第6話 ギルド協会長の提案


「ぐ、ぬぬぬぬ……」

「え、えっと?」


 俺とリアに絡んできた男たちは立ち上がろうとしているが、それすらも叶わずに地面からわずかに顔を上げるばかりだ。

 どうやらほとんどの力が抜けているらしい。


 これが脆弱ぜいじゃくの称号付与した効果なのか。


「お前……、何しやがった……!?」


 脆弱ぜいじゃくの称号付与は筋力をダウンさせるデバフ効果のはずだが、ここまで効き目があるとは……。


「く、そぉおおお! それで勝ったと思うなよ!」

「む……」

「俺が授かった【重戦士】の能力ならこれしき……!」


 始めに絡んできた大男がジョブ能力を使用したのか、立ち上がってきた。


 重戦士はパワーに特化したジョブだ。

 その力で身体能力をパワーアップさせているのだろう。

 一度は落としたバトルアクスを手にし、俺に向けて駆け出してきた。


 スピードこそ落ちているものの、一度地面を舐めさせられた屈辱からか鬼のような気迫で向かってくる。

 さすがに上級ギルドに所属する手練だ。


 何か対抗手段をと考え、今度は自身への称号付与を試みる。


=====================================

【選択可能な称号付与一覧】


●豪傑【※新規】

・筋力のステータスがアップします。


●紅蓮

・初級火属性魔法の使用が可能になります。

・中級火属性魔法の使用が可能になります。

・上級火属性魔法の使用が可能になります。

=====================================


 ――豪傑、か。

 大型のブラッドウルフを撃破した時に獲得していた称号だ。


 街の中心地で火属性魔法を放つのも危険だし、ここは《豪傑》の称号付与を試してみよう。


「称号付与! 《豪傑》……!」


 唱え、体中に力がみなぎってくるのを感じる。


 ――これなら……!


