しく感じて、気に入ってしまった。
「いやぁー、
「いえいえ、高橋さんには何度も謝って
「
「はいはい。すいませんでした。先生達の本意はちゃんと分かってますから」
息子先生は、少し酔っているようだ。
「いや、そうは言ってもね、
え。堅気って、高橋さんはそっち系の人だったのか? 俺はそんな人の奥様に
「えーと、もしかしたら、高橋さんはそっち系の方なんでしょうか?」
俺は恐る恐る、指で
「違う違う。そりゃ、若い頃は、いろいろヤンチャもしたけど、そっち系じゃないよ」
どの程度のヤンチャだったのか気になる。
「もし、高橋さんの気が収まらないのでしたら、たまに、こんな感じのお店に連れて行ってくれませんか。次は
「私も」と、息子先生も便乗する。
「え、そんな事でいいならお安いご用だけど、俺さんは、女の子のいる店の方が好みかと思った。そっちでもいいんだけど」
「いえいえ、作家の隠れ家的な、こういう店の方が楽しそうです」
「そうですか。じゃあ、また、今度、行きましょう」
「私は女の子のいる店の方が・・・」
先生、酔ってますか?
その後、高橋さんのヤンチャ話やお店の話など、彼の話は本当に面白かった。俺の知らない事なので、まるで異世界の話を聞いているようだった。(作者注 読者様ありがとう)
俺の事もいろいろ聞かれた。奥様には2代目のボンボンという設定だったが、旦那様には嘘をつかない方がいいと思った。
「あの、実は俺、学生なんですよ。奥様には嘘をついていました。ごめんなさい」
「
息子先生、酔っているとはいえ、勘弁して下さい。
「なんだ、学生さんだったんですか。てっきり、社会人かと思ってましたよ。まぁ、俺もそうでしたけど、若い時はいろいろ経験した方がいい。ヤンチャ出来るのも若い時だけだからね。でも、人の物に手を出すのはダメだよ」
話題は、俺が一番、避けたかった奥様の話になった。
「はい」
「実を言うと、今回の事は俺が悪かったんだよ。店の女の子に俺が手を出したのがウチの女房にバレてね、それもあるんだ。笑えるだろ?」
さすがに笑えません。
「研修してたら、ついね」
この業界は内部恋愛禁止なのでは? あ、社長だからいいのか。
「女房も女房でさ、あの後、いろいろ聞いたら、ネットで読んだ、落し物から始まるロマンスって題名の小説に感化されて、ついトキめいてしまったんだってさ」
そうか。奥様もちょっとその気だったのか。
「もし、俺が奥様に手を出していたらどうされました?」
最近はビールをジョッキ2杯まで、飲めるようになった俺はちょっと酔っていたと思う。
「江戸時代は女房を寝とった奴を
高橋さんは、笑顔で言った。俺は、酔いが一瞬で冷めた気がした。
「そう言えば、
興味は当然ある。でも、俺の性癖まで高橋さんに知られる気がするから、さすがに遠慮したい。
「俺、そういうのはちょっと(大ウソ)。それより、よかったらお店の事務所を見学させて貰えませんか?」
「え? 事務所には女の子もいないし、何もないよ。そんな所を見たいなんて、変わった人だね」
「何事も経験と言うじゃないですか」
「まぁ、別にいいけど」
楽しい時間は過ぎるのは早い。俺は新宿で2人と別れた。息子先生は、俺の代わりに高橋さんのお店のスペシャルサービスを受けたそうだ。
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