第12話 ギルドメンバー《+1》


「リアは負傷した自警団のみんなを頼む!」

「わっかりました!」


 先に戦闘していた自警団の人たちはリアに任せ、俺は村を襲ったモンスターと対峙する。


 ――フシュルルルルル!


 眼前の巨大蛇、ウロボロスは独特な唸り声を上げながらこちらを睨みつけていた。


「改めて見るとやっぱりデカいな……」

「アリウス様ならへっちゃらですよ! ゴーゴー!」


 自警団の面々を治療しているリアから激励の言葉が飛んでくる。

 そろそろ緊張感が無いリアにも慣れてきた。


 それよりも、このモンスターを倒せば妹ルコットを長年苦しめていた呪いから解放してやれるかもしれないのだ。

 負けるわけにはいかない。


 俺は称号士の能力の使用を念じ、


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【選択可能な称号付与一覧】


●豪傑

・筋力のステータスがアップします。


●紅蓮

・初級火属性魔法の使用が可能になります。

・中級火属性魔法の使用が可能になります。

・上級火属性魔法の使用が可能になります。

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「称号付与! 《紅蓮》っ!」


 自身に称号付与を試みた。

 そして体中に熱い力があふれるのを確認し、ウロボロスに向けて上級魔法を放つ。


「メテオボルケーノ――!!」


 俺が魔法を唱えると、ウロボロスのいた地面から火柱が巻き上がった。


 ――グギャァアアアアアア!!


 ウロボロスはその長い体を巻きつけるようにしてのたうち回り、炎の渦に飲まれていく。


 このまま丸焼きになってくれると助かる。

 そんな考えが巡るが期待通りにはいかないようだ。


 ウロボロスは炎から逃れようとしたのか、地面に頭を突っ込み地中へと潜ってしまう。

 地面がガタガタと波打ったかと思うと、俺の立っているところめがけてウロボロスが突き上げてきた。


「うおっ!」


 俺は地中からの突進攻撃を間一髪で回避する。


 上級火属性魔法を喰らわせたおかげで動きが若干鈍っていたものの、地中で鎮火したことで決定打には至らなかったらしい。


 俺は姿を現した敵に向けて追撃を放とうとするが、またもウロボロスは土の中に潜ってしまう。


「くそ、やりにくいな」


 距離を取って戦えばウロボロスの出現に合わせて攻撃できるだろうが、標的の俺が離れれば今度は疲弊している自警団の人たちに襲いかかりかねない。

 リアが守ってくれているとはいっても、そんなことになれば全員を無事に、というのは難しいだろう。


 ならばと、今度はウロボロスを対象に取って称号付与を試みる。


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【対象ウロボロス、選択可能な称号付与一覧】


●破面

・防御力のステータスがダウンします。

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「防御力のデバフ効果か……」


 ――よし、それなら。


 俺はわずかな逡巡の後、次の手段を決める。


 俺は地面を歪めながら接近してくる相手に向けて称号を付与してやった。


「称号付与、《破面》……!」


 ――フシュルッ!?


 変化を察したのか、地中のウロボロスの動きが一瞬止まるのを感じた。

 俺は瞬時に自分へと向けて筋力上昇効果を持つ《豪傑》の称号を付与。


 そして、ウロボロスがいるであろう場所に向け、全力の剣撃を打ち付ける。


「地面まるごとブッ叩いてやる――!!」


 凄まじい音とともに俺のショートソードが地面を穿つ。

 そしてその攻撃は、大量の土砂で囲まれたウロボロスにやすやすと届いた。


 ――グギャアアアアアアッ!!


 防御力をダウンさせた上で《豪傑》により強化した一撃を喰らわせたのだ。

 あの巨体とはいえ、ひとたまりもないだろう。


 俺は確かな手応えを感じ、振るった剣を鞘に収めた。


 ――おぉおおお! アリウスがやってくれたぞ!!


 自警団の面々から歓声が上がる。


 振り返ると、俺に向けて親指を突き上げているリアが目に入った。


   ***


「お兄ちゃん……」

「大丈夫。きっと、うまくいく」


 俺は不安げに見上げてくるルコットに笑顔を向ける。


 俺たちはウロボロスを倒した後、すぐにルコットの元へと戻っていた。

 理由はもちろん、ウロボロスを撃破したことで弱まったであろう呪いを解呪するためだ。


 事情を聞いたネロ村長を始め、エルモ村の住人たちも固唾を呑んで見守っていた。


「それではアリウス様」

「ああ」


 俺はリアの言葉を受けて称号士のジョブ能力を使用する。


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【対象リア、選択可能な称号付与一覧】


水天一碧すいてんいっぺき

・女神が使用する魔法の効果をアップします。


●???

・???

