第7話 真相
「案内して貰ってるから聞くけど、ここってどういう構造してるんだ?」
ノートゥーンに乗ってやってきた最下層、ランタンの光に照らされた鋼鉄の地面と様々な管が張り巡らされた天井や壁を見ながら、気味の悪い物を見ているような顔でハグラァドがウィーギンティーへとそう尋ねる。
「俺の知ってる限りだが、さっき降りた隔壁より上は一般市民の職場、つまり道具を作ったり食料を作る場所だったみたいだ」
「成程な。だがお前達人工魔人は流石に公の研究では無いんだろう?何処で研究されてたんだ?」
「さっき言っただろ。あの水溜まりの下は隔壁。その下の隠された場所、上位市民である研究者共の仕事場が俺達の研究されていた場所だ。所で、あいつらは何やってんだ?」
「あぁ、あれか。こんな場所でも女の子の着替えを男が見える様には絶対にしないらしい」
「なんだそれは」
この街の構造について話し合っていた男二人は一体どこから出したのか、大きな布の仕切りの前でこちらを見張るルシィーナを遠目に見ながらそう話すのだった。
「僕は別に裸とか見られても大丈夫なんだけど……」
「結婚前の女の子が男の人に裸を見られたらいけません!お姉ちゃん、ノーちゃんがどう過ごそうが口を出すつもり無いけど、こればっかりは絶対許さないからね!」
「なら着替えも口出さないでよ……まぁいいや、それで実験とかがあってた場所に続く道がこの蓋の下に?」
「そうだ。とはいえこの下はそこまで広くない。さっさと目的地の奥底には辿り着けると思うぞ」
「んじゃ、さっさと行くとするか。開けるぞ」
ようやく着替え終わり布の向こうからノートゥーンが出てきたのを見てからハグラァドがそう言ってハッチを開けると、そこには────
「なに……これ……」
「これが竜の力って奴なのか……?ウィーギンティー、お前達はこんな場所から?」
「いや、俺とガキ共がここから出た時はこれ程じゃ無かったはずだ……っておい!何火ぃー消してんだよ!」
「消してねぇよ!勝手に消えたんだって!」
床や壁、天井のパイプや金属製の壁が錆で穴だらけになっている光景を前に思わず息を飲む三人の後ろで、さっきまでついていたランタンの火が突然消えたのを見てノートゥーンは一体何が起こっているのかを理解する。
そしてこの環境からルシィーナを守るべく片腕を千切り、それを半透明状の布にして被せる。
「ノ、ノーちゃん?!これっ」
「気味悪いかもしれないけど大人しく被っててね。分解相手だとこうでもしなきゃ死んじゃうから」
「分解?それがこの現象の元凶なのか?」
「うん。ここに来るまで影響なかったから温度だと思ってたんだけど、これは間違いなく分解の力だよ」
「分解……か」
「この力が厄介な所は能力を使った本人が止めるまで本人を中心とした範囲内の物を分解し続けるってとこなんだよね。ただ……」
「ただ?」
「分解の速度が遅すぎる。隔壁のおかげで上の方は分解が遅れてる訳だけど、それにしても遅すぎる。まるで力を発揮し切れてないような……とりあえずどの道生き物は長く居れない。さっさと進もう」
ノートゥーンはそう言うと、魔法でもなく火のつかなくなったランタンの代わりに指の先を光らせると、奥へと微かな気配を頼りに先頭を切って歩いていく。
道中錆て穴の空いたカプセルのようなものや、支えが分解され壊れた機材などが転がる中、1つの区画へと辿り着く。
「ここって……」
「ん?どうかしたのシィー」
「なんかあったのか?」
「えぇ。ウィーギンティーさん、ここってもしかして貴方達が住んでた場所じゃあ……」
「ふむ、言われてみれば確かにそうだな。最も、半数は死んで残りの半数も脱出した後どこに行ったか知らんがな」
