成の字

 成の字ってさぁ。僕の記憶にあるのは「ちょん」と「はらい」がない姿だったんだよねぇ。小学校でそう習ったし、本当にこの「ちょん」と「はらい」はなかったんだ。絶対だよ?記憶違いじゃない。それに気づいたのが中学二年生ぐらいの時さ。みんなの前で発表をするときがあった。その時に先生に言われたのさ。

「おい〇〇!成の字間違えてるぞww」直さなきゃなぁ。僕は確かその時、一回消して書き直したのさ。

「おい!直せてないぞww」手元がくるったか。先生は僕の成の字を書き直してくれたのさ。目を疑ったね。成の字が違う。僕の思っている成の字じゃない。そんな字は知らない。僕は、その時、とても混乱したね。こいつぁ何を言ってるんだ??頭がどうかしているのか??そう思ってクラスメイトを見まわしたよ。そしたら、彼らまんざらでもない顔なんだ。うんうんと。僕はとても信じられなかった。その日はずっと考えていたよ。ひょっとして頭がおかしいのは僕のほうか?ちがう。あれは確かに僕の記憶だ。一日悩んで、悩んだまま、僕は家に帰ったね。そして、お母さんに聞いたのさ。

「おかあさーん成の字ってさぁちょんとはらいないよねぇ??」

「〇〇〇君。成の字はちょんとはらいあるよ。」

びっくりした。少し僕は寝る前も考えたよ。結果たどり着いた結論が、

『世界の変化』だった。世界が変わってしまったという結論に達したんだ。ん?今君は「ばかばかしい。」て思ったね。「たかが漢字の思い違いだろ」とか「そんなんで世界が変わってたまるか」とか。いや、僕も成の字だけだったらそう言ってたんだ。でも、僕の記憶を掘り返すとそんなこともない。保育所にいたころ、僕はバンダナを汚してしまってね。先生に外付きの洗濯機で洗濯してもらったのさ。でも、今思い返すと、あの保育所には外付きの洗濯機なんてものはなかったし、バンダナをかぶる機会もない。まだあるさ。昔僕が通っていた塾には双子の兄弟がいた。そいつらはとても顔が似ていて、一卵性の双子だったんだ。でもね、今は一人なんだ。僕が二人だと思っていた人間が実は一人だった。僕はやっぱり混乱したね。もっともっとあるんだよ。そういう違いが。家はもう少し大きかったし、畑で小さなねぎを育てた。あのビルは八階建てだった。大きな寺は怖かったし、青森はそこまで寒くなかった。全部が全部、怖かった。みんなもある程度思い当たる節はあるんじゃないかな。

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奇愚怪弄記 現貴みふる @Mihuru

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