第20話 『採集師』の相棒が判明しました
そこはロクロラの北の果て。
だが、囲いの此方側に立つ門兵の表情は意外に活気があり、全体的に雰囲気が明るい。ここまでの道程を思うと最果ての村は絶望に染まっていてもおかしくないと思ったのだが……。
「美味しそうな匂いがする」
ヴィンが犬のように鼻を動かしながら言う。
確かに、普通にしていても食欲をそそる甘辛風のたれの匂いが……。
「照り焼き?」
呟いて、ハッとした。
今の今まで忘れていたが、ロクロラには自分の他にももう一人、プレイヤーが地球から転移して来ているはずで。
俺が南端のキノッコなら、もう一人は北端かもって、そう予想していたじゃないか。
「カイト?」
思わず速足になる俺をレティシャが呼び止めるが、ごめん、いまは。
「確認したい事がある、先に行く!」
「おい!」
「カイト!?」
「すまんっ」
殿下やヴィンからも声が掛かるが、もう止まれなかった。
こちらに気付いた門兵が警戒心を露わに「何者だ!」と声を荒げて来た。本当にごめんって思うけど今日だけにするので許してください。
「王都から来た『採集師』のカイトだ。ここにSランクがいるだろ?」
「さい……はっ、失礼致しました!」
突き付けるように冒険者のタグを見せると、門兵はすぐに槍を引き、答えてくれる。
「先日より『園芸師』がご滞在中です!」
「フィオーナか! 会えるか?」
「この時間でしたら広場の南側にある農地にいらっしゃるかと!」
農地。
この北の果てで。
キノッコよりも日照時間が少なくて凍えるほど寒い土地で、農業をやっていると言うならさすがとしか言いようがない。
「入らせてもらうぞ!」
「はっ」
強引な自覚はあったが、ほんと今だけ。
なんだかんだで転移が嬉しくて、でも思った以上に切羽詰まっていた世界の変化に思い付きだけで色々とやって来たけど、同郷の友人が近くにいるんだって思うと気持ちが急いた。
ガキみたいだ。
判ってる。
でも――。
ゲームで一度来ている町だ。
広場も、その南側の空き地も知っている。
さっき気になった照り焼きの匂いは、通りの屋台で売られていた鳥串で、隣にはおにぎり屋の店まで!
間違いないと確信した。
だから迷わず駆け込んだら、ここの町長NPCや、数人の男女と談笑しているローブ姿の女がいた。
その周りは、いますぐ収穫できるだろう艶々した野菜を実らせている畑。
『採集師』がアイテムを通常の倍、三倍で取得出来るように、『園芸師』は一日に一度、定められた範囲内という条件下ではあるが一日で花を咲かせ、野菜や果物を実らせることが出来るのだ。
「本物だ……っ」
紅葉みたいな深い赤色に金色の糸で施された細かで豪奢な刺繍は、ただそれだけでローブを高級品と知らしめる。
髪は金。
瞳は赤色。
色白で、美人で、真っ赤な口紅に彩られた口元には小さなほくろ。
胸部は俺が知っている誰より大きく、ローブの下は露出が激し過ぎて細い腰が丸見えの、本人曰くセクシー担当。
画面の中と今じゃ雰囲気は異なるけど間違いない。
「フィオ!」
大声で呼び掛けると、職業大魔導士の『園芸師』が此方を向いて目を丸くした。
「か、カイ!?」
「ははっ、なんだその声!」
いつもヘッドホンで聞いていたのとはまるで違う、見た目にぴったりのお姉さんの声だった。
フィオもこちらに近付いてきて、互いに互いを確認する。
「うっわ、マジでカイじゃん! おまえだったのか!」
「そうだよ、俺はフィオかもって思ってたけどな! ロクロラに必要なのはどう考えても『園芸師』だって! あんたがいるんだから、そりゃ最北の町も生き残るよな!」
「はははっ、まじかっ。まじでカイだよ、うっわ。うっわ、やべぇ、まじ嬉しい」
「泣くな!」
「おまっ、俺がこの二週間、どんだけ苦労したと思って……っ」
「わかるけど。でも、この町の誰も死なせなかったんだろ?」
最後は小声で言うと、フィオーナは目をぱちくりさせた後で不敵に笑った。
「当たり前だ。俺の『Crack of Dawn』には楽しいことだけでいい」
「ん」
楽しいことだけ。
そうは言っても、この二週間がそれだけじゃ済まなかったのは何となく判る。
「火の魔石は足りてるか?」
「チェムレの火蟻のおかげで余裕だった。でもカイが万能薬の素材を持っているなら譲って欲しい。俺じゃどうにもならない患者が何人かいて……」
「わかった、そっちは任せろ」
素材はもちろん余裕で持っているし、万能薬の在庫もある。
ましてや目の前には
素材集めもすぐに叶うだろう。
そんなことを小声で言い合っていたら、町長たちが怪訝な顔つきで此方を伺ってきた。
「……フィオーナ様、失礼だが、そちらの方は……?」
「あら、急にごめんなさいね。こちら友人の『採集師』ですわ」
「! さい……っ!?」
