第7話 称号士のギルド設立と初依頼


「おい、誰か手合いでもやるみたいだぞ」

「へえ、どれどれ。……って、あれはキール協会長じゃないか!?」


「アリウス様ぁー、頑張ってくださーい!」


 結果、俺は王都でも五指に入る実力を持つというキール協会長と模擬戦を行うことになった。


 ギルド協会の中庭にやって来て、俺はキール協会長と向かい合う。

 リアが離れたところから見守り、更にその外には人だかりができていた。


 大方、キール協会長が戦うと知って集まってきたのだろう。


「誰が相手するのかと思えば、外れジョブを授かった落ちこぼれって噂のアリウス・アルレインじゃねえか」

「馬鹿、お前さっきの見てなかったのか? あのB級ギルドのアデル三兄弟を一蹴してたんだぞ。たぶん元いたところのギルドに見る目がなかったんだよ」


 集まった人たちから様々な声が聞こえてきて、俺はキール協会長と顔を見合わせて苦笑する。


「どうやら注目を集めているみたいですね、アリウスさん」

「はは、そうですね」


 元いたギルドでも部下の前で模擬戦を行うことはあったが、今回は相手が相手なだけに外野を気にしている余裕は無い。

 俺はショートソードを構え、キール協会長も白銀の剣を抜く。


「女神エクーリアよ、我らの戦いを照覧あれ」

「はーい」

「え?」


 キール協会長が決闘の際に使われる前口上を述べていたところ、リアが馬鹿正直に応えていた。

 女神様、頼むから普通に見ててくれ。


 リアが「いやぁ、うっかりうっかり」という様子で舌を出していた。

 俺はキール協会長の気をこちらへ向けるために、あえて大声で叫ぶ。


「いきますよ! キールさん!」

「わ、分かりました。では改めて――」


「「勝負……!」」


 俺は開始の合図と同時に地面を蹴り、キール協会長との距離を詰める。


 ――先手必勝っ……!


 勢いそのまま、待ち構えるキール協会長に横払いの剣撃を繰り出す。

 が……、


 ――ギィンッ!


 キール協会長は俺の剣をいなした後、フワリと後ろに飛び退く。


「良い太刀筋です。やはり相当な実戦経験を積んできたようですね、アリウスさんは」

「それは、どうもっ……!」


 その実戦経験がギルドでの過剰労働によるものというのは少し悲しいが、そこは置いておく。


 俺は再度、協会長との間合いを詰めようと疾駆する。

 が、協会長はそれを見越したかのようにバックステップで距離を取り、構えた剣を下段から上段にすくい上げた。


「ハァアッ、風神剣――!」

「くっ」


 瞬間、離れたところにいる協会長からカマイタチのような衝撃波が飛んできた。

 間一髪の所で回避し、衝撃波は俺の横をすり抜けていく。


 ――まともに当たったらヤバいな。


 衝撃波の軌跡を示すように、地面は広範囲に渡り削られていた。


「まだまだ、いきますよ!」


 キール協会長はまたも剣を振るい、衝撃波を繰り出してくる。

 俺は立て続けに迫る衝撃波をさばくのに精一杯で攻勢に回ることができない。

 さすがに王都随一と言われる強さだ。


「むー、協会長さんズルいです。アリウス様と離れて戦ってばかり」

「先の戦いを拝見したところ、アリウスさんと至近距離で戦うのは得策じゃなさそうでしたからね」


 確かに、このままではジリ貧で体力だけ削られていきそうだ。


 ――それなら……。


 俺は称号士のジョブ能力の使用を念じ、青白い文字が目の前に表示させる。


=====================================

【選択可能な称号付与一覧】


●豪傑

・筋力のステータスがアップします。


●紅蓮

・初級火属性魔法の使用が可能になります。

・中級火属性魔法の使用が可能になります。

・上級火属性魔法の使用が可能になります。

=====================================


 ――剣が届かないなら、こいつだ。


「称号付与……! 《紅蓮》!」


 俺は唱え終わった後、剣を握る手とは反対の手をキール協会長に向ける。


「中級火属性魔法、フレイムスピア――!」

「……なっ!」


 キール協会長に向けた手から炎の矢を連射。

 高速の赤い矢が真っ直ぐにキール協会長へと向かっていく。


 まさか魔法を使用されると思ってなかったのか、キール協会長は一瞬驚いた顔をして、咄嗟に横へと体を投げ出した。


「今だっ……!」


 体勢が崩れたところを見逃さず、俺は瞬時にキール協会長の至近距離まで迫る。

 そして――、


「……」

「……お見事。私の負けです、アリウスさん」


 眼前に剣を突きつけると、キール協会長は降参の意を示して両手を上に上げた。


 ――オォオオオ!!


