第25話   フォトブックフォトブック

 ☆

 お爺ちゃんのお見舞いが終わった後、宝石店の店主にもらった写真屋に電話してみた。

 完全予約制らしい。どんな写真か見てみたいと言うと、今から見学にいらして下さいと言われた。

 お店は近く、車ですぐ移動できた。

 お店に上がると、ちょうど撮影中でもうすぐ終わるというので、見学させてもらった。

 部屋の中にいろんな風景があって、その場所で写真を撮ってもらうようだ。付き添いが数人来て、カメラマンが写した後で、写真を撮っている。


「綺麗なウエディングドレスだな?」

「そうね。いくらかな?」


 パンフレットがあったので、見てみると、ウエディングドレスレンタルには、アクセサリと小物付きと書かれていた。メイクとヘアメイクは別料金と書かれている。


「ウエディングドレスは、こちらにあります。よかったら、ご覧ください」


 白いブラウスに黒いズボンを着た女性が、ウエディングドレスのあるエリアに案内してくれる。


「持ち込みも可能ですので」

「はい」


 ウエディングドレスを見て歩く。


「白いのが着たいな」

「ドレスによってレンタル料が変わるんだな?」

「高い物は高級品とか新作とかかも?」

「そうかもな」

「どれが似合う?」

「どれも似合いそう」

「考えてる?」

「もちろん」


 ウエディングドレスが掛かっているすぐ横に、タイプ別診断という用紙があった。

 首の長さや肋骨の終わりの位置、骨盤の位置などのウエストエリアの大きさで、タイプが変わってくるようだ。


「花菜ちゃんは、ウエーブタイプだね。ふわふわスイートって感じだって、花菜ちゃんのそのまんま」

「タイプが分かりましたか?ウエーブタイプでしたら、この辺りでしょうか?」


 女性のスタッフがやって来て、空いたスペースにドレスを移し替えていく。


「透け感のあるシフォンタイプがお似合いになりそうですね」

「可愛いですね」

「試着してみますか?」

「はい」


 わたしは、スタッフと試着室に入った。

 何重にも重なるシフォンドレスの一番上に美しい刺繍がされて、頬が綻ぶ。

 背中でリボンを絞るコルセットタイプで細さが目立つ。ウエストから広がるAラインがとても綺麗に見えた。


「ご主人様、どうぞご覧ください」


 わたしはスタッフに手を引かれて、表に出てきた。

 大地君がスマホを構えていて、連射される。


「長い髪をしていらっしゃるので、アップにしても下ろして流してもお似合いになると思います」

「レンタルとお化粧とヘアアレンジをお願いするといくらくらいでしょうか?」

「このウエディングドレスですと、10万くらいします」

「一コマはおいくらですか?

