4章 神覚

第13話 空間歪曲

~結菜視点~


 SF小説で定番となるのは、ワープだ。

 人、というよりも、質量を持つものにとって、光速を超えて進むことができない以上、本来連続しない空間と空間をくっつけて、一足飛びに移動することで光速を超えた移動を行おうというものは、最後の希望のような存在だ。


 ブラックホールにより飲み込まれたものが、ワームホールと呼ばれるものを通りホワイトホールと仮称されるものから出て行くとの仮説があるのだけど、その仮説が事実なら、ワープも可能ではないかと考える人がいる。


 ブラックホールがワープ空間を作り出せるのは、その圧倒的な質量にあるとされている。ブラックホールはとても大きい重力を持っていて、だからこそすべてのものが潰れ、光子でさえも、ブラックホールの重力を抜けて脱出できないのだけど。


 宇宙空間は平面ではなく、惑星のような球体であると考えられている。風船のような姿を思い浮かべるほうがいいかもしれない。とてつもなく大きな重量(その最たるものがブラックホールなどの巨大な重力を持つ惑星)があると、その風船の一部分が沈み込む。ぐっと沈み込ませると、風船の反対側の面と接触できる。風船だと空気入れすぎていると割れてしまうかもしれないけど。あまり空気を入れていない状態だと両手で指で押し込めばくっつく状態は確認できると思う。


 ブラックホール、ワームホール、ホワイトホールの関係はこの状態に近いと思われている。 


 しかし、残念なことに、ホワイトホールは発見されていないし、仮にホワイトホールが存在していたとしても、ワープ先を決めることのできないワープは私たちにとってはあまり意味がない。なにより、ブラックホールは光すらも脱出できないまま、全てが押しつぶされる存在とされているのだから、私たちでも潰されてしまうだろう。


 ブラックホールから脱出できる唯一の例外として、粒子は脱出できると考えられている。万物は、分子、原子と細分化していくと、最終的には粒子にいきつく。この最小単位となる粒子であれば、ブラックホールから脱出できるとされている。


 私たちは、以前から粒子状態になることができるので、ブラックホールを通って移動することができるのではと考えたこともあるのだけど、粒子状態ではそもそもブラックホールを通過することなく光速を超えた移動が事実上できるため、粒子になるならワープ自体があまり必要がない。

 

 粒子にならないと、そもそ異世界を渡る御神渡りもできないので、粒子になり別の場所で、再構成してという方法で移動することを私たちはすることができる。粒子になって再構築するのに時間がかかるという点では戦闘の役にはあまり経っていないのだけど。


 というわけで、さんざん説明しておいて、こう言うのもどうかと思うけど、私たちにはワープは必要ない。だけど、最近、私はこの空間歪曲を多用するようになってた。

 

~若彦視点~


 このところ、結菜は面白い技を使うようになった。

 自分たちの戦いは、刹那の争いであり、時間的にも物理的な距離でも、一兆分の一寸とかで躱せるか当たるかを読み合いしながら間合いを決めて、攻撃、回避をおこなっている。


 結菜にあたるはずだと思って行う攻撃がわずかに外れ、結菜の攻撃を躱せるはずだと思って回避するものがわずかに当たるということが、このところ頻繁に起こる。体の動きや魔素の動きを見ると、相当激しい動きが行われているのはわかるが、どうやって回避しているのか、あるいは当てているのかわからぬ。


 己を強くすることに少しでも資するなら、解らぬことは素直に聞いてきた自分だが、この謎は自分で解きたいと思っているのだが、どうにも分からぬ。


 結局、素直に聞くことにしたら、結菜は物凄くよい笑顔になり、教えてくれる。最近の結菜は、自分に新しい知識を提供できなかったことを悔しく思っていたらしい。これは素直に聞いてよかったと思い説明を聞く。


 結菜のしていることは空間の操作だった。


 結菜は自分の周囲に極めて重い物体を発生させることで空間をわずかに伸ばし、一兆分の一寸の隙間を作りだし回避をし、その極めて重い物体を消失させて、空間を戻すことで一兆分の一寸詰め寄り、攻撃を当てていたのだ。