「やった、やりましたぁ! アリウス様の大勝利です!」


「す、すげぇ! アイツ、キール協会長に勝っちまったぞ!」

「ああ、見たかあの動き。それに高威力の魔法まで……」


 リアが歓喜の声を上げ、遠巻きに見ていた観衆からも歓声が上がる。


「いやぁ、参りました。まさかこれほどとは」

「あ、ありがとうございます。キールさん」

「しかし、アリウスさんのジョブ能力は剣や身体能力に関わるものだと思っていたのですが……。まさか魔法まで使用されるとは……。魔法剣士、にしては魔法も剣の威力も強いですよね。一体どのようなジョブなのです?」


 キール協会長は解せないという顔を浮かべている。

 と、リアが近くまでやって来て、俺の代わりに得意げな表情で答える。


「ふふーん。アリウス様のジョブは【称号士】というつよつよジョブなんですよぉ」

「え? 称号士……?」


 さすがにキール協会長でも聞いたことがないようだ。

 俺は掻い摘んで称号士のジョブ能力について説明する。


「そんなジョブ能力が……。アリウスさん、あなたは一体……」


 キール協会長はふと、リアの方をじっと見詰めたかと思うと納得したかのような表情を浮かべる。


「なるほど……。まさにアリウスさんは女神に選ばれた人というわけですね」

「……」


 若くしてギルド協会長の立場に就いているだけあって、さすがの洞察力だ。

 伝承の姿よりも小さくなっている上、ヴェールで印象を変えているのにリアの独特な雰囲気から察したのかもしれない。


「あの、キールさん。このことはどうか内密に……」

「ふふ。分かっていますよ」


 キール協会長は柔らかく笑い首肯する。


「それにしても、私の目に狂いはありませんでした。これなら安心してお任せできそうです」

「……? キールさん、それってどういう?」

「まずはアリウスさん、あなたのギルド設立を認めます。と同時に、アリウスさんのギルドはC級とさせていただきます」

「え!? E級ではなくC級ですか……?」


 ギルドにはランクがあり、階級はA級からE級までが存在している。

 そして、普通はどのギルドもE級からスタートするはずだ。

 いきなりC級から始まるギルドなんて聞いたことが無い。


「どのランクから始まるかについて、実は決まりは無いのです。それに、アリウスさんほどの強さでE級というのはあまりにも見合っていないと思いますから」

「……いいんですか?」

「私はC級というのも控えめな評価だと思っていますが……。そこはまあ、ギルドメンバーなども増えて依頼も達成していったらということで」


 そう言って、キール協会長はお茶目にウインクしてみせた。


「さっすが協会長さん。どこかの節穴ギルド長とは違ってお目が高いですね!」

「ふふ。そう言っていただけて光栄です」

「あ、ありがとうございます。キールさん」


 俺はキール協会長に向けて深々とお辞儀をする。

 ランクによって受けられる依頼なども変わってくるのでありがたい限りだ。


「さて。ところでアリウスさん。これを見ていただけます?」

「え?」


 キール協会長は懐から一枚の紙を取り出す。

 それはどうやら依頼書のようだった。


「この依頼、引き受けてくれるギルドがいなくて困ってるんですよねぇ。C級以上のギルドであれば受けることが可能なんですが……。おや、そういえば都合良くアリウスさんのギルドもC級ですね」

「キールさん、まさか……」

「わぉ、協会長さんってばやり手ですねぇ」


 俺はにこやかな表情を浮かべているキール協会長を見てため息をつく。

 これを見越して手合わせしたいって言ってきたわけか。


「でも、先程の勝負は手加減したわけじゃありませんからね。アリウスさんが強いというのは本当ですよ。もちろん、その依頼も無理強いはしません。受けてくださるならで結構です」

「は、はあ……」


 とりあえず、俺は依頼書の内容に目を通す。

 王都から離れた場所で大型のモンスターの痕跡が見つかり、その討伐を求むという趣旨だ。

 村が近くにあるため、放置すると村人に危害が及ぶかもしれない、と。


 それで、場所は……。


「あ……」

「んーと、場所は……、エルモ村? どうします、アリウス様?」


 リアが村名を読み上げ、俺の顔を覗いてくる。

 どうするかは決まっていた。


「やります! この依頼、受けさせてください!」


 エルモ村――。


 それは俺が生まれ育ち、今も妹が暮らしている村の名前だった。


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