☆泣く子と○○には勝てない

俺    主人公 英国に留学経験あり

ミア   小6女子。USと日本のハーフ

お母さん ミアの母。アメリカ人


***


 学校との話し合いから約1ヶ月後、お母さんから「ステイツアメリカへ、ミアとしばらく行く」と言われた。家庭教師は、帰国後もお願いしたいとのことだった。


 ミアは、まだ学校に行けていなかった。


***


 ある日の朝方、ミアのお父さんから俺に電話があり、家庭教師や通訳で世話になったお礼を言われた。日本に帰ったら、食事をしようとも誘われた。また、ミアの将来について現役げんえき学生としての意見を求められた。


 日本に住み続け日本の大学に行くなら、11歳までアメリカにいたミアは、日本語がネックで日本の学習に付いて行くのが精いっぱいだろう。このまま中学に進学すると、成績がよくないから高校進学で進路先の選択肢がせばまる。


 可能なら中高一貫校に入り、受験に関係なく6年計画で大学受験に持って行きたい。帰国子女向けのコースのある中高一貫校がベストだろうか。


 アメリカの大学に行くなら、さびしいとは思うがお母さんの親戚などにお願いして、そのままアメリカにいるか、日本でアメリカン○クールなどに入学するかだろう。


 お父さんには、そんな感じで伝えた。


 お父さんは、ミアは、まだ小学生だったし日本の学校に通っていれば、日本語や学習も「そのうちなんとかなる」と思っていたそうだ。


***


 11月のある日の夕方、ミアの小学校から俺に電話がかかって来た。相手は、教頭先生だ。


「急に申し訳ありません。○○ミアさんのご両親の連絡先をご存じでしょうか?」


「○○さんご一家は、アメリカに行っておられます。何か急用でもありましたか?」


「実は、本校の事がアメリカのTV番組で取り上げられたようで、問い合わせが来ております。こちらとしても、寝耳ねみみに水の話でして、なにか事情をご存知かと思いまして連絡を取りたいのです」


 あー。お母さん、向こうで何かやったんだな。


「申し訳ありませんが、私の通訳契約も日本国内におられる時だけでして、アメリカの連絡先まで聞いてないんですよ」


「そうでしたか。もし、連絡がつくようでしたら、こちらにご連絡いただけるよう、お伝えいただけますか?」


「わかりました。ちなみにお父様のお勤め先は学校さんもご存じでしょうから、そちらに、お聞きすればいかがでしょうか」


「早速、連絡してみます。ありがとうございました」


 冷静に考えれば、父親の会社に問い合わせればいいのに、教頭先生もあわてていたのかな。


 いろいろ気になった俺は、日本のネットで検索してみたがヒットしなかった。英語で検索してみると、USのサイトでいろいろと情報を得る事が出来た。


 まず、動画サイトに違法アップロードされているものを見つけた。おそらく、地方のケーブルTVの番組だと思うが、ミアの小学校のいじめを取り上げていた。


 ニュース番組ではないので、内容はかなり脚色きゃくしょくされており、ひどいものだった。あやしげなコメンテーターが第2次大戦の話まで持ち出していた。


「我が国の少女が日本の学校で迫害はくがいされている」


「学校は関与を否定し、調査を依頼したが拒否された」


「日本の学校では、アメリカ人を「○○」と教育している。信じられない」


「日本はテロ国家なのか?」


 俺が製作を依頼した動画が番組で使用されていた。お母さんがアメリカのメディアに持ち込んだのだろう。


 この番組が向こうのSNSで拡散され話題になっていた。はっきり言ってアメリカ人は「日本の学校のいじめ」など全く興味を示さないはずだ(他国に興味を持たないのは日本も同じだが)。


 ただ今回は、アメリカ人が国外でいじめられていた事。男子生徒の暴言がアメリカ人の愛国心を傷つけるものだった事。いじめられていたのが弱い立場の少女だった事。これらが重なって拡散されたようだ。アメリカ人の愛国心は、日本人の俺にはピンとこないが、テロ事件の対応を見ればなんとなく理解できる。


 ミアはハーフなので、日本とアメリカの両方の国籍を持っている。日本にいるなら、22歳までにどちらかの国籍を選択する必要があるが、今は間違いなくアメリカ人でもある。(作者注 近々、法改正で20歳までになる)