俺はコロッと態度を変えたフィオーナに吹き出しそうになり、町長たちは俺が『採集師』だと知って驚愕の表情。
更に俺と一緒に来た七人も、このタイミングで合流した。
「カイト、頼むから一人で先走らないでくれないか」
そう声を掛けて来た殿下も、俺の隣にいるフィオーナを見てびっくり顔だ。
「『園芸師』のフィオーナ殿か……」
「そういうあなたは……、えっ、でん」
「デニスだ」
「は!?」
「王都から一緒にきたデニス。それ以外の何者でもない」
小声で圧を掛けたことで、いろいろと察したらしい。
「そ、そう。お会いするのは初めてかしら。フィオーナよ、よろしくね」
「よろしく」
殿下とフィオーナが握手するけど、別に初対面にする必要はなくね? まぁいいや。
「その後ろが、デニスの友人のリットと、フランツ。それからジャック、アーシャ、レティシャと、ヴィンだ」
「まぁ、カイったらたくさんお友達が出来たのね? お姉さん嬉しいっ、それにとっても可愛い子……!」
言うが早いか、フィオーナがレティシャに近寄って、その手を取り。
「可愛いお嬢さん、もしよかったら私とおごふっ」
「手が早い」
横腹を拳で突いたらフィオーナはその場に崩れ落ちた。
「くっ……手加減! 大魔導士様に物理攻撃とかっ、手加減!!」
「こっちでも相変わらず紙装甲なのか……」
「うっさいわっ。なんだよ女の子に興味なそうな顔しといて、この子おまえの恋人なん?」
「違うっ」
答えのたのが俺じゃなくて親父さんだったからフィオーナも驚いたみたいだけど、そうであろうとなかろうと十四歳に手を出すのはダメだ。
「レティシャ、こいつには気を付けろよ。見た目は美女だが中身は可愛い女の子が大好きなオッサンだ」
「バラすなよ!」
本人がダメ押し。
それを聞いたアーシャと親父さんがすぐさまレティシャを背後に隠した。
まぁ、中身が女の子大好きなオッサンっていうか、中の人が百合を愛する二十八歳、サラリーマンなんだが、中の人といったところで理解するのは難しいだろうし、危険人物だと認識して注意してくれれば、それでいい。
たまに言動が気持ち悪くて、欲望に忠実過ぎるきらいはあるが、同じくらい暴力や、人が傷ついたりすることを嫌がるので、悪人ではないと思う。少なくとも二年弱の付き合いの中、百合について語られる以外に嫌な思いをしたことはないのだ。
否、女の子同士のきゃっきゃうふふは別に良いんだが、限度? 年末の巨大イベントで購入して来た本の内容について熱く語られても反応に困るし。
花が大好きで、実際に家庭菜園で野菜を育てるのが趣味で、ゲームでは拠点にしていたオーリアの地方都市緑化計画を立てて行動していたらいきなり隠者の特殊クエストを発見したのがこいつで、その中身が、幻の花の採取だったり、出現率の低いモンスターの素材集めだったことで俺に白羽の矢が立ち、黒魔導士で『彫金師』のランディと、白魔導士で『裁縫師』のエリアル、四人でパーティを組んだのは良い思い出だ。
「ここでSランク冒険者と、しかも『園芸師』と会えたのは大きい。銀龍の件も含めて改めて相談するとして、少し町の中を見回りたいんだが、いいか?」
「お願いデニスさん、カイトの持っている薬で助けられる患者がいるの」
フィオーナが手を組んでお願いポーズ。
まだよく判っていないリットが鼻の下を伸ばしているが、殿下はいつも通りだ。
「わかった。私も見て回りたいし、患者についてはカイト達に任せる。個人的にはあのような畑がロクロラの地にある事が気になって仕方がないんだが、話は聞けるだろうか?」
「もちろんです。もしよければ昼食の席ででも」
「ありがとう」
上位者の遣り取りで今後の行動が次々に決まり、一先ず殿下は護衛騎士達と町長に話を聞いた後で城に連絡。
親父さん、アーシャ、レティシャは昼の宴の手伝いに手を上げ、町民と共に野菜の収穫を始めた。今回はヴィンも手伝いに回るそうだ。味見担当と言うけど、つまみ食いのし過ぎには注意して欲しい。
まぁ、そのおかげでフィオーナと隠しごと無しで話す事が出来るから有難いんだけど、さ。
***
名前:フィオーナ
職業:大魔導士/冒険者(Sランク)/園芸師
称号:無し
属性:土
体力:5424
魔力:8064
筋力:443
耐久:289
耐性:968
俊敏:641
保有スキル
・デバッグ(Lv.0)
報酬ポイント:750(累積)
・四大属性魔法(Lv.MAX)
(火/水/土/風)
・二極属性魔法(Lv.MAX)
(光/闇)
・上位魔法(Lv.MAX)
(炎/氷/雷)
・園芸師の技術(Lv.1)
(耕作/剪定/収穫)
・裁縫(Lv.6)
・革細工(Lv.2)
・彫金(Lv.4)
・鑑定(Lv.MAX)
・言語理解(Lv.MAX)
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