第31話 氷竜

 ガラガラと音を立て崩れゆく中も見えない程深い青色を湛えていた氷の中から現れた竜は、ルシィーナ達の何倍ものある巨躯を微動だにさせず氷の山の中に埋もれていた。


「これが、竜……!!私達の、旅の目標!」


「すげぇ…………だが、寝てる……のか?」


「寝とる……な。なら、今の内に──────」


 そんな竜の纏う神々しいとも言える雰囲気に圧倒されつつも、この千載一遇とも言える隙を逃すまいと飛びかかろうとしたカナイロをノートゥーンが手を横へ伸ばして防ぐ。


「何をっ!」


「竜と戦えるのは、竜だけだよ。手出しは控えた方がいい」


「せやけど……!」


「だからこそ、僕に任せてよカナイロ。さて……『起きたらどうだ』


「鳴き……声?」


『……領域への侵入は感じていたが、まさか我を尋ねて来た者が五竜でも、ロンやセイ、ヨルム。そして裏切り者でもなく、新たな同胞とはな』


『同胞……ね。お前は?』


『我はドライグウィバー。新たなる竜よ、何用で貴様は此処へと来た』


『僕はノートゥーン。あるべき物をあるべき元へと返すべく、此処へと来た』


『あるべき物をあるべき元へ……その言葉、聞くのは数千年ぶりか。無垢なる竜よ、貴様の権能はなんだ』


『変化と進化、多様性と新たな可能性を生み出す力』


『そうか……それで、か……わかった。無垢なる者よ、十六番目の力を司りし竜よ。そして、与えられた理に背く反逆の徒よ。世界の力の管理を任された者として、十六の竜が一つとして……我が力が欲しくば、成すべき事を成すならば、この首討ち取ってみよ』


 何度かのノートゥーンと竜の鳴き声でのやり取りの後、氷に埋もれていた竜は起き上がると、一際大きな鳴き声と共に翼を大きく広げ氷を吹き飛ばし、その余波でノートゥーン以外の四人は大きく仰け反らされる。

 それに対し、ノートゥーンは翼を目一杯広げて地面を砕く程強く尻尾を叩きつけると手や足翼を大きく変化させ、更にそれを巨大化させ、純白の巨竜へと変化すると大きく口を開け──────


『元よりそのつもりだっ!』


 大きく一鳴きし、その大きく開けた口で挨拶と言わんばかりに竜、ドライグウィバーの首元へと噛み付く。

 そしてその攻撃を受けたドライグウィバーは翼でノートゥーンの腹を殴り、その威力で思わず口を開けたノートゥーンを尻尾で弾き飛ばす。

 その一撃で距離を取られたノートゥーンが体制を立て直そうとしたが──────


『んなっ?!』


 足元が濡れた氷だった為ズルっと足を滑らせ、大きく体制を崩してしまい、再度体制を立て直そうとした所で巨大な氷が落ちて来て生き埋めになってしまう。


(ノーちゃん!)


(来るなっ!巻き込む!)


 短くルシィーナの飛ばして来たテレパシーにノートゥーンはそう返すが早いか、氷塊を翼で押しのけると滑り止めにと生み出された鋭い棘のついたノコギリ状の爪を使い、ドライグウィバーへと近づくとその爪で切りつける。

 だがその攻撃はドライグウィバーの硬い鱗に阻まれダメージを与える事は出来なかった。しかしながら最初の噛み付きで鱗の硬さを理解していたノートゥーンは弾かれた腕を蛇の頭へと変化させ、首元へと巻き付け噛みつかせる。


「妹ちゃんっ!やっぱりウチらも手伝った方が──────」


「ダメだカナイロ!俺らがあの戦いに首を突っ込んでも死ぬどころか、嬢ちゃんに庇われるだけで邪魔にしかならん!あの戦いは人間の力じゃ無理だ……!」


「そんな……な、なぁ!シィーナは何か手伝えんの?!」


「……ダメっ。思ったよりも消耗しててあの竜に通じる程の大魔術が打てない。それに、もし打てたとしてもそんな大魔術、ノーちゃんまで巻き込んじゃう」


「……となると、本格的に俺達がここに居ても仕方ない訳か。なら、早い所ここから離れよう」


「……なんや、逃げろっちゅーんか。ウチらのために戦うあの子を置いて、ウチらだけ逃げろっちゅーんかバギー!」


「そうじゃない!落ち着けカナイロ!単純に戦力にならない俺達がここにいてもあのお嬢ちゃんの邪魔になるだけだ、だから一旦離脱するが常に戦況を見て援護できる時に全力で支援する。それが今俺らに出来る唯一の事だ」


 ノートゥーンの攻撃がドライグウィバーに効かない中、一方的にやられているノートゥーンを見て何とか助けられ無いかと掴みかかってきたカナイロにバギーはそう言い宥める。

 そしてそれを聞いたカナイロは悔しそうにしながらもその指示に従い、バギーを先頭に広間から離れ、それを見送ったノートゥーンはドライグウィバーに食らいつかせていた蛇に変化させていた右手を離し距離をとる。


『さて、これで本気を出せるってもんだ』


『ほう?今迄はあの者達を気にして力を出して居なかったとでも?貴様の権能は「突然変異」、体を変化させるのが関の山だろう?』


『ま、言ってしまえばそうなんだけどね。でも「原型」から外れさえすれば──────可能性は、ある!』


 変異の際に生まれた熱で出来た蒸気に覆われたノートゥーンは、一際大きな咆哮と共に蒸気を吹き飛ばして異形と化した姿を顕にする。

 その姿は翼膜の消えた軸が剣の様になった翼に蛇のように長くしなる体、ノコギリの様な巨大な爪が生えた強靭な獣の腕と足、そして先端がハンマーの様になった尻尾を持っていた。


『さぁ、ここからが本番だ!』

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竜を求めて三千里!〜少女と竜の異世界漫遊記〜 こたつ @KOTATU64

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