「ハァッ!」


 俺は手にしたショートソードを力のままに振るった。

 剣は向かってくる大男が構えていたバトルアクスに直撃し粉砕。……してもなお止まらず、そのまま剣の腹が大男の体にめり込む。


「ぐ、ぼぉえええええええ……!」


 俺よりも遥かに大きい体格の男が綺麗な放物線を描き飛んでいく。

 そしてそのまま、かなり離れた道脇のゴミ山へと突っ込んだ。


「「あ、アニキーっ!」」


「……」


 念の為みね打ちにしておいて良かった……。

 男たちに使用した称号も効き目が凄まじかったからもしやと思ったが、この《豪傑》の効果も規格外だった。


「ふっふん、さっすがアリウス様。カッコ良いところ、いただきました!」


 リアが興奮した声を上げて駆け寄ってきた。

 大男はといえば、ゴミに囲まれながら白目を向いている。


「あらあら、随分とゴミがお似合いですねぇ。ぷぷぷっ」


「て、てめえ。よくもアニキを!」

「この野郎! 許さねぇぞ!」


 そういえば他に二人いたんだった。

 大男を吹き飛ばした俺に敵意むき出しなのだが、始めにかけた称号付与が効いているのか、地面の上でジタバタするばかりで様になっていない。


 大人しくしてくれるんであれば解除してやりたいところだがどうしたものか。

 悩んでいると、ギルド協会の中から出てくる人物がいた。


「そこまででいいでしょう」

「あ、あなたは……」


 整った身なりをした長身の男性がこちらへとやって来る。

 青い長髪を後ろで束ね、柔和な笑みを浮かべているのが印象的だった。


「そこの二人。ギルド《飽食の翼竜》のメンバーですね」

「「は、はひっ……!」」

「事情は見ていた者たちから聞きました。この件はあなたたちのギルド長にも報告させていただきます。今日は後ろにいる男を連れて帰りなさい」

「「か、かしこまりましたぁ……!」」


 青髪の男性の目が細くなり、二人の男は顔を青くさせている。

 有無を言わせない静かな迫力があった。


 ……もう大丈夫だろう。

 俺が称号付与を解くと、二人はゴミ山で気絶していた大男を抱え上げ、そそくさと去っていった。


「災難でしたね。もうこれで大丈夫でしょう」


 俺たちの方に向き直った青髪の男性が軽く会釈する。


「あの、アリウス様。こちらのお方はどちら様です?」

「この人はギルド協会のリーダーを務める人だ。俺も話したことは無いけど……」

「ほうほう、それはそれは」


 ヒソヒソと耳打ちしてくるリアに対して俺も小声で返す。


「お初にお目にかかります。私、王都のギルド協会長を務めます、キールと申します」

「……初めまして。アリウス・アルレインです」

「リアでっす!」

「アリウスさんにリアさんですね。よろしく」


 挨拶を交わしキール協会長はうんうんと頷いている。

 そうして、ギルド協会の方に向かうよう俺たちに促してきた。


「このような所で立ち話もなんですから、私の執務室にご案内しますよ」


   ***


「先程申した通り、事情はお聞きしました。お二人にはご迷惑をおかけしました」

「いえ、キールさんが謝ることでは……。俺の方こそ騒ぎにしてしまってすいません。だから、頭を上げてください」

「ふふ。恐れ入ります」


 応接用のテーブルを挟んで向こう、キール協会長は笑いながら顔を上げる。


 王都のギルド協会長という権力者なのに驚くほど腰が低い人物のようだ。

 俺が元いた《黒影の賢狼》のギルド長レブラと年は同じくらいに見えるのに、えらい違いだった。


 ギルド協会といえば各ギルドを取りまとめる機関。

 言うなればギルドよりも上の立場に位置するのだが、その組織の長に頭を下げられるというのはどうにも落ち着かない。


「アリウスさんに絡んでいた三人は、ここのところ協会でも粗暴な行動が目立っていたのです。ここだけの話、懲らしめていただいて助かりましたよ」

「はは、そうだったんですね」

「先程の戦闘も途中から拝見しました。アリウスさんは相当なお力をお持ちのようですね」

「ふふーん、アリウス様は最強ですから。あんなおデブちゃんたち、余裕ですよ」

「こらリア。そんなに持ち上げるな」


 得意げな表情を浮かべるリアと落ち着かない様子の俺を見て、キール協会長は微笑ましいものを見るように微笑を浮かべている。


「ところで、本日は我がギルド協会にどういったご用件で?」

「実は、新しくギルドを設立したいと思いまして」

「ギルドを……?」

「はい」

「……」


 何か思うところがあっただろうか?

 キール協会長は少しだけ考え込むように顎へと手を添えている。


「失礼ですが、アリウスさんは《黒影の賢狼》に所属していたのですよね?」

「はい、そうです」


 俺の噂はキール協会長の耳にも入っていたらしい。

 外れジョブを授かってエリートギルドを追い出された落ちこぼれ。

 もしやそういうやからはギルド設立に相応しくないとかあるんだろうか。

 他のギルドに加入を申請しても門前払いが続く状況だっただけに不安だ。


「もしかして、ギルド設立が認められないとか……」

「ああいえ、心配させてしまってすいません。アリウスさんがギルド設立をすることに問題はありませんよ」


 キール協会長の言葉に俺はホッと胸を撫で下ろす。


 リアが預言した、今年の暮れに現れるという漆黒の竜。

 それに対抗する勢力を作るために、そして病弱な妹を助ける治療費を稼ぐために、俺はギルドを設立する必要があった。


「設立に問題はないのですが、個人的にお願いしたいことがありましてね」

「お願い? 俺にですか?」


 キール協会長はコクリと頷く。

 そして、実ににこやかな笑みを浮かべて言った。


「アリウスさん、これから私と手合わせしていただけませんか?」

「え? キール協会長、と……?」

「はい、是非に。アリウスさんの実力を直に感じてみたいのです」


 笑うキール協会長とは対象的に、俺の顔は引きつっているだろう。


 王都にいてキール協会長の強さを知らぬ者はいない。


 今でこそギルドを管轄する立場にいる人だが、王都でも五本の指に入る強さだと噂されていた。

 先程の男たちが少し凄まれただけで逃げていったのもそのためだ。


 そんな人が俺と戦いたいと言っている。

 普通であれば誰もがやめておけと止めるだろう。


 ――けれど……。


 俺は膝の上に置いた手を少しだけ強く握る。


「アリウスさん、どうでしょうか?」

「……分かりました。よろしくお願いします」


 そうだ。

 これから大災厄の魔物と戦おうってのに、こんなところで尻込んではいられない。


 決意した俺を見て、隣にいたリアが優しく笑っていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る