第13話 称号士の次なるギルド活動
「アリウスさん。初依頼達成、おめでとうございます」
応接用のテーブルの向こう、キール協会長が柔和な笑みを浮かべている。
俺たちはエルモ村での一件の後で王都に戻ってきていた。
依頼の完了報告と併せ、色々と目にしてきた不可解なことを報告するため今はギルド協会のキール協会長の執務室でテーブルを囲んでいる。
「やはりアリウスさんを見込んでお願いして良かった。あと少し遅ければ壊滅的な被害が出ていたかもしれません。妹さんのご病気の快復にも繋がったとのこと。本当に何よりでしたね」
「ありがとうございます。これもキールさんが依頼を受けさせてくれたおかげです」
「いえいえ」
俺が隣に座るルコットと並んで頭を下げると、キール協会長は「お礼なんて良いですよ」という風に手を振っていた。
そしてテーブルに置かれた紅茶に口を付けた後で、少しだけ真剣な表情になる。
「しかし、呪術師の暗躍ですか……。黒いローブの男というのも気になりますね」
「そーなんですよ。協会長さんは何か知りません?」
砕けた感じでリアが尋ねるが、キール協会長は静かに首を振った。
「ルコットさんは? 呪いの刻印が発現した時のことで何か覚えてはいませんか?」
「それが……。何年か前、黒い蛇のようなものに噛まれたことがあるんです。でも、お兄ちゃんとリアさんが呪いを解いてくれるまでそのことは何故か忘れていて……」
「呪いの付与だけでなく、認識阻害まで……。ルコットさんに呪いをかけた呪術師というのは相当な使い手のようですね」
モンスターを操り、ルコットに呪いをかけていたとされる高位の呪術師。
そしてエルモ村に行く途中、黒い渦から現れたモンスターを倒した後で現れた、不気味な黒いローブの男。
この二人が同一人物なのかは分からないが、警戒しておく必要があるだろう。
「モンスターが出現する黒い渦のことも気になりますねぇ。まあ、アリウス様がぶっ飛ばしましたけど」
「……実はこのところ各地でもモンスターが突然現れた、巨大化しているなどの目撃情報が相次いでいるのです。今年は災厄の黒い龍が現れるとされる年。もしかすると、このことと何か関係があるのかもしれません」
「いずれにしても、今すぐ答えは出ませんね……」
「はい。この件は私の方でも色々と調べておきます。皆さんも何かあれば教えて下さい」
俺はキール協会長の言葉に頷き、固まった空気を押し出すようにして一つ大きく息を付く。
「それで、キールさん。頼んでいたものなんですが」
「ああ、あれですね。はい、ちゃんと用意してありますよ」
にこやかに笑って、キール協会長が書類の束を机の上に乗せる。
「お兄ちゃん、何これ?」
「ああ、俺たちがギルド活動していくため絶対に必要なものさ」
ルコットが書類の束を見つめている。
書類にはそれぞれ、部屋の間取り図などが記載されていた。
――そう、今の俺たちには家がないのだ。
加えてもちろん、ギルドの活動拠点も無い。
エルモ村に行けば家はあるにはあるが、さすがに王都でギルド活動しながら距離の離れたエルモ村と行き来するのは現実的ではない。
よって、この王都で住居兼ギルド拠点となる物件を借りることが現在の最優先事項なのだ。
「エルモ村に出発する前、アリウスさんから頼まれていましてね。なるべく多くリストアップしたつもりなのですが、実際に見て決めていただいた方が良いかと」
「さすがやり手の協会長さんですねぇ。でも、これだけあると目移りしちゃうかも……」
確かにリアの言う通り、物件のリストは少なく見ても100枚以上ある。
この場ですぐに決めるのは難しいか……。
そう思っていたのだが、意外にもルコットから声がかかる。
「まずは消去法で決めていくと良いかもね、お兄ちゃん」
「え?」
「初期費用がかかりすぎるものは除外かなぁ。これは……、うーん。大家さんに渡す敷金が高いね。ここは……、近くにB級ギルドが3件もあって競合になりそうだからパス、と」
「おおぅ……」
ルコットが真剣な表情でリストを物色していて、思わず声が漏れる。
「ルコットさんすごーい! それじゃあそれじゃあ、これなんてどうです?」
「うーん。日当たり良好、初期費用も安い、と。……ああ、でも見てリアさん。ここに小さい字で家賃の他にかかる管理費用や更新時費用のことが書いてあるんだけど、これを加味するとランニングコストがかなり割高になっちゃうね」
「おおぅ……」
リアが先程の俺と全く同じ声を漏らす。
俺の役に立ちたくて色々と勉強してきたと言っていたが、こんなところで発揮されるとは。
妹の努力が垣間見え、兄としても誇らしい。
「あれ? この物件、すごく良いかも。立地環境は文句なし。それに費用面もかなり抑えられる……。え? 何でこんな物件があるんだろう?」
ルコットが取り上げた物件を見ると、確かに好条件だと感じられた。
「ああ、それはですね、ちょっといわくつきの物件なんです」
「いわくつき? もしかして夜な夜な幽霊が出るとか?」
「ぇ……」
俺の言葉に、何故かリアがビクリと反応する。
……幽霊、苦手なんだろうか?
「フフフ、ご安心を。そういうわけではないです。ただ、その物件の所有者が提示している条件がありましてね」
「え? それってどういう――」
「ふふーん、アリウス様ならどんな条件でも大丈夫ですよ!」
リアが立ち上がり叫ぶ。
「私も《女神の力》でサポートしますし、力を合わせて頑張りましょう!」
ああ、言っちゃうんだそれ。
ちらりとルコットを見ると、案の定目を見開いていた。
「え? リアさんが女神? ああ、だからあんな魔法を。そういえば見た目も。……って、え? 女神?」
「あ……、しまっ」
困惑、納得、そして呆然とルコットの表情がころころ変わる。
そして最後に驚愕の顔を浮かべ、
「えぇえええええええええ!?」
ギルド協会にルコットの絶叫が響き渡るのだった。
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