ちらりとルシィーナの覗き込んだ部屋には朽ちた石のベッド、そしていくつかの部屋には肉が分解され尽くして骨だけになったウィーギンティーと同じ人工魔人の遺体が転がっていた。
「ウィーギンティーさん……」
「同情ならいらない。それに境遇が同じなだけで仲間という訳でもない。だがまぁ……もうこれ以上実験に使われて苦しむ必要はないのはアイツらにとって良かったのかもな」
「優しいな」
「そんな事無い。ノートゥーン、人工魔人に関する施設はこの奥が実験場だ。新しい人工魔人を生み出すとしてもそこだろうからそこに何かある筈だ。何が待ち受けてるか俺にも分からないが、何があっても容赦なくやってやってくれ」
「ん、分かった」
ウィーギンティーにそう言われ、改めて覚悟を決めたノートゥーンは奥へと進みこの分解の原因である「ソレ」を見つけた。
ガラス製の台の上で蠢く「ソレ」は、歪んだ人型と言うべき物だった。
蠢く度にボトボトと中途半端に分解された肉が落ち、落ちた肉は分解の能力で直ぐに分解される。
そしてソレ自身の持つ魔人の能力か、肉が剥がれる度にその部位が治り、更に歪み異形となっていた。
「うぅっ……!うぉえぇぇっ!」
「ごめんノーちゃん、私流石に見れない……」
「ハグラァドとシィーは離れてて。無理して近づく必要は無いから。ウィーギンティー」
「俺はついて行こう。あいつは多分、隣の部屋の奴だ」
「……分かった」
コツンコツンと敢えて足音を鳴らしてノートゥーンとウィーギンティーが「ソレ」に近づくと、「ソレ」は二人に気がついたのか頭であったであろう肉塊をこちらに向けてくる。
そして────
「ゴロ……ジデ……ゴ……ジデ…………」
グチョァという音と共に小さな口が開き、声と言うのもはばかられるような音でノートゥーンとウィーギンティーにそう訴えかけてくる。
「……なぁ、ノートゥーン。お前の力でこいつを助ける事は出来るのか?」
「そういった事ができる直接的な力は僕にはないよ。でも、楽にはしてやれる」
どうやったかは分からないけれど、竜の力を名付けとか契約じゃなくて強制的に体に取り込まされた結果……って感じだからね。
取り込んでしまえば苦しみなく逝かせてやれる。
とはいえ……
「……そうか。なら、やってくれ。こいつもこれ以上、苦しむ必要はない」
「分かった」
ノートゥーンはウィーギンティーと短くやり取りすると、両手を組み合わせる。
そしてその両手を竜の口の様な形に変えて「ソレ」を飲み込み、暫くもぐもぐとさせた後、1つの赤ん坊サイズの塊を吐き出して手を元に戻す。
「僕は分解の対になる再生とか、生物を司る力はないけれど、それでも突然変異させてやる事はできる。ソレが孵化出来るかどうかは本人次第だけど、命は繋いでやったよ」
まぁ本人の意識に合わせて変わる素体に脳みそだけぶち込んだだけだからね。本当に甦れるかどうかは僕にもわかんないし。
とりあえず助けられるのに見捨てるのは寝覚めが悪いからね。
「苦しむ必要はなくても、幸せになる可能性くらいはあってもいいんじゃないかな」
「……そうか、いや、そうだな。ありがとう、ノートゥーン」
「どういたしまして。さて、そこでゲロってる二人共、元凶は取り除いたしさっさと帰ろ!」
「ほ、本当?」
「助かった……ん?ウィーギンティー、手に持ってる奴はなんだ?」
「これは……そうだな、奇跡の産物とでも言っておこうか」
ひとしきり吐ききって少しやつれたようなハグラァドにそう聞かれたウィーギンティーは、そう答え優しげな笑みを浮かべるのだった。
こうしてノートゥーンとルシィーナの初となる冒険は、後世に歴史として記される「コルド・ア・カルドの大崩壊」の真実を見つける大冒険になったのだった。
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