第14話 粒子の話
~結菜視点~
私たちが訪れる世界で、荒ぶる魂と対峙し、討伐あるいは鎮めるのは、大抵一瞬で終わるが、各世界に体感の時間では1年程度は滞在している。その期間に何をしているかというと、その世界にある多くの物質を調べ、未知の物質についての探索を行っている。
まぁ、1年掛けて山を動かした世界ではあまり調査できなかったけど。
私たちが探す未知の物質の中でも最も力を入れて探しているのはタキオン。私たちだけではなく、世界中の学者が探しているが、未だに発見できていないものだ。地球で、その存在が予言されたのは1904年のことで、タキオンの名前をつけられたのは、1967年のことだ。タキオンは常に光速を超えた移動を行っている粒子であり、その存在を確認されたことは未だにない。
何度か誤って発見されたとか、通常の物質が高速を越えたと発表されたが、いずれも再実験により否定されていて、人と、人からコミュニケーションがとれる存在において、未だに高速を越える物質を発見できていません。
以前から何回か触れていた私たち自身を粒子に分解して他の世界に移動する、あるいは光速を超えた移動を事実上行う際に利用しているのはトンネル効果と呼ばれるものだ。ただ、トンネル効果は厳密には高速を越えた移動を行っていると観測することはできない。
トンネル効果とは、壁に挟まれた左側の粒子や、それよりも遙かに大きな単位である原子が消えて、右側の壁に粒子や原子が現れるという現象だ。この壁は実際には壁ではなく、そこに到達しうるエネルギーをもたないというものだ。
これは、この現象はコンピュータなどの回路ですでに採用されていて、江崎玲於奈氏がノーベル賞(物理学)を取った研究としても知られています。
例えば、Aという女性が静岡にいて、山梨に行くための旅費も富士山を超えていったり迂回したりする体力もないのに、山梨にいたという現象が発生したような事態が起きたと思ってもらえたら良い。富士山にAさんだけが通れるトンネルがあったかのように見える現象なのだけど、実際には、Bさんが、まるでAさんのように山梨で振る舞っているのではないかとも考えられています。
私たちが異世界に移動する御神渡りをする際、あるいは光の速度を超えた先に移動する際に粒子に分解して、再構築をするのだけど、厳密に同じ粒子であるかと言うとよくわからない。
2020年1月20日に京都大学で、イッテルビウム原子、銀白色の鉱物で原子番号70の原子を使ったトンネル効果による空間断熱移送に成功していて、Aという地点から、中継地点であるBを経ることなく、Cにまるでワープしたかのように移動する現象を実現できている。数万個のイッテルビウム原子が同時に断熱移送される様子を捉えることに成功し、移送効率が95%を実現できたとの発表があっている。
この数万個の原子が、Aで消失し、Cに別の原子が現れたというのも、それはそれで無理があるので、やはりAがCに移動したと見るべきなのだろう。
~若彦視点~
結菜にトンネル効果の話を聞くが、なかなか納得はできない。
人間は、そこで起きた事象がどういう理由であったとしても使えるものは使うという精神で、技術に取り込んでいるというのがだ。
ただ、それこそが人間が急速に発展してきた理由なのかもしれぬ。
ゆえに、自分もトンネル効果を利用しようと考え、自分が
先端部分に触れた際に、トンネル効果により出現する原子により、感触代わりとし、トンネル効果により出現した原子の動きで、反射で行動できるようにしたのだ。
効果のほどとしては、魔素ではない分、どこに仕掛けているのかわかりにくくなった。結菜なら原子の配置で、どれがトンネル効果を引き起こすものか見分けがつくであろうが、魔力が見える程度の相手なら、何か仕掛けられていることに気付くこともなくなるであろう。
それと、魔素の薄い世界でも補充が容易になったのも僥倖であった。