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「称号付与、《水天一碧》――」


 俺がリアに向けて称号付与を試みると、リアの周りに蒼い光の粒子のようなものが現れた。

 その幻想的とも言える光景に、ネロ村長や周りにいた村人たちから感嘆の声が漏れる。


「アリウス。先の戦いでもそうだったが、おぬしのその力は一体……」

「はは……。どこかの妄想大好き女神様から授かりました」


 ネロ村長が怪訝な顔を浮かべる中、当の女神様は集中した顔をルコットに向けている。

 正確にはルコットの背中に浮かぶ《黒蛇の刻印》に向けて、だ。


 ウロボロスを撃破したからだろうか。

 心なしか黒い刻印が少し薄くなっているように見えた。


「お願いします。リアさん」


 リアが頷き、女神の力を使うべく両手の先を見据える。


「では、いきます。めが……、コホン。何だかよく分からない力、パート4」

「……」


 下手にごまかすくらいなら言わなくてもいいのでは?

 そう思ったが、集中しているようなのでそっとしておく。


 リアは両手の平を黒蛇の刻印に添える。

 それに導かれるようにして、リアの瞳のように蒼い光がルコットの背中を覆っていく。


 ――頼む。


浄化魔法エリクシール――」


 刹那、蒼い光が一際強く輝き、鏡が砕かれるような音が響いた。


「やった、のか……?」


 見るとルコットの背中からは黒蛇の刻印が綺麗に消え去っていた。


「か、体が凄く軽いよ、お兄ちゃん……!」


 ルコットが笑顔を弾けさせる。

 まるで何かから解放されたかのように。


「ふう。これで大丈夫。バッチリ解呪できたはずです」

「あ――」


 ――叶った。


 事の成り行きを見守っていた村の人たちからも歓声が起こる。

 長年の悲願が成就した瞬間だった。


「リア。本当に……、本当にありがとう」

「いえいえ。元はと言えばこれはアリウス様のおかげなんですから」

「いや、俺はただ称号士のジョブ能力を使っただけだよ」


 俺はごまかすように苦笑した。

 しかし、リアは「いいえ」と呟き首を振る。


「確かにウロボロスを討伐し、称号付与の効果を発揮しなければ解呪はできませんでした。でも、それはあくまで前提あってこその話なんです」

「前提……?」

「アリウス様がずっとルコットさんに使っていたという高級薬草。あれが呪いの進行を遅らせていたのだと思います。激務の末に得たお金を、ただ妹さんのために使い続けるという行為。それがなければ間に合わなかったかもしれません」

「……」


 そうか……。

 今日までのことは、無駄ではなかったのか。


「本当にありがとう、お兄ちゃん、リアさん!」

「ふふっ。私もまだまだルコットさんの料理を食べてみたいですしね」


 ルコットが笑い、リアもそれに応じている。

 それはとても眩しい光景のように思えた。


「本当に良かったな、アリウスよ」

「あ、ありがとうございます、ネロ村長。それに、みんなも……」


 俺は祝福の言葉を送ってくれる村の人たちに向けて頭を下げる。


「この村でおぬしの努力を知らぬ者はおらんよ。ずっと報われる日が来ればいいと思っとった。きっと女神エクーリア様も見ていてくれたに違いない」


 ネロ村長の言葉を聞いて、リアが俺に向けてウインクしてきた。

 確かに、見ていてくれたんだな。


「あの、お兄ちゃん」

「ん? どうした、ルコット」

「私、病気が治ったらずっとやりたいと思っていたことがあるの」


 ルコットが近くまで来て、まっすぐに俺を見つめる。


「今までずっと助けてもらった分、私もお兄ちゃんの力になりたい。だから、私をお兄ちゃんのギルドに入れてくれないかな?」

「ギルドに?」

「うん」


 入れてくれないかと聞いてきたが、これは引き下がるつもりはないな。

 そう感じさせるほど、ルコットの瞳からは意思が感じられた。


「もちろん、お兄ちゃんみたいに戦ったり、リアさんみたいに不思議な力を使ったりはできないけど。でも、私だっていつかお兄ちゃんの役に立ちたいと思って色々と勉強してきたの」


 ルコットの呪いが解呪できたといっても、病み上がりには違いない。

 ならば、近くにいて経過を観察した方が良いだろう。


 それに、ギルドには受付嬢がいるのが一般的だ。

 ギルド活動していく上では戦闘員のみならず経理やその他諸々の雑務を行う人間も必要であり、これを受付嬢が兼任しているギルドも少なくない。


 ルコットは元々かなり頭の良い子だ。 

 当然戦闘などはさせられないが、受付嬢を兼ねてギルドの事務活動などをやってもらっても良いかもしれない。


 リアに視線をやると、「もちろん」といった感じで頷いてくれた。


 ――断る理由は無い、な。


 俺が手を差し出すと、ルコットは嬉しそうに笑ってその手を取った。



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