隼町へ向かう道

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不登校の女子小学生

☆家庭教師

【新作公開のお知らせ】

「現代でチート能力を得たが」シリーズ第2弾


「現代でチート能力を得たが、俺は聖人君子になりたくない(治療能力)」を公開しました。


https://kakuyomu.jp/works/16816927860151908277/episodes/16816927860167828799


***


※ 『』は、英語、「」は日本語という表現で使用しております。


※ 作中の「T大学」は架空の大学であり、文京区本郷にしかキャンパスがないという設定にしております。


***


↓ 以下本文


【大学1年9月上旬】


 9月上旬のある日、俺は昼食を食べに大学生協へ行き、その帰りになんとなく学生支援課のロビーにある掲示板を見に行った。ちょっとした時間つぶしだった。


 掲示板には、アルバイトの募集などがってあるのだが、俺はある募集に目が止まった。


「小学6年生の家庭教師。ただし、英語が話せる事。委細いさい面談」


 英語必須という所にかれて、支援課で紹介状を発行してもらい、早速、相手先に連絡した。


『ハロー』


『ハロー、私はT大学の学生で○○おれと言います。家庭教師の件でお電話したのですが、今、お話ししても大丈夫ですか』


『大丈夫』


『まず、英会話が必要との事ですが、私は、高校の時に1年間、UKに留学しましたが、日常会話程度しか話せません。それでも大丈夫でしょうか?』


『私はステイツアメリカだけど、今、話している感じだと問題ないと思うわ。ただ、娘なので出来れば、女性がよかったのよね』と、母親はため息をついた。


『あー、それならT大学は元々、女子学生は少ないし、今は夏休みで人がいないから、難しいかもしれませんね。外国語大学や女子大に依頼された方がいいかもしれません。俺なら断ってくれてかまいませんよ』


『でもあなた、大学から紹介状をもらっているでしょ。一度も面接せずに断るわけにはいかないから、取りえず、一度、娘と会ってみない? ウチの娘は人見知りするので、相性が合わなければ、お断りするという事でもいい?』


勿論もちろんかまいません。では、いつごろにしましょうか? 俺は今、夏休みなので、いつでも大丈夫ですよ』


『それじゃあ、明日の午後7時30分に、○○のファーストフード店でどうかしら』


『明日の午後7時30分に○○のファーストフード店ですね。わかりました』


 保護者同伴とはいえ、夜に小学生がファーストフード店というのに少し違和感を覚えた。ただ、親が仕事なのかもしれないと思い、気にしない事にした。


***


 翌日、指定時間の少し前に、ファーストフード店に着いた。入口付近に、白人女性と、Tシャツ、ジーンズのブロンドヘアの少女がいた。俺は、すぐに声を掛けた。


『失礼ですが、▲▲さんですか?』


○○おれさんね? 初めまして。こっちは、娘のミア。ミア、ご挨拶しなさい』


『ルイゼ?』


 ミアちゃんは俺に聞いてきた。


『そうだ俺が来たから、もう安心』


 ミアちゃんは、ニコリと笑った。つかみはOKのようだ。ただ、お母さんは、不思議そうな顔をしていた。


 ルイゼというのは、米国アニメの登場人物の名だ。主人公がピンチの時に「俺が来たからもう安心」という決め台詞せりふと共に、どこからともなく現れる。


 ネットで調べたら、アニメの第2期にアジア系のスポンサーがついたらしく、原作には出てこない、アジア系男性のキャラとして、ルイゼが登場した。アジア進出を視野に入れた梃子てこ入れらしい。


 このキャラが俺に似ているそうだ。激似というわけではないが、イギリス留学中にも子供達に「ルイゼ、ルイゼ」と言われた事があった。折角せっかくなので、俺は、決め台詞の声マネを練習していた。


 いつまでも店の前にいる訳にもいかないので、店に入って3人で注文した。9月といえども、まだ昼間は暑い。俺とお母さんはアイスコーヒー、ミアちゃんは、クッキーの入ったアイスのようなモノを頼んでいた。代金は、お母さんが出してくれた。


 お母さんは、30代後半、ブロンドで身長が高い。何系アメリカ人なのか俺には、よくわからない。眼鏡をかければ、すごく知的に見えると思った。


 次にミアちゃんだが、一目ひとめでハーフ、もしくは、クォーターだとわかる。金髪だが顔にアジア系が入っている。


 席に着いて、ミアちゃんに俺の自己紹介をする。


『俺の英語は分かる?』と、聞いてみたがOKらしい。


 お母さんがだまっているので、視線を送ると目配めくばせしてきた。


 今日は相性あいしょうのテストだったな、と思い出し、俺からミアちゃんにいろいろ話しかけた。


 彼女は、ずっとアメリカに住んでいて、昨年の夏に日本に来た。今は小学6年生だ。お母さんはアメリカ人だが、父親は日本人なので日本語も話せる。学校の話をすると、少し怪訝けげんな顔をした。生活習慣の違う日本の学校で苦労しているのかも思い、話題を変えた。日本の印象や、今まで日本のどこに行った事があるか。好きな食べ物、アニメ、漫画、本、映画、TV番組、スポーツなど。


 それから、俺の方からも自分の事を話した。


「大学で法律を学んでいる。高校の時に1年間、UKに留学した。地方から出てきて1人暮らししている。父と母と妹がいる」などなど。


 こうしてみると、俺の個人的な事はあまり話す事がない。つまらない男だ。


『あのソフトキャンディは好き?』


 定番ネタとして聞くと、好きだと言うので、事前にコンビニで買ってきたモノをあげた。コンビニには2種類しか売ってなかった。


『そろそろ遅いからお開きにしましょう』


 お母さんが終了宣言したので、面接はここまでらしい。どうやら、お母さんは、日本語が、うまく話せないのかもしれない。


『明日にでも、また連絡します』と言って、親子は帰って行った。


 ミアちゃんは、日本語で「またね」と軽く手を振ってくれた。


***


 翌日、お母さんから電話がかかってきた。家庭教師を引き受けてほしいという事だったが、少し事情があった。


 長いお母さんの話を要約すると、ミアちゃんは、夏休みの2週間前から少し様子がおかしかったが、その1週間後の朝、部屋に鍵をけて、出てこなくなった。それで、学校は休ませたが、母親にも父親にも、その理由は言わなかった。


「そろそろ思春期だし、学校生活で何か思う事があるのかもしれない。もうすぐ夏休みなので、少し様子を見よう」と、父親は考え、夏休みまでそのまま休ませた。夏休み中にステイツへ3週間ほど帰る予定もあったので、気分転換てんかんして帰ってくれば、また学校に行くかと思っていたそうだ。


 だがミアちゃんは、2学期になっても学校に行かなかった。ちょうど、父親が9月から短期の海外出張になったので、母親は困ってしまった。カウンセリングもすすめたが嫌だと言われたそうだ。


 そこで、家庭教師と言う名目で、娘と仲良くなって、娘の話を聞いてくれる人を探していたそうだ。親には言えない事でも話せる相手が娘には必要だと考えたらしい。家庭教師は、女性の方がいいと、御母さんが言ったのはそのためだ。


 要するにミアちゃんのが必要ということだ。


『ミアがあなたともう一度、話したいと言っているの。あの子にしては珍しいのよね。それで、この際だから、あなたにチューター家庭教師をお願いしたいの』


『家庭教師はOKですが、勉強を教えるより、仲良くなるのが先なのですね?』


『そこはあなたに任せるわ。まずは、会ってちょうだい。明日の夜とか、どうかしら』


『大丈夫です』


『じゃあ、明日の午後7時〜9時にお願い。住所はわかるかしら』


『わかります』


 お母さんの電話は、そんな感じで終わった。それにしても登校拒否か。日本の学校にアメリカから来た子が転入したんだ。何かしら問題が出るだろう。


 俺は、留学から帰国した時の事を思い出した。戻ってきても高校2年生のままだったが、担任もクラスメイトもすべて知らない人になっていて、かなりの違和感だった。


 ミアちゃんの場合は、俺よりもっと疎外感そがいかんがあったのではないだろうか。


***


 翌日、俺はミアちゃんの自宅を訪ねた。


 3階建ての住宅で1階の一部が駐車場。土地の広さは30坪くらいだろうか。地方から出てきた俺には、庭もない都市型の住宅は奇妙きみょうに見えた。


 10分前くらいに、家のインターフォンを押すと、お母さんが挨拶あいさつもそこそこに、3階のミアちゃんの部屋に案内してくれた。俺が大きな荷物を持っていたのには、驚いた様子だったが。


