☆いじめじゃない!
俺 主人公 英国に留学経験あり
ミア 小6女子。USと日本のハーフ
お母さん ミアの母。アメリカ人
***
翌朝、俺はミアちゃんの学校へ電話をかけた。自分がミアちゃんのお母さんに
「今日の夕方にミアちゃんのお母さんが学校へ訪問したいと言っています。担任と教頭先生とで面談したいのですが、ご都合はいかがでしょうか」
「担任の予定を確認するので、折り返しご連絡します」と教頭先生は言ってくれた。
なぜ教頭先生も一緒なのかというと、通訳について学校の許可を得る必要があるからだ。この場合、担任では上に確認しないとすぐに許可が出せないので最初から教頭先生に同席を願った。
ミアちゃんのお母さんに、学校からの返事待ちだと、一旦、連絡を入れる。1時間ほどして、担任から今日の午後5時以降なら大丈夫だと連絡があった。
俺は、家電量販店でカメラとICレコーダーと外部マイクを買った。ICレコーダーは念のため3つ買った。カメラは昼間に充電しておいた。
***
夕方、
『今日は、よろしくお願いします』
『こちらこそ、よろしく。通訳と言うより、なんかボディーガードね』とお母さんは笑った。俺は身長182cmで、図体もデカく、顔も強面だ。大学1年生には見えないだろう。
『今日の予定は、私的通訳の了承を得ること。次に担任からの電話の用件や、伝言があるかどうか聞く事。最後にミアさんが学校を休んでいる事について
『日本人のあなたの方が、うまく交渉出来ると思うからお任せするわ』
『それでですね、使うかどうかわからないけど、ちょっとしたサインを決めておきたいんです。僕が右耳を手で触ったら、早口で何かしゃべってください。内容はなんでもいいです。左耳を触ったら、怒りながら何か
『ベースボールのサインみたい』
『使うかわかりませんが・・・。それじゃあ、そろそろ行きましょうか』
俺はお母さんを伴って、来客用の玄関に向かった。玄関は鍵がかかっており、インターフォンで「5時に教頭先生とお約束した
玄関でスリッパに
「わさわざすいません」と男性がお母さんに右手を出したが、
「○○ミアの母です。よろしくおねがいします」と、お母さんは日本語で
「担任の○○です。わざわざお越しいただいてすいません」
40歳くらいの担任は、俺にも挨拶をした。
「通訳の
担任は、お母さんに話しかけるが、その
実は、通訳なんてやったことがないので、なるほど、こういうタイミングかと思った。そういえば、お母さんと通訳に関する打ち合わせをしてなかった。
担任は応接室に案内してくれた。しばらくすると、教頭も来て挨拶をする。お母さんは、教頭が来た時、ちょっと驚いていた。あ、教頭も入れての面談だという事をお母さんに説明するのを忘れていた。
『最初に通訳の件を私から話します。しばらくは、任せてください』と俺はお母さんに前置きした。
「最初に私の方からお話しさせていただきます。ご承知の通り、お母様はアメリカの
お母さまからの要望ですが、学校との面談時の通訳の同席、電話連絡が必要な時は、私から学校に電話すると言う形を取りたいのですが、学校として、許可していただけますか。期間は、お父様がお帰りになるまでの3か月です」
俺は教頭先生を見た。40後半から50代かな。
「もちろん、問題ありません。むしろ、そうしていただけると、我々としても助かります」
「それでは、学校として許可いただけると言う事ですね」
俺は、念のため、確認した。
「はい」
よし。
「通訳に関して、こちらから書類等を提出する必要はありますか?」
「いいえ、特にそう言うものはありません」と教頭が答える。
「それでは、学年主任の先生など
俺は、
『→ 通訳の許可が出た』
ここで、女性が麦茶を運んできた。教員か事務員か俺にはわからないが「学校でも来客にお茶を出すのか」と驚いた。
