第47話 称号士のギルド立ち上げ計画


「大武闘会の戦いを見てました!」

「本当にカッコ良かったです! 俺もアリウスさんみたいになりたいです!」

「ぜひ私もこのギルドで活動したいです!」


 大武闘会の一件から数日が経ち、ギルドには加入希望者が押し寄せていた。


 さすがに歴代初のS級ギルドともなると違うな……。

 いつか加入希望者が集まらないと悩んでいたのが嘘のようだ。


「一息ついたね、お兄ちゃん」

「ありがとうルコット。まさかここまで人が来るとはな……」

「ふふ。それだけお兄ちゃんが頑張ってきたってことだと思うよ」


 俺はルコットが用意してくれた紅茶を飲んで一息つく。

 そうして談笑していたが、またギルドへの来訪者が現れたらしく、ルコットはパタパタと駆けていった。

 受付嬢も大忙しだな……。


 このギルドも十分に広いのだが、元いたギルドメンバーから更に増えていて、このままいくと手狭になってしまいそうだ。


 本当に、レブラによって《黒影の賢狼》のギルドを解雇された時には想像もしていなかった光景だった。


 ちなみにレブラはあの後、王都を混乱せしめた重大な過失があるとして王族により投獄処分となっていた。

 連行される際にレブラは「ボクは悪くない! ボクは悪くないんだ!!」とわめいていたが、今回のことはレブラが私欲と私怨にまみれた結果であることを考えると弁護の余地は無い気がする。


 本当にあの日は色んな出来事があった。

 ガルゴが漆黒の竜と同化した末の激闘があり、それに勝利することができて……。


 ふと、俺はガルゴのことで思い当たり、懐にしまっていた赤く丸い石を取り出す。


 あの時、ガルゴが遺したものであろう石。

 これが何なのかは分からないし、それを確かめるすべももう無いが、赤く光った宝石のようなその石はガルゴの瞳の色を想起させる。


「ガルゴの遺した石ですか? アリウス様」


 リアの声がかかり、ルルカ、クリス副長も続いていつもの面々が揃う。


「そういえば師匠。ガルゴは何故、大武闘会に出場していたんでしょうか? いくらサーシャ王女を取り逃していたとはいえ、という感じがするのですが……」

「確かにな。奴はアリウスに執着しているようにも見えたが、あのような舞台にわざわざ現れずとも秘密裏に事を進めることはできたと思うが……」


 ルルカとクリス副長が投げてきた疑問は俺の中にもあった。


 たぶん、ガルゴは……。

 俺の考えを代弁するかのようにリアがそれに答える。


「……ガルゴはアリウス様と戦いたかったのかもしれませんね。人の姿である内に……」

「「「……」」」


 リアの言うことは当たっている気がする。

 もちろん確かめることはできないが、ガルゴが漆黒の竜と同化する以前の言動からはそう受け取られる節がいくつもあった。


 それに、最後には「一族の怨嗟を終わらせてくれた」と言っていた。

 奴の中では生前の自我と同族の怨念とが常にせめぎ合っていたのかもしれない。


 やっぱりこれはガルゴの墓前に供えてやろうと、そう考えて俺は赤い石を懐にしまった。


「そ、それにしてもあの時の師匠、本当に凄かったですね!」


 少ししんみりした空気を打ち消すかのようにルルカが声を上げる。


「光の剣であの漆黒の竜を倒しちゃうとか、誰の攻撃も効かなかったのに。それと、リアとキ、キキキ、ス、をしちゃう、とか……」

「んふふー。ルルカさんだってしてみたら良いじゃないですかぁ。私は構いませんよぉ? アリウス様はみ・ん・な・のアリウス様ですからね」

「な、なななっ! 何てことを言うんですか、リア!?」


 おい、人を物のように言うな。

 確かにあの時は無我夢中だったとは言え、さすがに衆目環視の中で行われたというのは気恥ずかしくもあった。


 できればあんまりみんなの印象に残らないでくれるとありがたいんだが。


 しかし、俺のそんな考えはギルドを来訪した人物によって打ち破られる。


「やあ皆さん。盛況ですなぁ」

「あー、記者のオジサンじゃないですか。どうしたんです?」

「いやぁ、実はアリウスさんに許可をもらいたいことがありましてな」

「パーズさんが俺に許可、ですか?」

「ええ。コイツをですな。次のグロアーナ通信に特集で載せようかと思ってるんですわ」


 そう言ってパーズが俺に差し出してきたのは一枚の写真だった。

 女性陣も加わって、みんなでその写真を覗き込む。


「あ……」

「う……わぁ……」

「おお、これは……」


 そこにはリアが俺に唇を重ねた瞬間が写し出されていた。


 ……。


 ――あの時に聞こえた妙な音はこれか!?


 俺はリアが口づけしてきた際に聞こえた「カシャリ」という音を思い出す。


「いや、我ながらよくあの瞬間を撮れたと思っとります。記者として大武闘会に行っていた甲斐がありましたなぁ。わっはっは」

「却下です。絶対に却下」

「ええー。そりゃあ無いですよアリウスさん。この写真を載せれば次のグロアーナ通信が売れることは間違いないですのに」

「それでもです」


 まったく、恐ろしいことを……。

 そう考えて頭を抑えている俺をよそに、リアが甲高い声を上げる。


「記者のオジサン! それ、私にくださいっ!!」

「え、ああ。複製もできるし構いませんが」

「わっはぁ! ありがとうございます! あなたは神です!!」

「いや。神はリアさん、あなたでしょうが……」


 写真を手に入れて小躍りするリアを全員が戸惑った表情で見ていた。


 本当に女神っぽくない女神様だ。


 そうして苦笑しながら見ていた俺に、ルコットが駆け寄ってくる。


「お兄ちゃーん。お客様だよ。ギルドへの依頼をしたいんだって」

「ああ、分かった。すぐ行く」


 そう答えて、俺はルルカやクリス副長と共に立ち上がった。

 リアはというと、にやけた顔で小躍りし続けていて、俺はそれを見てまたも大きな溜息をつく。


 どうやら女神様とのギルド運営はまだまだ続きそうだった――。


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コミカライズ化決定【称号付与士のギルド立ち上げ計画】最弱ジョブ認定されギルド解雇された俺。授かったのは名前を付けるだけで真の力を引き出すチート能力でした。能力を使っていたら最強のギルドが爆誕した件。 天池のぞむ@6作品商業化 @amaikenozomu

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