第8話 聴取
コルド・ア・カルドの最奥部に辿り着いてから早いものでもう1ヶ月が経とうかというある日の事。
片腕分の力を使い、ウィーギンティーの願いを叶えたノートゥーンが力を失った事で数日前にようやく湾岸都市に辿り着いた四人は冒険者組合へと呼び出されていた。
「どうだノートゥーン、そろそろ力とやらは戻ったか?」
「無くなった訳じゃないからね」
それに、残りカスみたいなものとはいえ分解の力を吸収出来たから少しは力も増した訳だし。
「それで、今日呼び出された理由はなんなんでしょうか?」
「なぁに、軽く話を聞かせて欲しいって事だそうだ。ところでウィーギンティーは?」
「面倒事はゴメンだとかいって昨日定期便でこの大陸出ていったよ」
「んなっ?!アイツいつの間に……というかどこにそんな金が」
「コルド・ア・カルドで拾った物を売っぱらって作ってたよ。渡るのとしばらくの生活に必要な分以上は邪魔になるって僕達にお金分けてくれたし」
「マジかよ……あのガキ共とかどうすんだ」
「それはハグラァドに任せるってさ」
「ふざけんなよアイツ!いつか見つけ次第1発殴ってやる……」
「あはははは……一応ノーちゃんも懐かれてますし、私達にも助けた責任がありますから手伝いますよ。ね、ノーちゃん」
「お姉ちゃんお姉ちゃんって慕ってくれてるし。ま、それくらいなら。僕男だけど」
「本っ当に助かる……さて、ついたな」
そんな話をする三人の前にある冒険者組合の建物は、以前来た時と違い、なんだか禍々しい雰囲気を放っていた。
そしてそんな雰囲気を感じ取ったからか、ノートゥーンは変装で生やしていた獣の耳と尻尾の毛を思わず逆立てる。
「み、みみみみなさん!なにっ、何やったんですかぁー!」
「うおぉぉぉ?!ちょっ、エ、エコー!落ち着け!どうしたんだ一体」
「落ち着けもなにも!なんでこんな、こんな辺境の地に────」
「落ち着きなさいエコー」
「セ、センパイ!」
「すいませんハグラァドさん。ウチの後輩がご迷惑をおかけしました」
センパイと呼ばれたキチッとした服装の黒髪ロングの女性は、エコーより前に1歩出るとそう言って頭を下げる。
「そちらのお嬢さん方も、突然のお呼び出しに応じて頂き感謝致します」
「「あ、はい」」
「えっと、聞いた話だともう1人大柄な男性が居たそうですが……」
「あぁすまん。そいつはちょっとな」
「ちょっと?」
「あぁ。ちょっとな」
「そうですか。まぁハグラァドさんがそう言うならそういうことなんでしょう。では皆様、御足労頂いた所恐縮ですが上の物が待っておりますので会議室の方へお願いします」
こちらへどうぞと階段の方へ通され階段を上る途中、ノートゥーンはハグラァドへと声を掛ける。
「ねぇハグラァド」
「ん?なんだノートゥーン」
「もしかしてなんだけどさ、ハグラァドって実は凄い?」
さっきもあの身なりが良いお姉さんにハグラァドさんが言うならって言われてたし。
「いやぁそこまででは無いよ。実際、あの冒険中俺なんもやってなかっただろう?」
「んまぁそうだけど……」
「ふふっ。妹さん、実はハグラァドさんは冒険者でもトップクラスの実力を持つファーステッドなんですよ」
「えっ?!」
「あのハグラァドさんが!?」
「お前もかルシィーナ……」
「ふふっ。ハグラァドさんほど力を隠した冒険者なんてなかなかいませんし、そんな反応されても仕方ありませんよ」
「まぁ元だ元。今はいいように使われてるただのオッサンだよ」
「っと着きましたね」
思わぬハグラァドの秘密に二人はそういった反応をしてしまう。
そんな二人の反応にニコニコしながらそう説明したお姉さんはそう言って少し豪奢な扉をノックする。
すると中から優しげな男の人の声で返事があり、お姉さんによって扉が開けられ、三人は中に通された。
そして二人が中に入るとそこには────
「さて、よく来てくれましたね皆様。まぁ先ずはそこの椅子に座ってお茶でも飲んでください」
「時間は多くある故、先ずはゆっくりとするでござるよ」
先程の優しそうな声色の丁寧な喋り方をするゴリマッチョの大男と、その後ろに控える独特な喋り方をする目を瞑った男がそこに居た。
しかしその2人の男を見たノートゥーンは警戒を強める。
「さて、お話を聞かせて頂くのに我々がこちらに居ても仕方ありませんし、貴女方と打ち解ける為にもそちらの席へ我々が座らせて頂いてもよろしいですか?」
「あ、はい。どうぞ。ノーちゃんもいいよね?」
「う、うん。大丈夫」
そしてそんな緊張とは無縁と言ってもいいノートゥーンの緊張してるような態度を見て、ルシィーナはどうしたのだろうとテレパシーで声を掛ける。
(ノーちゃん、大丈夫?)