少し落ち着いてから『電話の件、質問して』と、お母さんに
『・・・・・・・・・・・・・・』
「担任の先生から何度かお電話をいただいたそうですが、お母様は日本語がわらないため、用件が何だったか知りたいそうです」
「
『→ミアの様子
『・・・・・・・・』
「
「そうですね、外国から来られて、言葉や環境が違うので、お子さんも大変だったと思います」と教頭先生が答えた。
『→ミアさんも日本で大変だったと、休んでいる事に理解している』
「学校として、いつでもご相談に応じますし、ご希望があればスクールカウンセラーも手配できます」
『→学校はいつでも相談にのる。スクールカウンセラーも手配できる』
『・・・・・・・・・・・』
「担任の先生にお聞きしたいのですが、
「夏休み前に子供達が
『→子供同士の口論はあったがミアの原因は知らない』
「ありがとうございます」とお母さんは、日本語で担任に言った。
「後は、事務的な話だけですので、担任の先生と話します」と、教頭先生にはお礼を言って退出を
「何かあれば、いつでもご連絡ください」と言って、教頭先生は出て行った。
その後、担任と事務連絡等の打ち合わせをし、保護者の署名が必要な物だけ、その場で書いて、後は、持ち帰り俺が英訳する事にした。
打ち合わせが終わりそうな頃合いで、俺は「右耳を触り」、お母さんに視線を向けた。担任は英語のヒアリングは苦手だと思ったが念のためだ。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
俺の意図を理解したお母さんは、なぜかアメリカンジョークを早口で言った。思わず、笑いそうになったが、俺は
「給食のエプロンなどがあれば、一度、洗濯したいので、持って帰りたいのですが教室に案内してもらえませんか」
「お母さんの要望」と
担任は了承し、教室に案内してくれた。ミアちゃんの机と荷物の場所を教えてくれた後、ちょうど、別の先生が担任を呼びに来た。電話らしい。
「私達はすぐ帰りますので、ここで結構です」というと、担任は挨拶して出て行った。
俺が、ミアちゃんの机を確認すると、机の棚(天板下の収納。教科書を入れる所)に、学習プリントが乱雑に詰め込まれていた。中のものを出していくと、奥の方にプリントに交じって「悪口を書いた紙」が数枚と、給食のものと思われる「青いカビパン」もあった。見つからないように隠してあるような気がした。
パンを見たお母さんは、顔を
『Yankee go home』
そう言うと、お母さんは、ため息をついた。「くたばれ」という記述もあったが、それは訳さなかった。
『Bullying?』
『いじめかもしれませんね』
それから、お母さんは、何か考え始めてしまった。俺は1人で机の中身を撮影し、それを持ち帰る事にした。カビパンだけは教室のごみ箱に捨てた。
俺は、考え込んでいるお母さんに『帰りましょう』と帰宅を
***
帰りは、自転車を押しながら、お母さんは俺と一緒に歩いてくれた。
『日本の学校では、いじめがあったら、どうしているの?』
『俺も本やネットでの知識しかありませんが、基本的には、双方に確認して、和解をさせます。学校は、いじめられた側をサポートし、いじめた側を指導します』
『その和解では、いじめられた側は「我慢しろ」と言う事になるわ』
『その通りです。これは、和解というより
『・・・』
『ただ、学校は裁判所ではないので、それ以上の行為や判断は出来ません。安易に
『娘の事は、仕方ないで済ませられないわ』
『もちろんです。ただ、ミアさんがどうしたいかを抜きに、親が話を進めると、ミアさんが取り残されるのではないでしょうか。俺はそれが心配です。ミアさんが自分から話すまで、もう少し待ちませんか』
お母さんは、また、考え始めてしまった。
