第11話 称号士と巨大蛇ウロボロス
「俺の【称号士】なら妹を……、ルコットを助けられる……?」
リアは頷く。
「はい。ただ、必要なことがあります」
「教えてくれ!」
妹の病気を治療するために前のギルドで活動してきたといっても過言ではないのだ。
逸る気持ちを抑え、俺はリアに問いかける。
「具体的に何をすれば?」
「必要なことは二つ。といっても一つはすっごく簡単です。アリウス様が私に称号を付与してくだされば良いんです」
「俺が、リアに?」
そうか……。
称号士の能力は他人に力を分け与えることもできると、出会った時にリアは言っていた。
そして、リアは色んな女神の力を使うことができるとも言っていたはずだ。
称号士の力を使いリアの女神の力を増幅させれば、あの刻印を打ち消し得るということなのだろう。
リアが俺の考えを見透かしたように口角を上げる。
「ただ、アリウス様の力を借りたとしても、私はまだ完全に魔力が回復しているわけではありません」
「それでもう一つ必要なことがあるってわけか」
俺の言葉に、リアは再度頷く。
「一体何をすれば……?」
「ルコットさんに呪いを植え付けたモンスターを倒せばいいんです」
「モンスターを? でも、呪いってのは呪術師が扱うものなんだろ?」
「仰る通り。ただ、あの黒蛇の呪いは直接付与されたものではありません。呪術師が操っているモンスターを媒介として付けられたものです」
なるほど……。
ということは、そのモンスターを見つけ出して倒せば呪いの力を弱められるということか。
「でも、ルコットにあの刻印が発現したのは数年前だぞ? そんな頃にいたモンスターをどうやって探せば……」
「ふふーん。それについては良いお知らせがありますよ、アリウス様」
「……?」
「実はですね、エルモ村に近づいた辺りからずっと集中して気配を探っていたんです」
「何の?」
「モンスターのです」
リアは胸を張って言った。
「何だか、妙な気配を感じたんですよねぇ。普通じゃない感じのモンスターっていうか、誰かに操られてるっていうか。いやー、探っておいて良かったです」
「誰かに操られてるモンスター? まさか……」
「そう、その通りです。気配からして十中八九、呪術師が操っているモンスターだと思います。それで、どうもそのモンスターがこの村の近くにいるようなのです。といっても、今は少し離れた森の中にいるみたいですが」
リアの言葉に俺は歓喜した。
それなら、リアが感知したモンスターを倒せば妹を、ルコットを助けられるということになる。
場所はリアが把握しているらしく、こちらから攻め入ることも可能だ。
「凄いなリア! そんなモンスターを見つけるなんて」
「ふっふっふ。女神の力、パート3です。でも、そのモンスターを見つけられたのも、エルモ村に着くまで集中できたからなんです」
「村に着くまで? ……リア、まさかそのためにおんぶしてくれとか言ってたのか?」
「ふふーん。その通りです!」
それならそうと言ってくれれば良かったのに。
ワガママで言っているとか、村に着いた時の反応を楽しもうとしてたとかじゃないかと疑ってしまっていた。
「ああ、でも欲を言うと、もっとアリウス様の背中の感触をもっと味わっておきたかったです。……いや、またおんぶしてもらえばいいだけの話ですね。くふふふふ」
「……」
まあ、とりあえずやることはハッキリとした。
リアの感知したモンスターというのが今回の討伐対象の可能性も高い。
であれば分かりやすい。
そのモンスターを討伐するという本来の目的を追えば良いわけだ。
「しかし、呪術師か……。気になるな」
俺はふと、エルモ村に着く前に出くわした黒いローブの男のことを思い起こす。
「リア。もしかしてあの男……」
「可能性は、あるでしょうね」
リアも同じことを考えていたようだ。
あの不気味な雰囲気を纏っていた男。
あれが例の呪術師ということも考えられた。
今すぐに調べることは難しいが、気に留めておく必要はあるだろう。
それでも、長年願い続けていた妹を救う方法が見つかったのだ。
――リアには感謝しないとな。
俺はリアに改めて礼を伝える。
「いえいえ。確かに私が災厄の魔物と戦うためにこの世界に来たことは事実です。でも、それ以上にアリウス様の力になりたかったからです。ですから、放っておけるはずがないですよ」
……普段は暴走しがちな女神様だが、良いところあるじゃないか。
俺がリアに改めて感謝の意を告げようとした、その時だった。
――うわぁあああああ!!
「悲鳴っ……!?」
「村の入口の方からです!」
俺は咄嗟に、悲鳴の聞こえた方へと走り出す。
「お兄ちゃん! どうしたの!?」
途中、家の前を通った時に困惑の表情を浮かべるルコットと出くわした。
「恐らくモンスターだ! ルコットは家に隠れているんだ!」
「わ、分かった!」
俺はルコットにそれだけ伝えると、そのまま村の入口を目指して駆ける。
そして――。
「……っ。これ、は……!」
村の入口で目にしたのは、巨大な蛇のモンスターだった。
――巨大蛇ウロボロス……!
蛇のように独特な動きをすることから大型モンスターの中でも特に討伐が難しく、上級ジョブを多人数揃えたパーティーでも苦戦を強いられるとされるモンスターだ。
加えて、振り回される尾撃は屈強な戦士をまとめて薙ぎ払えるだけの威力を持つと聞く。
村の自警団がウロボロスの侵入を阻止しようとしているようだったが、ほぼ壊滅状態だった。
片膝をつく者、地面に突っ伏している者が多数でとても戦闘は続行できそうにない。
「ネロ村長!」
「おおアリウスよ、来てくれたか!」
自警団の指揮を取っているネロ村長が俺に気付き振り返る。
「俺も加勢します!」
「すまんが頼む。《黒影の賢狼》で鍛えてきたお主なら百人力だ!」
正確には
俺はショートソードを鞘から抜き放つ。
と、リアが唐突にウロボロスを指差して叫んだ。
「ああー、アリウス様、これこれ! これです! これがルコットさんに呪いを付けたモンスターです!」
「はぁっ!?」
そんな馬鹿な。
目の前の巨大蛇は村の家屋より遥かに大きいぞ。
こんなのに呪いをかけられた、というか出くわしたなら、ルコットも当然気付くはず。
けど俺はルコットからそんなことを聞いた覚えが無い。
「間違いないのか?」
「絶対です! 気配を探っていたモンスターと同じですから。……でも、おっかしいですねぇ。さっきまでは森にいたはずなんですが……」
「……」
解せない点は残るが、今は目の前の敵に集中しよう。
コイツを倒せばルコットにかかった呪いの力は弱まるということだ。
エルモ村のみんなを守るためにも、ルコットを救うためにも、絶対に倒す……!
俺は再度決意し、手にしたショートソードをきつく握りしめた。
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