第15話 世界は想像以上にヤバかった
「近い内に銀龍に会いに行ってみて、出来ればロクロラに掛けた呪いを解いてもらって来ようと思うんだ」
そう告げると、エイドリアンは呼吸も忘れたように固まってしまった。しばらく無言で互いの顔を見ていたが、さすがに苦しくなって来たらしい。
重苦しい呼吸を再開し、震えた声を押し出す。
「ぎ、銀龍って……あの御伽噺の、か?」
「ああ。やっぱり知ってるんだな」
「そりゃあロクロラの民であの話を知らん奴はいないだろうが……いや、そうじゃなく……っ、銀龍は本当にいるってのか!?」
「知らん」
「はぁ!?」
「だが実際に呪いみたいに雪が溶けないんだ。調べてみる価値はあるだろう」
「そんな根拠もない憶測であの雪山に登ろうってのか!? 命知らずにも程があるだろう!!」
「まぁ冒険者だからな」
「――」
エイドリアンがまた固まった。
一緒にするなとか思っているんだろうか。でも冒険者ってそういうところがあるように思う。なんせ冒険する人の事なんだから。
「心配しなくてもちゃんと戻って来るよ」
御伽噺になるくらい有名で、龍の名を冠するのだから、相応に手強い相手だろうことは想像に難くない。けど、俺にはいろいろと隠し玉があるし、これがデバッグ作業の範囲内なら猶更だ。
銀龍は実在するだろう。
ただ、エイドリアンが納得するかと言えば、それはまた別の話で。
「いいや、ダメだ」
「何が」
「その、自分一人で行くって態度がダメだ。誰が許すか、絶対に許可せんぞ」
「許可って……」
「俺はこの冒険者ギルドのギルドマスターだ。ロクロラの冒険者の命を預かっているのは俺だ。どうしても
「えぇ……?」
同行者がいる方が難易度が上がってしまうように思うのだが、エイドリアンのこれが俺を心配しての忠告だと判るから拒否もし難い。
それに、以前に登って万年雪を採取して来た時にはアンとシン、そして天真が一緒だったことを思い出した。当時はゲームだったのに、雪が積もっているというだけで普通の登山とは随分と勝手が違うんだなと思ったっけ。
「……確かに一人で行くのは危険か」
「当たり前だ」
俺が意見を改めると、エイドリアンは目に見えて安堵している。
「その件の依頼書については明日張り出してやるからメンバーが集まるまで待て。いいな」
「わかった」
「よしっ。なら話は各種ギルドを巻き込む件に戻すぞ。上にも話を通して、城に報告してから始める方が後々のためになる。絶対に問題も起きるからな」
「同感だ」
「ああ。各種ギルドマスターには明日の朝一で知らせを出す。予定を調整して合同会議だ、おまえも出席しろ」
「もちろん」
「
「わかったって……」
ここまで言われたらさすがに勝手な行動はしない。
街を生き残らせるためだって意見を出したのは俺だし、こっちが落ち着かない内に現場を離れるのが無責任だって事も判る。
「ところで北の土地に畑って、本気か?」
「ああ。たまたま寒冷地に向いている野菜の苗を手に入れたんで育ててみたいなと。ロクロラでも、さっき食べたような食事が出来るようになったらイイだろ」
「そりゃあ……あれは美味かったが」
「ん。だから農業に詳しい人がいたら別で紹介してくれ」
「わかった。ああ、おまえに紹介する家を探す件だが、今日があれだったんで全然進んでいないんだ。もう少し待ってくれ」
「了解」
それは問題ない。
むしろ俺が宿泊する事で宿屋の家族に収入があると思うとホッとする。
「自由に改造可能な一人暮らし用の一軒家って要望は変わらずか?」
「腕の良い魔道具師も紹介してもらえると助かる」
「お安い御用だ」
そうして俺達は日付が変わるまで明日以降の計画を立てていった。
***
それからしばらくは怒涛の日々だった。
いや、本当に、怒怒怒っていう。
何せ職人気質のおっちゃん達が口を開くと怒鳴り声しか出て来ないし、俺みたいな若造の話なんて聞いてられっかって態度だし。
それでも何とか説得に応じて新人教育に協力してもらえたのは、僅か三日後に国から正式なGOサインが出たからで、それを後押ししたのがキノッコより北にある町村から続々と押し寄せて来た、生活に困窮した人々だった。