「1000円からですね。ただ父からの紹介ですので、お安くいたします」

「フォトアルバムを作りたいのですが」

「付き添いの方がいらっしゃれば、撮影はご自由ですので、デジカメやスマートフォンで撮った写真を1階の写真館の方で、ご自分で好きなアルバムを作ることができます」

「兄ちゃんしかいないな。兄ちゃんならデジカメも持っていそうだし」

「お兄さんに甘えてばかりよ」

「兄ちゃんは甘えていいんだ。ここで甘えなかったら、後で叱られる」


 仲がいい兄弟だ。


「このドレスでいいですか?同じタイプのこちらのドレスもお似合いになると思います」


 それは裾が長く、とても高額に見えた。


「お高く見えるわ」

「裾が長くなっておりますので。それなりにいたします。これも好き好きですから、お好きな方で。お値段は同じで構いません」

「いいのですか?」

「はい。刺繍も繊細になっておりますから、こちらの方が高級感もあるかと思います」


 わたしはまた試着してみた。

 確かに着心地から違う。


「軽いですね」

「シフォン素材が違いますから」


 またカーテンを開けて、大地君の前に出る。

 スマホで連射される。


「どっちが似合った?」

「こっちの方が高そうだ」

「似合うのは?」

「こっち」


 スタッフが付属品を付けてくれる。シルバーのベルトにベルトと同じ素材の太いブレスレット。髪は簡単に結びシルバーのリボンで結んでくれる。


「ヘアアレンジは美しくできると思います」


 大地君が何枚も写真を撮っている。


「これになさいますか?」

「はい。これでお願いします」

「花菜ちゃんのスマホでも写そうか?」

「じゃ、お願いしてもいい?」

 大地君がバックからスマホを取り出して、わたしに渡す、ロックを解除して写真を撮ってもらった。いろんな角度から撮ってくれる。

「先ほど使ったブーケですが、どうぞ」

「ありがとうございます」


 白い花のブーケを持ち、大地君に写真を撮ってもらった。

 大地君も自分のスマホでも撮っているようだ。


「日程と金額の確認をいたしましょう。ご主人様もレンタルをなさいますか?」

「はい。一緒に撮って欲しいのでお願いします」

「では、ご主人様も試着して下さいますか?色は白か黒か?」

「大地君、白を着てくれる?」

「いいよ」


 スタッフが白いタキシードを持って来た。

 白い靴もレンタルできるようだ。サイズを測っている靴を見て、わたしはハッとした。

 すぐに着替えて出てくる。

 二人並んだ姿は、スタッフが撮ってくれた。


「当日はご主人様は、白いワイシャツをお持ち下さい」


 スーツばかり見ていて、忘れていた。

 靴がボロい。せっかくスーツを借りたのに、これでは駄目だ。

 大地君も気付いたのか、頬を赤くしている。


「できれば、土日でお願いしたいのですが」

「ずっと埋まっていますけれど、父の紹介なので、早めに入れましょう。いつがよろしいでしょうか?」

「いいんですか?」

「はい。若瀬先生には、私の両親が助けられました。こんなことでお礼ができるなら、喜んでお手伝いをさせていただきます」

「兄ちゃんに電話してみる」


 大地君はすぐに電話をした。すぐにお兄さんは電話に出て、「今度は何だ?」と声を上げた。


「デジカメ持ってるよな?兄ちゃん」

「ああ、あるけど、貸して欲しいのか?」

「いや、カメラマンをお願いしたいんだ。土日で空いている日を教えて欲しい」

「ちょっと待て」


 お兄さんは部屋を移動しているようだ。スケジュールでいっぱいだろう。なんだか申し訳ないが・・・・・・。頼める人は他にいない。


「来週、その次も土日空いている」

「頼んでもいい?」

「ああ、いいよ」

「ありがとう。また電話をする」


 大地君は電話を切ると、来週の土曜日に予約を入れた。


「では、お名前とご住所、連絡先。連絡がつく番号をお願いします」


 わたしは予約票に文字を埋めて行く。

 名前は若瀬花菜と書いた。


「お時間は16時からお願いします」

「遅くに、ありがとうございます」

「いいえ、大切なお客様ですから、きちんとお受けいたします。当日ですが、髪にオイルなど塗らずに、伸ばしたままでおいでください。ストキングはベージュで白い靴をご用意ください。ご主人様は白いワイシャツをご用意ください」

「分かりました」

「ブーケは選んでいただけます」


 パンフレットを見せられて、わたしは悩んだ。


「二人も白いドレスをお召しになりますので、白色にピンクや黄色を添えても綺麗に見えますよ」

「それなら、花菜ちゃんはピンクのイメージだ」

「ではピンクにいたしましょう。ミニブーケなので、お持ち帰りできます。記念にブリザードフラワーになさるお方もおいでになります」

「それでお願いします」


 わたしは、気持ちがふわふわして幸せだった。

 夢に見ていたウエディングドレスを着て、写真を撮ってもらえる。


「では、当日、お待ちしております」


 スタッフの女性は、頭をさげてわたし達を見送ってくれた。


「花菜ちゃん、1階の写真館で写真ができるんだろう?試しに作って見ようよ」

「うん」


 大地君はスマホのデーターを出して、写真をセレクトしていく。最初に着たウエディングドレスと当日着るウエディングドレスを選んで、二人で並んで撮ってもらった写真を使って、大地君が撮った、わたしの横顔やブーケを抱きしめている姿を選んで薄いフォトブックを作った。すごくお手軽でお値段も安かった。


