第2話 システムさんが大忙しです
ギルドから三通の手紙を受け取った俺は、以前も世話になっていた宿屋に行き、改めて一週間分の宿泊料を払って鍵を受け取った。たぶん大丈夫だろうとは思っていたが、殿下に此処に居ると言ってしまっているから無事に部屋が確保出来てホッとしたのは他の奴らには秘密である。
さすがに疲れていたようで、あっという間に寝落ちた、翌朝。
「⁈」
耳元と言うよりも頭の中で何度もピロンピロン鳴り響く通知音に驚いて体を起こし、ステータスボードを開くと、此処で初めて目を覚ました朝と同様に通知画面がどんどんと重なっていく。
ちなみに似非フェレットは隣で腹を出して寝ている。
翼は出し入れ自由だそうだ。
宿屋の少年に異国で人気のペットだと言ったら信じてもらえたし、飛来した巨大生物がこいつで銀龍だって話は限られた者しか知らないまま箝口令も布かれたので、とりあえず騒ぎにはなっていない。実際には銀龍とも違うし、このままキノッコの街に埋没できることを願っている。
閑話休題、現在進行形で次々と重なっていく通知画面をげんなりして眺めていると、そのほとんどが何らかの理由で貢献ポイントが増えたという内容だ。
『異常事態1件の「デバッグ完了」を確認しました。1000ポイントを付与します』
『異常事態1件の「デバッグ完了」を確認しました。1000ポイントを付与します』
『神獣ヒッタルトヴァーナの召喚を確認しました。700ポイントを付与します』
『神獣ヒッタルトヴァーナとの契約を確認しました。500ポイントを付与します』
『地域担当二名の使徒の称号獲得を確認しました。特別ボーナスを付与します』
『報酬リストを更新。アイテムボックスから確認してください』
『ロクロラ担当者二名の意識の覚醒を確認しました』
『ロクロラ担当者二名の魔力を使いロクロラ領域に創世神ファビルの守護を展開します。ご注意ください』
「は……?」
文面が変わって来たなと思っていたら、いきなりそれだ。
あの日と同じように拘束するみたいな光りの柱が俺を中心に床も天井も貫いて延び、金色の文字列が螺旋状に上空へ昇っていく。
「っ、せめてもっと事前に告知しろ駄女神……!」
柱が魔術的なもので、床や天井に穴を開けなかった事だけは良かったが、問答無用で魔力を持っていかれるのは不快感しかない!
「くっ……」
シャツの胸元をこれでもかってくらい握り潰しながらなんとか耐えるも、朝っぱらから疲労困憊だ。
っていうかロクロラで使徒二名ってことはフィオーナじゃん。
あいつも今朝付けで使徒?
なんで昨日じゃないんだよ!
……って、理由は判る。
こういうのは条件の達成が必要で、異常事態のデバッグ完了で1000ポイントっていうのはフィオーナも同様だろう。
つまり一緒に
螺旋状の文字が消え、魔力の減少が止まり、光の柱も消えていく。
ぜぇぜぇ言いながら内心で怒ってたら、システムが更に通知を寄越してきた。
『ロクロラ領全域の守護を確認します』
『完了しました』
『守護の起動により創世神ファビルの神力が領域を巡ります』
『自動補正プログラムを生成』
『自動補正プログラムのインストールを開始します――完了しました』
『このプログラムは世界の自立を確認後に自浄作用へ変換されます』
……よく判らないけど一歩前進には間違いなさそう、だな? 不具合に対して自動補正がされるなら、俺がしばらくロクロラを離れても大丈夫ってことだよな?
これで違うとか言ったらぶっ飛ばすぞ。
『報酬リストを更新。アイテムボックスから確認してください』
『デバッグがレベルアップしました』
『デバッグがレベルアップしました』
『報酬リストを更新。アイテムボックスから確認してください』
『武器術・改がレベルアップしました』
『上位魔法がレベルアップしました』
『採集師の技術がレベルアップしました』
その後も更に通知は続き、俺のステータスはこんな感じになった。
名前:カイト
職業:魔法剣士・冒険者(Sランク)・採集師
称号:創世神の使徒・一の翼
属性:水
体力:9228(+300)
魔力:6264(+300)
筋力:1073(+150)
耐久:954(+150)
耐性:855(+150)
俊敏:1014(+150)
保有スキル
・デバッグ(Lv.3)(+2)
報酬ポイント:5800
・武器術・改(Lv.4)
(剣/短剣/槍/刀/斧/弓/杖/砲)
・格闘術(Lv.6)
・忍術(Lv.4)
・四大属性魔法(Lv.5)
(火/水/土/風)
・二極属性魔法(Lv.4)
(光/闇)
・上位魔法(Lv.4)
(炎/氷/雷)
・採集師の技術(Lv.2)
(索敵/採取/解体)
・製作(Lv.6)
・製造(Lv.7)
・鑑定(Lv.MAX)
・言語理解(Lv.MAX)
旅に出る前の準備で製作や製造もレベルアップしていたけど、昨日のタルトとの戦闘でも幾つかレベルアップしたらしい。
能力値の増加はデバッグスキルのレベルアップの恩恵っぽい。
相変わらず特別ボーナスというのが意味不明だが、……今回はその次に報酬リストを確認しろってあるから、そういうことか。
少し落ち着いて来た呼吸を、深呼吸でさらに落ち着かせて報酬リストの確認を始める。
そしたら今までは無かった『特別ボーナス』というページが出来ていた。
これか、と見てみて驚く。
リストの下の方に、必要なポイントは500と非常に高かったが――。
『フレンドに登録済みのプレイヤーにメールを送る事が出来るようになります。ただしロクロラ国内に限ります。100文字までです。1通送るごとに300ポイントが必要です』
「えっ」
思わず声が出た。
もしかしてこれでフィオーナとメールの遣り取りが出来るんじゃ? しかも条件が満たされていないからまだ解放されていないが、その下にある項目を見る限り行く行くはアリュシアン全域でも可能になると思う。
「これは取っておいていんじゃないか?」
なるべく来年の春に向けた野菜の苗のためにポイントを溜めておきたいが、フィオーナと連絡が取り易くなるのは絶対に助かる。
早速ポイントと交換して、フレンドリストを確認。
全員が黒字で選択不可になっていた其処に、白字に変化したフィオーナの名前を見つけて嬉しくなった。
シン、アン、ロマノフ、ゲオルグ、ランディ、エリアルの名前は灰色に変化していて、現在地がロクロラでないため選択出来ませんというエラーメッセージが表示される。
だが、それでも今は充分だった。
この仕様ならもしフレンド登録している誰かががチェムレや帝国にいるなら判ると思ったからだ。素材を取りに行くのを手伝って欲しいっていう理由ではあるけど、俺のフレンドリストは上限いっぱいまで名前が並んでいる、可能性はあるはずで……。
「え……」
思わず目が止まった、白字の名前。
白字はロクロラ国内にいて、メールが送れる相手で、……でも、この名前は。
「テンマ……?」
天真は。
弟は、地球にいるはずで。
『Crack of Dawn』のロクロラにいる可能性はあったとしても、……メールを送れるって?
嘘だろうと疑いつつも選択する。
選択出来てしまう。
「……まじ、かぁ……」
鼻の奥がツンとなった。
字数制限が百字って、どこぞの呟きより少ないじゃん。ステータスボードみたいな、宙に浮かんだキーボードを叩いて文字を打つ。
文字数が足りない。
文章にならない。
消して、やり直して、何とか伝えたい事を纏めて送信ボタンを押し終えるまで、似非フェレットの尻尾が俺の腰辺りをポンポンしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます