第9話 旅立

「おぉ、銅縁だ……!」


「あの、本当に良かったんですか?1回の依頼達成でランク上げて貰っちゃって」


「一国の滅亡の原因を突き止めた事、それは大きな功績ですよ。スターターズからサーティアに昇格しても問題はありません」


 あの後、無事冒険の聞き取りが済み、カウンターにて二人は報酬の受け渡しとして情報精査員の女性から胴縁がついた自分の冒険者証を貰っていた。


「正直、一気にセカンダンターに上げてもいいんですが、まぁ経歴不足ですね。これから積み重ねて実力を示せば自然に上がりますよ」


「なら、がんばらなくちゃね。ノーちゃん」


「うん、頑張る。頑張ってあのオッサン追い越す」


「お、なかなか野望のある妹さんですね。でもファーステッドは未開の地の発見やら巨大種の討伐やらと結構実力が要求されるんですよ」


「つまり実はハグラァドさんは腕の立つ冒険者……なんてレベルじゃないんですね」


「そういう事になりますね」


((とてもそうは見えないけれど……))


「おい、今失礼な事を考えなかったかルシィーナ。それにノートゥーンも」


「「そんな事ない」ですよ」


 ふと最初に会った時逃げ回っていたハグラァドを思い出した二人は、ちらりとハグラァドの方をみてそんな事を思うのだった。

 ちなみに冒険者は五段階に分けられており、主に登録時のファーステッド、実力が認められれたサーティア、実績が着いて来たセカンダンター、そして強大な魔物の討伐や未開の地の探検を成し遂げたファーステッドに分類される。

 なお最後の一つは明らかにされた未開の地の開拓に携わる臨時の階級である為、ここに所属する事は少なくない。


「まぁハグラァドさんは本当に引退した身ですし、強さも本来の武器と条件あっての強さですから。では私はこれで」


「フォローありがとな。さて……おい2人共、これからどうするつもりだ?」


「どうするつもりって聞かれても……そりゃあ」


「竜を探す旅に戻るだけです。それが私達の目的ですから」


「それに、今回の冒険で竜の因子を取り込めたからね。力を感知できふようになったお陰でまったく手掛かりのない旅って訳じゃ無くなるよ」


「そうか」


「ただ……コルド・ア・カルドの子供達、あの子達だけが気がかりなんですよね」


 ハグラァドの質問にルシィーナはこれからどうするかは決まっているものの、そう心残りを話す。


「ウィーギンティーさんとの約束は果たせたけれど、本当の意味であの子達を助けられた訳じゃないですから」


 助けた者には助けた者の責任が伴う、最後まであの子達の面倒を見る責任が私にもあるはずなんだから……


「成程な……よし、分かった。なら俺があのガキ共の面倒を見てやろう」


「え?」


「なぁに金なら幾らでもある。それに、そっちの道のプロにもアテがあるから……」


「い、いえ!そうではなくて……いいんですか?」


「いいもなにも、今回の一連の出来事の元凶は俺だ。ルシィーナの事だから責任やら義務やら考えてるだろうが、今回は俺こそがそういうのを背負うべきだ」


「そうだよシィー。元はと言えばこのオッサンが跳ね箱に勝てなかったのが原因なんだから。逆に助けただけじゃなくて仕事まで手伝った報酬を貰ってもいいくらいだよ」


「ったく、容赦ねぇなぁノートゥーンは。ま、そういう事だ。お前はこいつの姉として、なんの心残りも無く竜を求める世界一の大冒険を楽しんで来い」


 ノートゥーンの頭をわしゃわしゃしてるハグラァドにそう言われ、ルシィーナは冒険の帰りを思い出す。

 力を失ったノートゥーンの代わりにノートゥーンが今まで担ってた役割をこなし、常に飄々としながらも警戒の隙をカバーしていたのは紛れもなくこのハグラァドだ。

 つまり充分に信用出来、頼り甲斐のある人物なのだ。


「話はまとまったでござるか?」


「あ、天裂さん。それにマシュウさんも」


「昇格、おめでとうございます。当初であればあの子供達は御三方が面倒を見られない場合こちらで難民として引き取るつもりでしたが、その心配は必要なさそうですね」


「あ、そうだったんですね。……ハグラァドさんよりもこっちに任せた方が良かったかも」


「おいこら」


「所で御二方、何やら竜が云々とか聞こえてきたのでござるが」


「えっ?!聞こえてました?」


「カウンター付近の目立つ場所で話してれば嫌でも耳に入るでござる。次からは気をつけるでござるよー」


「はいぃ……それであの、どのような用事で?」


「簡単な話です。次の我々の冒険の舞台、全てが止まった閉ざされた大陸こと北東の大陸コラルジハルラ、そこへと一緒に来て欲しいのです」


 上の階から降りてきた二人へルシィーナがそう聞くと、マシュウが二人へとそんな提案をしてくる。


「僕達が?」


「はい。元々我々はその大陸に行くつもりでコラルジハルラ行きの船が唯一あるこの大陸に来たんです」


「はぁ……どうする?ノーちゃん」


「僕は竜の手がかりさえ掴めればどこでも」


「そこにはドワーフが住んでる国テリアラムダがござってな、竜にまつわる伝承もあると聞くでござる」


「いく」


「食いつき早い……でもそれなら、私からもお願いします」


「その言葉を待っていました」


「跳ね箱を二人で倒す程の実力者が居て下さると我々としても心強いです」


「それに、竜を探し求めるという近代稀に見る大冒険の一幕に我らの名前も刻まれたいですからね」


 照れながらもそんな事をいうマシュウを前に、二人はなんだか暖かい気持ちになるのだった。


「あれ?私、空気でした?」


 そんな暖かな雰囲気の中、1人喋る隙も無かったエコーはそう呟いたのだった。

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