当初の予想通りゲームから現実に移行した弊害は世界各地に起きていて、それは、あの女神が転移させた十二人のプレイヤーですべてカバー出来るものではなかったっという事実が、移動して来た人々から淡々と報告された。
飢えで亡くなった人、寒さに耐えきれず亡くなった人、そして私欲に走った奴の暴力で亡くなった人、たくさんの人がこの数日の間に亡くなり、小さな村や集落が消えていたんだ。
しかも聞こえてくる死者の名前が全てモブなんとかで。
……俺のせいかな、と。
少し心の奥の方がざわついた。
それでも、目の前で生きようとしている人を支える事が自分のすべきことだと自分に言い聞かせて動いた。
まるでこの事態を予見していたみたいに、新しい職について学ぶ講習が続々と予定されていた各種ギルドには人が押し寄せ、しかし各種ギルドとの話し合いが済んでいたおかげで大きな混乱もなく、移民たちが王都キノッコでの生活をスタートさせていく姿には何度も慰められた。
俺は、出来る事をした。
そう信じようと思う。
十日も経つと各種ギルドの職員達も慣れてきたようで、大変な状況なのは変わらないのに一人一人に笑顔が増えた。
王都の北側には、新人冒険者から大工見習に肩書を変えたメンバーが親方監修の下で建てた長屋風の建物が増えていき、賃料を安くし移民たちの住居になっている。
幾つかある魔道具工房では、同じく新人冒険者から魔道具師見習いに肩書を変えた複数人に対し、指導者一人という環境で、最初の内は大変だったと言うが、そちらも大分落ち着いたらしい。基本の照明具なら一人で作れるようになった人もいるそうだ。見習いの彼らに作れる魔道具が増えれば、キノッコで暮らす人々の暮らしも向上していくだろう。
――というわけで、農業に詳しい人を紹介してもらって一通りの話し合いも終えた俺は、満を持して銀龍に会いに
何かと思えば、既存の建物はすべて賃貸にして埋まってしまったため紹介できる家がない。しかし土地はあるから新築を建ててしまえ、と。
更に建築ギルドのマスターから、
「見た目は若造だが自分の家を持つ資格はあるんじゃねぇか? 見た目は若造だがな」と、今回の作戦(?)発起人だった俺の貢献を認めてくれたっぽいツンなお言葉を頂戴したので、素直にお願いする事にした。
お金に関しては負担する気満々だったのに、国が思ったより早く対応してくれたおかげで俺の所持金は少ししか減らなかったし、俺が仕事を依頼することで昔ながらのキノッコの職人たちの生活も上向くと言われれば否やは無い。
早く出発したかったので細部はお任せにしたが、……うん、確かに帰って来るのが楽しみになった。
同行者が揃ったとエイドリアンから知らせがあったのは、こちらの世界に来て十四日目の朝だった。
***
『貢献ポイントが1000を越えました』
『称号【創世神の使徒・一の翼】を付与します』
『最初に使徒の称号を得ました。特別ボーナスを付与します――』
名前:カイト
職業:魔法剣士・冒険者(Sランク)・採集師
称号:創世神の使徒・一の翼
属性:水
体力:8928(+100)
魔力:5964(+100)
筋力:923(+30)
耐久:804(+30)
耐性:705(+30)
俊敏:864(+30)
保有スキル
・デバッグ(Lv.1)(+1)
報酬ポイント:1120
・武器術・改(Lv.3)
(剣/短剣/槍/刀/斧/弓/杖/砲)
・格闘術(Lv.6)
・忍術(Lv.4)
・四大属性魔法(Lv.5)
(火/水/土/風)
・二極属性魔法(Lv.4)
(光/闇)
・上位魔法(Lv.3)
(炎/氷/雷)
・採集師の技術(Lv.1)
(索敵/採取/解体)
・製作(Lv.5)
・製造(Lv.6)
・鑑定(Lv.MAX)
・言語理解(Lv.MAX)
所持金:4,114,010,616ベル
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