☆学校との話し合い

※ 作中では、『』は、英語、「」は日本語という表現で使用しております。


俺    主人公 英国に留学経験あり

ミア   小6女子。USと日本のハーフ

お母さん ミアの母。アメリカ人


***


 1週間後に教頭先生から俺のスマホに電話があった。


「先日、お母様からご要望のあった件ですが、結論から申しますと」


「いや、ちょっと待って下さい。私は単なる通訳ですので、私に説明されても困ります。ミアさんのお母様が直接、説明を聞くべきだと思いますので、改めてご連絡します。話はそれからにしてください」


「そうですか、わかりました。ご連絡をお待ちしております」


 俺がお母さんに連絡すると、やはり「直接、話を聞きたい」と希望されたので学校と面談日程の調整をした。俺の判断で、今回は校長の出席を求める事にした。小学校の最終的な責任者は校長だからだ。


 しかし、なぜか教頭は、校長の出席を渋っていた。


「それでは教頭先生が全責任をわれると解釈させていただいてよろしいですね。こちらは大事おおごとにしてもいいんです。学校にやましい所があるから校長は逃げて会合にも出なかったと公表させていただきます」


 はっきり言って、これは「はったり」だ。ただ、世間知らずの学校の先生には効果があったようだ。最終的に校長も出席する事になった。


 校長なんて、全部、教頭に任せて、普段、何をやっているかわからない名誉職なんだから面談くらい気持ちよく出てこいと俺は言いたい。


***


 学校との話し合いの日、向こうからは、校長、教頭、学年主任、担任が出席した。こちらは、お母さんと俺だ。


 まずは担任から報告があった。


「お母様が名前をあげられた生徒達に事情を聞きましたが、確かに口喧嘩くちげんかなどはありましたが、私も立ち会って、お互い仲直りしています。「いじめ」というほどの事は、なかったと思います」


『→ 聞き取り調査の結果、いじめの事実はない』


『・・・・・・・・・・・・・・』


「この学校では、10人で1人の女子生徒を取り囲んで口撃こうげきしたり、男子生徒数名で1人の女児を小突こづくのは、「いじめ」ではないという判断なのですね?」


「えっ」と担任は声を出した。


「いやいや、お母さん、何分なにぶん、子供のやる事ですからねぇ」と、校長が愛想笑あいそわらいで担任をフォローした。


『→ 子供同士のやった事だ』


「担任の先生のご様子では、そういう事を知らなかったようですが、事実確認のために、該当児童の聞き取りだけではなく、クラス内での無記名のアンケートなどは行われたのでしょうか?」


「そこまで大げさには・・・」と担任。


「質問にお答えください。聞き取り以外の確認はあったのでしょうか?」


「・・・いえ、聞き取りだけです」


『→ 調査は聞き取りだけで、アンケート等などはしていない』


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


「校長先生、担任の先生の確認を踏まえて、学校としては「いじめ」はなかったというご判断なのですね?」


「聞き取りなどが不十分な点もあったかもしれませんが、子供同士のちょっとした「いざこざ」があったという認識です。何分なにぶん、子供の事ですから、毎日、いろんなトラブルはあるものなんですよ」と校長は答えた。


「再度、確認しますが「いじめ」ではないと?」


「はい」


『→ いじめとは考えていない。単なる子供同士のトラブルだ』


『・・・・・・・・・・・・・・・・・』


「それについてはわかりました。ただ、ミアさんはこれが原因で不登校になっています。今後、学校側はどう対応されるのかお聞きしたいのですが?」


○○ミアさんが安心して登校していただけるように、担任、副担任、学年主任が一丸となって見守っていきますし、必要に応じて教育相談員やスクールカウンセラーも手配させていただきます」と、今度は学年主任が答えた。