 空間伸縮による回避とは気づけなかった。あまり効率のいいものではないと結菜は笑っていた。神々は、工夫せずとも色々なことができてしまうだけに、こういう発想はできない。


 結菜は人間であるからなのか、結菜自身の性格がそうなのか、その探究心は、やはり目を見張るものがある。


 

~荒ぶる魂?の視点~


 俺はレイン、俺は、空間魔術師として世界に恐れられている。

 俺は、宮廷魔道士の子供として生まれた。ところが、三つ子であったがために、生まれてすぐに捨てられた。俺の世界では三つ子は忌み嫌われる存在で、三つ子が生まれた場合は直ちに殺さなければならないとされている。


 昔、魔王が三つ子として生まれ、他の兄弟を食らったことで強大な魔力を得て魔王になったとの伝承があるからだ。無論、この有名な伝承は数百年にわたって受け継がれているので、今となっては、実際には三つ子の他の兄弟を食わせたところで、強大な魔力を得ることはないということは分かっているし、他家に養子にやったりすることでバラバラに育てることで、表向き3つ子ではないと言い張って育てることが多い。


 ただ、運の悪いことに、俺の父親は、この伝承を真面目に信じる性質だったらしく、俺たち三兄弟は本当に殺そうとしたらしい。殺される直前になり、母親と宮廷魔道士に雇われていたメイドや執事が相談して、密かにバラバラに孤児院に預けてくれたらしい。


 無論、父親には内緒で逃がしたので、資金援助できるはずもなく、徴兵一般兵孤児として育てられた。孤児の中では恵まれている方ではあったが、それだけに他の孤児からのいじめもあった。


 孤児にはいくつか種類があり、基本は3種類だ。


 まず、全く何の援助ももらえない孤児。親に捨てられた赤子がこれだ。12歳になったら、金銭奴隷としてかかったお金を全て請求される。育てられた国にもよるが、一生返せない金額を背負わせられ、その元金と利子で、生涯を奴隷として生きることも多い。


 次に魔物や敵の侵略、仕事中の不慮の事故により死んだ親の子供は、国や所属していた商業組合などから出る補償金を受け取れる。この場合でも、借金は残るのだが、背負う金額が半分くらいで済むので10年くらいで奴隷から抜け出せる場合が多い。(金利が高いので、最初の時点で半分なら10年ほどで返すことができる。)


 そして徴兵された兵士の子供の場合は、12歳になった時点で孤児院から出る決まりではあるが、この費用は国が出すため、その時点で奴隷になる必要はなく一般市民となれる。もっとも10歳くらいからの2年間である程度のお金をためておかないと、家も借りられないので、すぐに浮浪者となるが。


 俺たちは、実際には何の援助ももらえない孤児で、一生涯奴隷となる身だが、宮廷魔導士に仕える執事が機転を利かして、孤児院に預ける際に、適当に死んだ兵士の子供として登録したので、幸い、借金となることはなかった。


 ただ、その分、他の孤児からの妬みは強く、孤児院の入所して間もないころは年上の孤児から虐められていた。俺が魔導士としての血筋から魔術が使えることを発見し、魔術を使えるようになった8歳頃には、虐めてくるような度胸のある奴はだれもいなくなったが。


 俺は9歳の頃から、独立に備えて準備を始めたが、早々に宮廷魔導士の父に捨てられた過去、同じ境遇の弟が2人いることを把握できたことは幸いだった。俺は弟のいる遠くの孤児院にも行き、弟とも語らい、魔術の練習をしながら、森に入り魔物を狩り、お金になる肉や部位を集めた。


 魔法を使えない人も多く、大人の狩人と同等の強さと攻撃力を持っていた俺たちが、森で魔物を狩るのは十分に可能だと判断した。なかなか最初はうまくいかなかったが、11歳にもなると狩人などよりも高い能力で魔物を制圧し、森の奥で狩りができたため、若手の狩人より稼ぎは多くなっていた。