***
そのまま、ミアちゃん宅に行くと、今日の夕食はカレーライスだった。今日は学校に行くから先に作ってあったそうだ。アメリカ人のお母さんもカレー作るんだ、と、俺は
今日で家庭教師5日目。嫌がるミアを説得して算数の問題を解いてもらった。向こうの学校でも小学5年生まで授業を受けていたので、日本語の問題を英語で説明すれば、きちんと解けた。算数が苦手な原因は、漢字が原因で問題が読めないということだった。算数の教科書には「ふりがなが振ってない。(国語で習っていない漢字には、ふりがながある)。
今日は、漢字の書き取りを中止し、読み問題を集中してやった。その後のお楽しみタイムは、ミアちゃんのやりたいと言っていた独占系ゲーム。
しかし、ボードゲームをやるには、時間が足りないので、ゲーム機でやった。これなら、途中で時間になっても、セーブできると思ったが、操作や日本語の説明に時間がかかりゲームはあまり進まなかった。続きは明日だ。
海賊漫画は、新たに購入して21〜40巻を貸してあげた。本当に読めるのかと聞いてみたら、言葉の意味がわからない所もあるが、絵から想像しているとの事だった。
わからない言葉があれば教えると言って、俺は鞄に入っていた
帰る時に「
俺は昼間に漢字の問題集を買い直した。うっかりしていたが、問題集に直接、書き込んでしまったので、再度、使えない事に今更、気がついた。
コンビニで新しく買った問題集をコピーしていたら結構な枚数になった。後ろでコピーを待っている人がいたので、そこで止めた。
6日目は、小学1年生から2年生の漢字の「読み問題」だけやった。ミアちゃんは、時間はかかるが「ひらがな」をとても綺麗に書く。お父さんが教えたのだと思うがペン習字でもやっていたのだろうか。
算数の教科書をコピーしたものに「ふりがな」を振って解かせてみたが、6年生の問題は漢字の問題ではなく算数そのものを教える必要がありそうだ。
最後に昨日の続きの「独占ゲーム」をゲーム機でプレイした。
***
7日目は、小学2年生から3年生の漢字の「読み問題」。こういうのは、何度も反復が大事。低学年の読みは100%出来るようにしたい。
約1時間20分、勉強して、今日は何をするかという所で、ミアちゃんが「話がある」と言ってきた。ついに「いじめ」について相談されるのかと身構えたが別の事だった。
「先生は、時々、「ミアちゃん」と「ちゃん
本人の前で、俺は「ミア」と呼んでいるが、俺の頭の中では、「ミアちゃん」だ。だから無意識に「ちゃん付け」で呼んでいたのだろう。
「ごめん。これから気をつける」と俺は謝った。
「それから教えてほしい。先生は、家庭教師だとママから聞いた。でも私が学校を休んでいるから来てくれていると思う。私が学校へ行くと、もう、来ないの?」
俺は、どこまで話すべきか考えたが、ここは正直に言った方がよいと思った。
「確かに俺は家庭教師というよりミアを心配したお母さんから、話し相手になってほしいと頼まれている。今後の事は、お母さんが決めるから俺にはわからない。でも家庭教師でなくても、いつだって俺はミアの味方だ。ミアが必要なら、いつでも来るよ。ミアが困っているなら、いつでも助けるよ。それは約束する。言っただろう『俺が来たから、もう安心』って。だから心配するな」
ちょっとだけ、ミアが笑ったような気がした。ここは、流れで一気に行ったほうがいいかな。
『ここからは英語で話す。ダイレクトに聞くけど、もしかして、ミアは学校で、いじめられている?』
『いじめじゃない!』と、ミアは珍しく大きな声を出した。
『私は負けてない。3人にも勝った。でも10人には勝てなかった。
初めて見たミアの勝気なところに俺は驚いた。もしかして、今まで猫を被っていたのか?
それより俺にはミアの言っている事がよく理解できなかった。何の話だ?