(僕は大丈夫だけど……あの二人、やばいかもしれない)
(ノーちゃんがそこまで言うなんて……どれくらいやばいの?)
(あっちの言動と見た目が合ってない方の人なら逃げ切るので精一杯かな。で、奥の個性の塊みたいな細身の人は多分逃げ切るのも厳しい……かな)
(そこまでなの?!私達大丈夫かなぁ……)
(敵意は感じないし、下手な事しなきゃ大丈夫。でももし二人同時に来られたらシィーを逃がすだけでもキツいかも)
基本的にノートゥーンが自分を逃がす事を最優先にする事を知っているルシィーナは、ノートゥーンのその発言に思わず動揺を顔に出しそうになる。
「さて。それでは皆さんの話を聞く前に、先ずは我々の自己紹介をさせてもらいましょう」
「拙者は天裂。アルンダ諸島にある日出連邦の大島より来た流れの冒険者でござる。で、こっちが」
「マシュウ・ヒロコックです。元は冒険者をしておりましたが、今はここの組合長をさせて頂いております」
ニッとそう自己紹介をして二人へと笑みを向けてくるマシュウを前に、ルシィーナは──────
「これはご丁寧に。もう知っていらっしゃるとは思いますが、私はルシィーナと申します。そしてこっちが」
「ノートゥーン」
まぁ、合図もなしにきちんと名乗っただけ良しとしますか。
このマシュウさんはここの組合長だし、できるだけ失礼の無いようにしないと。
そう至って平然と、顔色一つ変えずに同じ社交辞令のような挨拶を返していた。
それもそのはず。
極北の村では他所からの人のもてなしや家で出来る仕事は女性が行っている。そしてルシィーナもその例に漏れず極北の村で外交官的な仕事をしていたからだ。
「私達は極北の村よりこちらの都市へ来る際、ハグラァドさんと出会いました。そして今回の冒険はハグラァドさんのお誘いを受けて行いました」
「ふむ、それは本当ですか?ハグラァドさん」
「あぁ、間違いねぇ」
「わかりました。では、コルド・ア・カルドで一体何があったのか、それを聞かせていただいても?」
マシュウに何があったかを聞かれたルシィーナは自分の「見た範囲の事のみ」を説明する。
「ふむ。という事は今回のコルド・ア・カルドの滅亡は地下で秘密裏に行われていた人体実験であると」
「はい」
「そしてその原因となった者は恐らく消滅しており、その証人は先日この港を発った男と君達が預かっている子供達……で、間違いないね?」
「あぁ、俺が保証する」
「……との事ですよ。情報精査員殿」
「えぇ、分かったわ。嘘偽りも無いようですし、この件は本部の方へ報告させて頂きます」
「「えっ?」」
マシュウがそう言うとルシィーナ達の後ろに控えていた、案内をしてくれた女性が突然砕けた口調でそう話す。
そしててっきり秘書だと思ってたルシィーナとノートゥーンは思わず驚いて声を上げてしまう。
「改めて自己紹介させて頂きます。私はハグラァドさんと同じ冒険者本部所属の情報精査員です。そして君達に対して如何にも組合長風に接して居たのが……」
「第二次コルド・ア・カルド調査隊、セカンダンターのマシュウ・ヒロコックです。騙すような事をして済まなかったね」
「ええっ!?組合長じゃ無かったんですか?!ってもしかしてハグラァドさん知ってました?」
「まぁな。というかそもそも、こんな危険があるかもしれない場所に組合長なんて来るわけが無いだろう?」
「それはそうですけど……んんんー!なんか釈然としないー!」
「ぷくくっ」
「なんで笑うのよノーちゃーんっ!」
「いやだって、取り乱してるシィーが珍しくて面白くて……ぷぷっ……」
「んもー!」
怒るルシィーナを前に、ノートゥーンはそう笑いを堪えるのだった。
そしてそんな二人によって気の抜けた他の人は微笑まし気にその様子を眺めるのであった。
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