珍光花火

Taike

田中アレクサンドロス太一

 俺の友人は超ド級のアホである。何か別の言葉を使って説明したくなるくらいアレな人間なのだが、とにもかくにも、信じられないくらいアホなのである。


 ヤツのアホ伝説は、例を挙げれば枚挙にいとまがない。


 この間2人で帰り道を歩いている時のこと。『ウンコ雲! ウンコ雲!』と言いながら友人が空を見上げていたので視線を辿ってみたところ、その先にあったのはうろこ雲であった。


 また、『ウチの庭でスイカ割りしようぜ!』と誘われてヤツの家に行ったこともあるのだが、俺が家に着いた時には既にスイカが無くなっていた。友人曰く、『ガハハ! 悪い悪い! 氷水に浸してるスイカ眺めてたら、なんか待ちきれなくなっちまったわ! お前が来る前に全部食っちまった!』とのこと。スイカ割り用の木製バットで殴ってやろうかと思った。


 他にも団扇で鬼灯(ほおずき)の実を叩き落として『ヘイ! 俺の勝ちぃ!』と植物に向けて謎の勝利宣言をしたこともあるし、『風鈴はリンリンうるせえし、蝉はミンミンうるせぇ!』と言いながら風鈴を破壊したこともある。


 まあ、それはそれは、とにかく世界がひっくり返るレベルのドアホ。それが俺の友人なのだ。


 そして......今年の夏も、やはりヤツのアホっぷりは健在であった。


 というのも--




「なあなあ、女の子のパンツ見ながら花火見たらスゲェ興奮すると思うんだよ! つーわけで、今日の夏祭り一緒に行こうぜ!!」


 盆休みに入った途端に、こんなワケの分からない電話を俺に寄越してきやがったのだ。


「えっと......なに? もっかい言ってくんない? 今お前何て言ったの?」


「女の子のパンツを見ながら花火を見たい」


 暑さで頭が湯立っちまったのか?


「いや、なんでパンツと花火が結びつくんだよ。つーか、そこから『夏祭り行こうぜ!』に繋がるのもよく分からん」


「え? だって花火ってスゲェし、興奮するじゃん?」


「まあ、そうだな」


「そんで、女の子のパンツ見えた時も興奮するじゃん?」

 

「まあ、そうだな」


「だったら女の子のパンツ見ながら花火見たらスッッッゲェ興奮するんじゃないかなって思ったんだよ」


 なんでその2つをくっ付けちゃったの?


「えっと......まあ、理屈は分かったよ。いや、分かったわけじゃないが、とりあえず言い分は理解した。で? なんでそこから『夏祭り行こうぜ!』になるわけ?」


「いや、夏祭りで女の子ナンパするじゃん? んで、成功するじゃん? んで、スカートめくってもらいながら一緒に打ち上げ花火見るじゃん? それで俺の目的も達成されるワケじゃん!」


 頭の中がお花畑なのかな?


「いや、なんでナンパが成功する前提なんだよ。お前女の子にモテたこととか無いだろ」


「フッ、そこは夏の魔力と俺の魅力でなんとかするさ。ナンパは1000%成功する。心配はいらない」


「え、マジでその自信はどこから出てくんの? 頭の回路バグってんじゃねぇの?」


「............セイッ!」


「おい、どうした。いきなり大声なんか出しやがって」


「いや、ちょっと腕に蚊が止まってな。叩いて殺した時に少し叫んでしまった。で、なんの話だったっけ?」


 電話切るぞコノヤロウ。


「......まあ、とにかく俺から言えることは1つだけだ。お前は絶対に夏祭りには行くな。今日は1人で手持ち花火でもやってろ。お前の家の庭は広いんだしスペースはあるだろ」


「ん? 『お前の家の庭はヒロインだし』ってどういう意味だ? 俺は庭に欲情するほど飢えてはいないぞ? はっはっは、なーにを言ってるんだオマエは!!」


 なんだろう。電話越しだけど、今ならお前を直接殴れそうな気がしてきたよ。


「はぁ......いや、マジでお前ホント夏祭りには行くなよ。ナンパもするな。マジ迷惑になるから」


「ムッ、そこまで言うか時貞(ときさだ)よ」


 ちげぇよ。俺は寛太(かんた)だよ。時貞って誰よ。


「まあ、アレクサンドロス家の長男である俺と貴様の仲だ。今日は自分の家で大人しくするとしよう」


「だからアレクサンドロス家ってなんなんだよ。お前田中太一だろ。純日本人だろ。割とオーソドックスな大和ネームだろうよ」


「うーん、しかし夏祭りに行けないとなると、俺が女の子のパンツを見ながら花火を見るためには、『自分で女性用下着を履き、その状態で自分の股下で手持ち花火をする』という方法しか無いな」


 やめとけ。手持ち花火に失礼だ。


「では時貞よ。俺は今日はこの辺で失礼する。良い盆休みを過ごすのだぞ」


 そう言い残すと、アレクサンドロス(田中太一)は俺の返答を待たずに一方的に電話をブチ切って通話を終えた。


「......なんで俺ってアイツと友達やってんだろ」



〜その日の晩〜


 消灯してベッドの上に仰向けになり、目を閉じようとすると、枕元に置いていたスマホが鳴動した。十中八九"ヤツ"からのメッセージだろう。無視したらそれはそれで厄介な展開になりそうだ。面倒だが、ここは寝る前に一度返信をしておくとするか。


 そう考えた俺は、少々眠気を感じつつもメッセージアプリを起動し、ヤツとのトーク欄を開いてみる。








【田中太一: 股下花火やってみたら、チ◯コに燃え移ってやけどした。死にたい】


 お前マジでやったのかよ。

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珍光花火 Taike @Taikee

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