「担任、副担任、学年主任の先生がたは、具体的にはどういった事をされるのでしょうか?」


「それは、支援と見守り、相談の受付などです」学年主任がそう言った。


「学校全体として、娘さんが安心して登校できるように最大限に配慮します」と校長先生も言った。


『→ 学校としてはスクールソーシャルワーカーやカウンセラーを準備するが、その他については具体的な対策は何もない』


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』


「わかりました。次に、相手の親御おやごさんとの件は、なんとかなりそうですか?」


「そこまで大きな問題だとは考えていませんので、子供同士で解決すべき事かと考えております」教頭が少し困ったような顔で答えた。


「こちらが要望しておりました、相手の保護者との話し合いは、学校としてはセッティング出来ないと言う事ですね?」


「はい」


「それでは、相手の連絡先を教えていただけないでしょうか?」


「それも、今の時代、個人情報保護の観点から出来かねます」


『→ 相手の親との会談は学校として出来ない。相手の連絡先も個人情報なので教えられない』


『・・・!・・・・・・・!・・・・・・!』


 お母さんは、英語で汚い言葉を言って、そのまま応接室を出て行ってしまった。俺は、どう訳したらいいか悩んだが、


「えーと、これ以上、お話しすることはないそうです。本日はお時間をいただきありがとうございました」と言うしかなかった。


「個人的な意見ですが、たぶん、あのお母さんは大事おおごとにすると思います。国際問題になりかねませんので○○区に報告しておいた方がいいですよ。それでは失礼します」と俺は先生がた一言ひとこと、言って俺は退室した。


 お母さんは校門のところで待っておられたので一緒に帰った。明らかにお怒りのご様子だった。


 ただ、今回の学校の対応は仕方のない部分があると思う。当初、ミアの事はホームシックと学校に説明していたので、急に「いじめ」と言われても学校としても困惑したのではないか。


 それに、ミアから直接、話を聞いた俺でも、これが「いじめ」と言えるのかわからない。学校も判断できなかったのも仕方ないだろう。


 学校が「いじめ」と認識していないので相手の親も呼ばない。これも理解しよう。


 問題があるとすれば、担任の事情聴取能力だ。学校も担任任せではダメだろう。今回は、ミアが登校拒否になっただけだが、心の弱い子供だと悪い方へ向かった可能性もある。


 しばらくして落ち着いたのか、お母さんは、おもむろに質問してきた。


『ねぇ、前から思っていたけど、あなたの実家は、もしかしてお金持ち?』


『どうしてそう思われるんですか』


『だって、ミアに貸しているマンガって新品でしょ? 教材やゲームなんかもお金がかかっていると思うの。日当にっとう3000円のアルバイトだと足が出てるんじゃないかしら』


 まいったな。バレてるよ。


『親は普通のサラリーマン・・・(は通じないか)、会社員ですよ。あんまり言いたくないんですが、お金を持っているとしたら、俺本人ですかね』


『やっぱりね。何となくそんな気がしたのよ。それでお願いがあるんだけど、探偵に依頼したいの。どこかいいところをネットか何かで探してくれない?』


『俺の知っている所が2社あります』


『へー。じゃあ、お任せするから、都合のいい時に連れて行って』


『わかりました』


『それと、この事は主人にだまっていて』


『・・・了解です』


 日を改めて俺が馴染なじみの「女性調査員が多い興信所」に行き、お母さんの依頼をした。


 10日程で結果が出たが、お母さんが英文の報告書も欲しいと言ったので、俺が興信所の翻訳ほんやくを手伝った。その分、次回、俺から依頼があれば、料金を割り引いてくれると言っていた。


 また、学校とのやり取りは(内緒で)録音してあるので、前回同様、文字起こし、翻訳、映像化もしておいた。


 お母さんに「教育委員会にも話をしに行くか」と聞いたが『最後通牒は終わっている』と言われたのには少し驚いた。


 日本の教育委員会は、戦後、アメリカのように教育に住民が大きく関わる「教育の自治」を目指して、GHQと文部省が検討して作られた制度で当時は教育委員の選挙もあった。


 ただ「住民が自治を行う」というのが、根本的に日本人には合わなかったようで、今では名前は「教育委員会」だが、事実上、自治体の「教育課」となっている。


 よく物語で「教育委員会に言いつけてやる & ざまぁ展開」というのがあるが、教育委員会の委員は、有識者や地方議員など自治体が任命した人達。働いている人も教員だ。教員が犯罪でも犯していない限り、内輪うちわの組織に自浄作用を期待する方がおかしい。


 保護者が教育相談に行った場合は、親身しんみになって対応してくれる。ただ、学校に対しての苦情等は、学校に差し戻して丸投げする。


 相談するのでなければ、お母さんが行かなかったのは正解だ。



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