***


 ここから先、俺は全く関知していない。


 2週間後にアメリカの保守系大手放送局が、この話題を取り上げた。ネットでかなり炎上していたからだろう。内容はケーブルテレビよりは、まともな内容だった。


 その放送後、なんと大統領がSNSでコメントした。


「アメリカを敵視した教育を行っている日本の自治体をテロ組織と認定するか検討する」


 あの大統領は、やるかどうか別にしてSNSにとんでもない事を書くので有名だ。これは「国外のアメリカ人も必ず守る。そのためにはどんな手段でも取る」という彼のリーダーシップを強調するためのものだろう。また、選挙のからみもあり、彼の保守系の支持者に向けたメッセージだと俺は思っている。


 アメリカは軍事力もる事ながら、金融に関しても大きな力を持っている。テロ組織として認定した場合、その組織と個人のアメリカ国内の資産凍結と金融取引を停止する。


 そして、アメリカ財務省が日本に「わかっているな?」と言えば、日本政府や日本の銀行も、日本国内で同様の措置を取らざるをない。そうしないと今度はテロ組織をかばう銀行となり、この銀行にもアメリカは制裁するだろう。


 大統領のコメントを受けて日本のマスコミも動いた。ニュースやワイドショーで小学校のいじめ問題が大きく取り上げられ(マスコミはいじめと認定していた)、教育委員会が記者会見を開いていた。


 公立学校で問題があった場合、教育委員会が頭を下げるのには俺は納得できない。普段は学校に丸投げのくせに、謝罪会見だけ教育委員会が担当するのはおかしいと思う。


 会社に例えるなら、どこかの支店が問題を起こしたら、本社が謝罪会見するのと同じ事なので問題ないとは思うのだが・・・。心情的に校長が出て来いと思う。


***


 マスコミは、学校だけでなく、大統領のコメントについて、総理、官房長官、関係閣僚、東京都知事、○○区区長を取材し、その様子がニュースに流れた。大方おおかたの見方としては「あのコメントは本気ではなく区の対応をうながすものだ」としていた。政府は自治体と教育の独立性を強調し「必要に応じて区と連携を取りながら」という立場だった。


 ただ、それに納得しなかったのは○○区民と、ネット民だ。


「区がテロ自治体に指定されたらどうするんだ」と、区役所へ抗議電話が殺到さっとうしたらしい。後に区議会でも大きな問題になっていた。


 ネット民は即座に特定作業を始めたが、その前に中南米の某国発信で、関係者の顔写真入り個人情報がさらされた。お母さんはやり過ぎだ。


 それを受けて日本のネットでは、親が叩かれ、勤務先へも多数の苦情が入ったらしい。その後、子供や親、学校がどうなったのか、俺も詳しくは知らない。


 ミアのお母さんの巧妙こうみょうなところは、すべて海外で行った事だ。日本の法律が通用しないし、仮に刑事や民事で日本人がお母さんを訴えたとしても、どうやって証明するのかという話になる。


「マスコミに情報を提供しましたが、どこからそれが流出したか、わかりません」とお母さんが言えば、それまでだろう。何より、すでに国際問題になっているので日本の警察も動けない。


 某国のホームページに書かれた個人情報も削除依頼は出来ても、日本から法的な削除命令は出せない。保護者もお手上げ状態だ。


 学校や保護者がさらされるくらい問題があったのか? と言われれば、ここまでやる必要はなかったと俺は思う。「虎の尾を踏んでしまった」としか俺は言えない。


***


 ミア一家いっかは、お父さんの赴任ふにんが長引いた事もあり、クリスマスが終わった12月末に帰国した。


 ミアは年明けの1月から私立の小学校に編入することとなり、4月から関連の中高一貫の女子校に(事実上)持ち上がりになるそうだ。


 どうやって編入したのか気になったが、ご両親は「それは言えない約束になっているので」と言葉をにごした。なので、俺もえて聞かなかった。


 ミアとお母さんには、しばらくの間、私服警官がつくことになったそうだ。なんかすげーな。


 俺は「ICレコーダーの時にご褒美をあげる」という約束を思い出し、ミアに何がいいか聞いたが「今すぐ決められないので」と保留になった。


 遅くなったがクリスマスプレゼントとして精巧な地球儀をあげたら、少し嫌そうな顔で「ありがとう」と言った。この子は本当にわかりやすくていい。


 ご両親の許可をもらって、俺が持ち込んだ漫画、ボードゲーム、ゲーム機は、そのままミアにあげた。


 俺の家庭教師は週2回で継続となり、通訳は契約満了となった。



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