詳しく聞いてみると、
ある日、小学校でミアと男子が口論になった。内容は、たわいのないことだ。ミア
それが気に入らなかった男子が、今度は、男3人でミアに「お前のせいで○○が傷ついた」と、いいがかりをつけてきた。ミアも正論で
翌日、男女10人がミアに「○○が
やがて
最悪なのは「外人は母親を
母親まで侮辱されてミアも腹を立てたが、さすがに10対1では、
それから、ミアに対して、男子達が事あるごとに、暴言を吐いてくるようになった。もちろん、ミアも応戦した。ひどい時は
ある時、ミア達が
ミア以外は「
ミアの方は、そもそも、いいがかりをつけられた被害者なので理由などない。先生の前では「悪口を言われた」としか言えなかった。
担任は、全員に「話し合いや議論はいいが、口喧嘩といえども、喧嘩はダメだ。熱くなって暴言になったところもあると思うから、お互いに謝って、また仲良くなろう」と解決を
その日、家に帰ってから「先生の対応はおかしいと思う事」「自分がきちんと言えなかった事が悔しい事」「自分は悪くないと思っている事」など考えていたら、学校に行きたくなくなったそうだ。
親に学校に行かない理由を言わないのは「お母さんの悪口を言われた事を言いたくない」「お父さんは日本人だから、アメリカ人が馬鹿にされた事を理解してくれるか心配」という事もあるらしいが、一番の理由は「理由がわからないから、なんと言っていいか、わからない」という事らしい。
「理由がわからないから理由を言えない」って、このあたりは、子供らしいのか? 登校拒否の理由としては、
そこで、俺はいろいろ考えいみた。
俺は、アメリカ人は「意見の違いがあっても互いの考えを尊重する」と思っている。だから、口論で「勝ち」「負け」と言うミアには違和感しかない。
本人が喧嘩だと思っているなら「いじめじゃない」と言うのも理解できる。すると、たとえ10対1でも「負けたこと」がミアにとっては悔しいだけなのか?
・・・そうか、喧嘩なら早い話、逃げているだけだ。でも、本人はそれを認めていないし、認められない。だから、「逃げている」と親に言えないのか。
『えーと、ミアの気持ちを代弁すると、「相手が多すぎて負けただけ。今は、行っても勝てないから、戦略的撤退で休んでいるだけ。今に見ていろ」こんな感じ?』
『それだ!戦略的撤退だよ』
『相手が多いからミア1人では勝てない。援軍を呼んで相手を
『あり』
『もし、俺やミアのご両親が動くと、相手に大ダメージを与えるけどいいのか?』
『いい』
『勝ったとして、今の学校にこのまま行きたい?』
『お父さんが決めた事だから』
『「外国から帰国した子供が多く通う日本の学校」と「日本にいる
『「今の学校」は選ばない』
『男の子達に言われた事ってどんな言葉?』
「英語しゃべるな。アメリカか?」(芸人のマネ?)
「アメリカ人は帰れ」
「アメリカ人○○○○」
「○○○○○○○○」
『最後のは、よくわからない』
それは戦時中の言葉だ。知らなくていい。むしろ、小学生がよく知っていたな。
『あと、お母さんの悪口もあるけど、それは言いたくない』
『わかった。えーとな、ミア、よく聞いてほしい。俺はお前のママに、今の話を説明したいが、うまく説明できる自信がない。日本には、論より証拠ということわざがあってだな、要するに証拠が欲しい。ミアは勝つためなら、
「行く」
俺は、学校に行きたくないというミアを、いじめがあるかもしれない学校に行かせようとしている。
だがミアの事をどうするにしても、証拠や情報がいると思う。どうするか決断するのは、ミアの両親だから、俺が出来るのは、証拠集めだけだ。ミアと両親には、後で土下座でも、
俺は、ミアと話し合って作戦を決めた。ミアはノリノリだった。
明日、家庭教師が休みなのは予定通りだが、渡すものがあるので午後7時30分にミアに会いに行く事にした。
俺は学校の近くで待機しているから、嫌になったら先生に言わなくてもいいから帰って来る。
以上が作戦だ。
『あさっての金曜日にミアが学校に行ってみる事になった。ただ、お試しなので、嫌なら途中で帰っていいと言ってあります。事後報告で申し訳ありませんが、それでもいいでしょうか?』
お母さんは、それでいいと喜んでいた。なんか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。