 12歳で独立した俺たち3人は、3年間、狩人として稼ぎながら魔術学校に自力で通った。貴族の子として甘やかされて育てられた奴らも多い中で、年上の孤児とやりあい、自活の道を探し、実行してきた俺たちは平民出身者の孤児ながらも優秀だとの評価を得て、特待生として、学費免除を勝ち取れたことも大きい。


 魔術学校卒業後は、一般魔術兵として就職した。魔術兵は一般の兵士に比べれば、かなり恵まれていたので魔術の勉強を続けることも十分にできた。弟たちとは別の兵団の魔術兵団に属して、一切関係がないように装っていたが、定期的に会って互いに知識を交換し、強くなるための努力を3人でしてきた。


 そして、俺たちを捨てた父を倒したのが18歳になった頃。父は宮廷魔導士の中でもトップ5にはいるほどの強さであり、この父を倒すのは並大抵のことではなかった。この父を倒すために考えたのが、空間魔術だった。


 恨みがあったというよりも、10年間、父を倒すことだけを3人で目標として、そのためだけに、どんなにキツイ生活でも耐えることができていたし、ある意味では、それが父との絆であったのかもしれない。弟たちはどうかわからないが、俺の心はたぶん壊れているのだろう。


 父を殺した後、逃げることもしなかった俺たちは捕まり取り調べを受け、死刑になったというのは表向きで、実際には取り調べ後、取引が行われ、俺たちはルダム王国の王直属の暗殺者になった。


 王の指示のもと、暗殺を続けること10年。今や空間魔術師のレインとして世界に恐れられている。

 

 そして、今回の王の指令が異世界から来た男女の抹殺だった。まずは女からと思い、女が一人になった時に、声をかけた。


「俺はレイン。女、悪いが死んでもらう。」

が何者か知らないけど、無駄なことだからやめときなさい。」


 俺たちの空間魔術は、俺が声をかけ、直ちに隠避魔法で姿を消すと同時に、2番目の弟が隠避魔法を解除し、出現することで成立する。普通の相手なら、弟の位置に俺が、瞬間移動したと考え、混乱する。


 その混乱をした隙に、3番目の弟か俺が敵の頸動脈を切り裂き暗殺する。


 ところが、この女は、いきなりと呼んだのだ。異世界から来たという相手であり、空間魔術師に襲われるという先入観を与えることに失敗していたのだろうが、それにしても俺たちが複数であることに、あっさり気付かれてしまったことに俺たちの方が混乱してしまう。


 気を取り直して、普通に三人で魔法で攻撃したが、まったく相手にならない。あっさりと捕えられてしまう。俺たちに、雇い主がどこの国か聞かれるが、無論、黙秘だ。


 国名などを一つずつ上げられ、尋ねられる。一通り尋ね終わると、女が言う。

「貴方たちの雇い主であるルダム王に伝えなさい。誰に騙されたか知らないけど、私たちの討伐対象は貴方の国とは無関係よ。ただし、再び私たちに何か仕掛けるならルダム国を消滅させると。」


 合流してきた男が、なぜルダム王国の者とわかるのかと聞くと、

「さっき名前を挙げていった時に、彼らの心拍数、脳波、血圧を測ったら、ルダム国に関連するものをあげた時だけ反応があったから。」


と、当たり前のように言う。男が「さすがワンダーウーマン!」と絶賛すると、


「私はポリアモリーとかじゃないからね。しかし、貴方たちは、空間魔術師というよりは、光と影の魔術師ね。レンブラント・ファン・レインのレインだし。」

と、女が照れたように答える。


そして、解放された俺たちは大慌てで国王にこの旨を報告し、「触らぬ神に祟りなし」と、この任務の破棄をお願いするのだった。もし、2回目の暗殺を彼らに仕掛けたら、間違いなくこの国は滅びると強く説明しながら。


 

 なぁ、あいつらはいったい何者だったんだ?

 それと、ワンダーウーマンとかレンブラントってなんだったんだ?

(結菜注:ワンダーウーマンの原作者が嘘発見器を作った。なお、原作者は複数のパートナーとの間で親密な関係を持つことをお互いが認めるポリアモリーで、映画でも描写されています。)

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