「ありがとう、大地君」

「本番は、もっと美しいよ。楽しみだな」

「大地君、家に帰る前に、もう一度お店に行って、ワイシャツと大地君の黒の靴を買おう。せっかくスーツを新調したのに、靴がくたびれているよ」

「俺も恥ずかしかった。このまま店に行こう」


 時間はギリギリだろう。

 サイズがあればいいのだが。

 百貨店に着いて、ワイシャツを買って、靴売り場でスーツ用の靴を選ぶ。店員がサイズを出してきてくれた。新品の黒い靴が出てきた。

「予備でもう一足いると思うよ」

「わかった」


 大地君は試着して、違うスタイルの靴を買った。


「花菜ちゃんは白い靴、持っているの?」

「うん。新品じゃないけど、あることはあるよ」

「一応見ていこう」


 フロアーを変えて、女性用の靴売り場に来たら、大地君が目を回す。


「種類が多いんだな」

「女性はお洒落だから、・・・・・・あ、もしかして、ハイヒールがいいのかな?でも履き慣れないと転んだら危ないし」


 考えながら、白い靴を見ていく。

 写真を撮った後でも、履ける靴がいいだろう。

 わたしはシンプルな白い靴を手にして、履いてみた。

 足にもぴったりで、白いワンピースにも合いそうな気がした。


「わたしも買ってくるね」


 大地君がニッと笑った。

 わたしは、またカードで買い物をした。

 そういえば、暗証番号変更しておいた方がいいかもしれない。

 こんな幸せなときに、河村先輩の事を思いだした。

 河村先輩はわたしの暗証番号を知っている。

 自宅に帰ったら、暗証番号の変更をしよう。

 買い物を済ませ、デパ地下で値引きシールの貼られたお弁当を買うと、わたし達は自宅に戻った。



 ☆

 約束の日に、お兄さんはデジカメを持って来てくれた。

「兄ちゃん、ありがとう」


 大地君は写真を保存するSDカードを渡して、ニタニタしている。


「結婚式は挙げないのか?」

「花菜ちゃんが写真を欲しいって言うから、フォトブックを作ってあげたいんだ。忙しい兄ちゃんを引っ張り出して、本当にゴメン。美保さんにも謝罪しないといけないね」

「僕の家庭を引っかき回すな」

「でも、頼める人がいなくて、兄ちゃんしか思い当たらないんだ」

「本当にすみません」


 わたしも頭を下げた。


「それで僕は写真をたくさん撮ればいいんだな?」

「花菜ちゃんと俺を撮るんだからな」

「分かってるって」


 お兄さんがテンションの上がった大地君を見て笑っている。


「デジカメで撮れた写真を本にできるのか?」

「おう。先週、お試しで作ったやつ見る?」

「いや、後でいいよ。勇気と真穂の写真も作ってやろうか?」

「それいいと思う。簡単だったよ」

「若瀬さん、どうぞ」


 名前を呼ばれて、わたしはウエディングドレス姿で、白とピンクの薔薇のブーケを持って、大地君とスタジオに入っていった。


「若瀬先生、この度はおめでとうございます」

「弟夫妻が世話になります」

「できるだけたくさん写真を撮ってあげてください」

「いいのか?」

「こちらでもお作りいたしますが、どうしても枚数が減ってしまいますので、写真館の方で格安で作れるようになっています。フォトブックは自分の好きなようにアレンジできますので、どうぞたくさん写してあげてください」


 部屋には脚立が置かれ、いろんな角度から撮るようだ。

 物語風に撮られ、小道具も用意されている。

 光りと風も使われ、物語の主人公になったような気持ちになれる。

 わたしは純粋に大地君とその時間を楽しんで写真を写してもらった。

 時間にしたら1時間に満たない。二人のウエディングドレスの姿も写してもらった。

 わたしは標準のパターンで撮ってもらったので、それなりの枚数はもらえたけれど、どの写真も捨てるのが惜しくて、それでもすべての写真を買うと莫大な金額になってしまうので、大地君とスタッフの女性と選びながら、写真を決めていった。その姿もお兄さんは写真に収めていてくれていた。置かれたブーケ。使われた小物まで、丁寧に写しておいてくれた。

 撮影を終えて、ウエディングドレスを脱いだわたし達に、お兄さんはSDカードを渡してくれた。


「できあがったら見せてくれ」

「おう」

「今日はありがとうございます」

「兄ちゃん、ありがとう」

「土日は、しばらく呼ぶなよ。子供達も美保もストレスが溜まってくるからな。でも、河合が何かしてきたら、早めに知らせろ」

「はい、本当にすみません」


 わたしは深く頭を下げた。

 お兄さんの視線はわたしの指にむいている。


「大地君に買っていただきました」


 わたしはお兄さんに指輪を見せた。

 大地君が照れている。


「いい物を買ったな?」

「ありがとう。値引きしてもらった上に、ネックレスをオマケしてもらった」

「そうか」


 お兄さんは嬉しそうだ。


「大地がこんなに嬉しそうな顔を見せたのは、本当に久しぶりだ。早めに両親に知らせろ。僕が叱られるだろう?」

「連休があったら行こうと思っているんだけど、平日は仕事が休めないから」

「取り敢えず、紹介だけでもしておけ」

「わかった」

「花菜さん、今日は美しい花嫁衣装を見せてもらった。大地の事を頼むぞ」

「はい」

「それじゃ、帰るから、おまえ達も気をつけて帰れ」


 お兄さんは、車に乗って帰って行った。


「花菜ちゃん、フォトブック作って帰ろう」

「ありがとう、大地君。お母さんにもプレゼントしたいの」

「色々作ってみよう」


 わたしと大地君は、遅くまでお店に残ってフォトブックを作っていた。


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