『詳しい話は、終わってからしましょう』と、お母さんは言った。


 ミアちゃんの部屋に入り、挨拶をする。『夕食は食べたか?』など、少しだけどうでもいい話をする。


『あのセリフを言ってほしい』


 話が途切れた時、ミアちゃんが、突然、そう言った。


『俺が来たから、もう安心』


 アニメキャラクターの決め台詞を、俺は声マネして言った。


 ミアちゃんは、少し微笑んだ。


 俺は、ミアちゃんの事を何と呼べばいいか、一応、聞いてみた。


「ミアでいい」というので、そう呼ぶ事にした。俺の事は、日本語で先生と呼ぶように言った。という言葉には、少し嫌そうな反応をした。


『今日は日本語の勉強をする』と言うと、また、嫌そうな顔をしたが、俺がボードゲームを取りだすと「あれ?」という顔をした。この子は表情が読みやすくていい。


 アメリカ生まれの「車のコマに乗って、進学、就職しながら、ゴールを目指す」すごろくゲームだ。俺は、今日の昼間に買ってきて、すぐプレイできるよう、箱を開けて準備しておいた。実は、これを持ってくるのが大変だった。大きすぎて入るかばんがなかった。


『このゲームを知っているか?』と聞くと、知っているそうだ。ただ、やった事はないらしい。日本では超定番だが、あちらでは、そうではないのか? もしかしたら「1人っ子」なのも影響しているのかもしれない。


『ミア、今日は、このゲームをするね。でも、日本語版だから、わからない言葉はその都度つど聞いてね』


ミアちゃんは、「わかった」と、日本語で言った。


 すごろく系のゲームで、接待プレイは出来ないが、幸いにもミアちゃんが勝った。ちょっと、うれしそうなのが印象的だった。


「もう1回」と強請ねだられたが、止まったマスを日本語で説明しながらプレイしたので、1時間以上かかってしまった。


『今日は時間がないから、また、次にやろう。その代わり、ゲームは置いて行くから』と、なだめた。大きいので持って帰りたくないのが本当の理由だ。


 今日は、ミアちゃんの日本語力を知りたかった。そのため、本屋で小学1年生から6年生までの漢字の問題集を買ってきた。それを出すと、今日一番の「超嫌そうな顔」をした。このままだと、逆効果かな。


『日本の子供は漫画まんがを読んで漢字を覚えるんだ。ミアが好きな漫画、読んでみたい漫画はある?』


 ミアちゃんは、ちょっと考えて、


『クラスメイトが海賊の漫画の話をしていたので、それを読んでみたい』


『それなら、俺が持っているから、次に来るときに貸してあげるよ』


「うれしい」とミアちゃんは日本語で言った。


『その代わり、ちょっとだけ、漢字のテストをさせてくれないかな。ミアがどこまで日本語を知っているか、知りたい』


「わかった」と、しぶしぶ、ミアちゃんは問題を解いてくれた。


 小学1、2年をランダムでやってもらったが、読みは、ぼちぼちだが、書く方はダメだった。


 公立学校でも帰国子女や外国人児童への日本語支援があると何かで読んだ事があったがミアちゃんは、日本語を話せるから、支援対象外なのかもしれない。読み書きは家庭で、やるべき事なんだろう。


 漢字のテストと検証が終わると、時間も9時を少し回っていたので『今日は、ここまで』と、俺は言った。


「次は、いつ来るの?」


「お母さんと相談してから」と俺は答えた。


***


 俺はミアちゃんにお願いして一緒に2階へ降りてお母さんを呼んでもらった。


 リビングへ案内されて少し待たされた。どうやら、その間に親子で話をしていたようだ。しばらくすると、お母さんだけが現れた。


『ミアから、次はいつ来るのかと聞かれたわ。なつかれたものね。一体、どこが』


 お母さんは、言いよどんだ。


『適性試験はパスでしょうか?』


『こちらからお願いしたいくらいだわ。それで、お金の話だけど、元々の予定だった、時給2000円でいいのかしら?』


『問題ありません。ただ、俺としては、お金より夕飯がいいです。アメリカの家庭料理が食べたいですね。なんなら、こっちがお金を払ってもいい』


『・・・あなた、変わった人って、人に言われない?』


 交渉の結果、2時間で3000円。夕食付となった。


 これは非常にありがたかった。大学が始まれば、学校から直接来ても夕食にありつける。それに、ミアちゃんといっしょに食べれば、さらに打ち解けられるかもしれない。


『学校に行くようになるまで、可能であれば毎日でも来てほしい』とお母さんは、言ったが、さすがに毎日は無理だ。それでも、早く仲良くなしたいので、今日も含めて1週間は、毎日来ると約束した。