接敵してから感触が伝わるまでの時間が、あと少しでも早くなればと思ったが、これについては現時点ではほぼ変わらなかった。いずれも、ほぼ接敵と同時に感触が伝えられているのであるが、本当にわずかな、極々わずかであるが時間差があるため、そこを埋めることができたらと考えたのだ。
魔素によって作られた魚虎は、ほぼ光速で情報を伝える。これは魔素の魚虎が、破壊も弾性変形もせず歪みが起きないためにできることだが、同時にそれが限界でもあったのだ。
おそらく結菜も、トンネル効果によって、時間差がまったくない情報伝達ができないか悩んでいることであろう。
~荒ぶる魂?の視点~
俺はケイ、24神将の1人だ。
24神将は、今までに出てきた荒ぶる魂の輩とは全く違う。俺は神の力により、異世界を巡る能力を持っている。俺たちに与えられた任務は、諏訪若彦命の監視だった。
諏訪若彦命が今までに訪れた世界を訪ね、どのような力を振るったのか調査して、我が君に報告した。我が君は、調査結果に対して満足をしていないご様子で、歌をお詠みになった。
赤駒を山野のはかしとりかにて 多摩の横山徒歩ゆか遣らむ
どうやら「諏訪若彦命がどこまで力を持ったかという情報」を、赤駒(馬)に喩えられ、諏訪若彦命の情報を得ないまま、同僚を戦いに行かせるのかと問いかけてこられたようだった。
我が君を
その我が君に、このような歌を詠ませたまま、何もしないという選択は俺にはなかったから、俺は諏訪若彦命に威力偵察を試みることにした。
俺が威力偵察を行うのに結菜という女は邪魔だった。魔素を操る技能に優れているようであるし、訪若彦命が1人になることがないかと探っていたら、丁度良いことに、結菜という女が居なくなったから、早速仕掛けることにした。
奴の想定スペックは、かなり高い。人を抱えながらマッハ3に到達するというのだから、単独であれば、マッハ5に到達する可能性がある。力も鎧をへこませるほどの力があり、下界のものには分からない速さで刀を切断するるという。
俺も相当に力を与えて貰っているが、威力偵察のための様々な仕掛けを準備し、念のため、威力偵察後に自分が確実に安全に戻ってくるために、奴の視界を奪う発光弾の仕掛けを準備までした。
以下、我が君への通信(直接の通信相手となる通信士は不詳)
ヒトフタマルマル、これより作戦ネーム「モノミ」を発動する。
ヒトフタマルフタ、対象、第一次攻撃の有効射程内に移動を確認。
ヒトフタマルサン
投槍の仕掛け発動、300本の槍を投射するも、すべて対象到達前に消失。
ヒトフタマルヨン、対象、第二次攻撃の有効射程内に移動、第二次攻撃を発動。
ヒトフタマルゴ
投弾の仕掛け発動、大小さまざまな弾を5000発投射するも、対象の反応不明。 目視による命中、損傷 確認できず。
ヒトフタマルロク、相手能力の確認作戦失敗と判断、撤退行動に移行する。
以下、連絡途絶。
最初の投槍は、音速を超えた速度(秒速350mほど)で2キロほど離れた四方の山から発射した鉄製の2mの槍だった。多少の時間差をつけて順次、発射していった槍が5秒以内に降り注ぎ、対象の至近距離に降り注ぎ、相手の反応を見るはずだった。
ところが、飛び出して、半分ほどの距離を槍が進んだあたりで槍が融解した。魔素による雷かなにかで、槍を高温にして融解させ、消失させたらしい。
そして、二度目の当弾は、相手の能力を確認するために様々な世界から持ち込んだ、銃火器を主に使ったものだった。秒速300mほどの至近距離からの攻撃や、秒速1000mを超えるものをもちいたライフル弾、より重量のある砲弾、榴弾、様々なものを使ったのだが、これについて、相手がどう反応したのか、まったくわからなかった。
逃げようと慌てて、視界を奪い取る発光弾を使ったが、あっさり拘束されそうになり、やむなく死の世界に逃げ込むしかなかった。
なぁ、あいつはいったい何者だったんだ?
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