***


 翌日から、連日のミアちゃん宅、もうでが始まった。夏休みなので、俺の勉強、英語レッスンなどの予定は、すべて昼間へシフトした。


 海賊漫画は、電子書籍で持っていたが様々な事情で小学生に俺のタブレットは見せられない。とりあえず、単行本の1〜20巻を本屋で買った。○巻だけが売り切れで、わざわざ、別の本屋に買いに行った。新品だとバレないようにビニールや帯は外して捨てた。


 2日目の夕方、単行本20冊を持ってミア宅へ行った。意外と重い。


 夕食は、主食はパンだが和洋折衷(わようせっちゅう)。ちょっと俺の求めていた家庭料理とは違う気がしたが、日本だから仕方ないのか。でも、おいしかった。


 ミアちゃんにはしは使えるか聞いたが、父親に習って使えるらしい。お母さんは、使おうと思えば、使えるレベルだそうだ。


 部屋に行くと挨拶代わりにアニメキャラの声マネを要求された。そんなに気に入ったのか?


 今日からは、会話はすべて日本語にした。質問時は、英語OKとした。まずは、漢字を40分、勉強した。


「日本で、生活するのに必要な漢字は、大体、2000字だそうだよ。1日、1個覚えれば、5年かかるけど、ミアは若いから、1日、2コか3コは覚えられるはず。そしたら、2年で覚えられる」という話をしたが興味なさそうだった。


 でも、書き取りを頑張がんばったので、俺が持ち込んだポータブルプレイヤーで、有名な日本のアニメ映画を、音声日本語、字幕日本語で一緒に見た。


 これは、日本語の勉強ではなく、単なるコミュニケーションだ。語学は、1回、映画を見たくらいで、なんとかなるものではない。


***


 3日目は、漢字の勉強をして、もう一度、すごろく系ゲームを。4日目は、勉強後、俺が持ち込んだ、カートのレースゲームをした。ゲーム機は買ってから充電などの準備をしておいた。


 ミアちゃんは、海賊漫画の1〜20巻読んで、面白かったと言っていた。意外と読むのが早いな。21〜40巻の追加購入が決まった。


 4日目の夜に、お母さんから相談があると言われた。遊びが多くて怒られるかなと思ったが、通訳の話だった。


すでに知っていると思うけど、夫は今、短期でステイツアメリカに行っているの』


『一時的な単身赴任ってやつですね』


『それで困っている事があって、私は日本語がうまく話せないの。「今日は風邪で休みます」くらいの簡単な話なら言えるけど、み入った話だとちょっとね。それで、娘の学校の先生から、何回か電話がかかってきているけど、話が通じないし、学校からのお知らせも日本語で読めない。今までは、学校との話は、全部、夫がしてくれたんだけど・・・』


『それは困りましたね』


『最悪、ステイツから夫が学校に電話してくれるんだけど、時差の関係で日本の夕方は、東部だと深夜3時なの。夫も、さすがに深夜はきついと思うのよ』


『それは確かに』


『だから、こちらで担任と話をしたいんだけど、言葉が問題なのよね』


『わかりました。旦那様が帰ってこられる3カ月間、俺が臨時の通訳をしましょうか?10月、11月は学校があるから夕方からしか電話できませんが』


『本当? それでもいいから、ぜひお願いしたいわ』


『それなら、まずは、学校に通訳を雇ったという話を通しておくべきかと思います。学校は夕方の方が先生の時間が空いているので、お母さんの都合のよい日に、2人で小学校に行きませんか。そこで私を通訳として紹介してください。一度、学校に話しておけば、担任の先生と俺が直接話をして、お母さんに伝えることもできます』


『よかった。実は、いつ学校から電話がかかってくるか冷や冷やしてたのよ。いきなりだけど、明日の夕方は大丈夫?』


『私は大丈夫ですが、学校さんの都合を聞かなくてはなりません。明日の朝、俺が学校へ電話を掛けて聞いてみます。学校名と電話番号、娘さんのクラスと番号、それと担任の先生の名前を教えてください』


『娘は、○○小学校6年2組○○番よ。担任は○○先生』


『わかりました。では、明日、学校に電話して、改めて連絡します』


 俺は、ミアちゃんに挨拶あいさつしてから帰宅した。



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